Analysis of Pancreatic β-cells and White adipocytes specific Ext1 knockout mice

概要

ヘパラン硫酸は細胞膜表面に豊富に発現する直鎖状糖鎖である。ブドウ糖代謝に重要な膵β細胞や白色脂肪細胞では、ヘパラン硫酸の発現が確認されているものの、その機能については依然不明な点が多い。本研究では、ヘパラン硫酸の合成酵素であるExt1を、膵β細胞特異的にノックアウトしたマウス（βExt1CKOマウス）、内臓脂肪組織特異的にノックアウトしたマウス（aExt1CKOマウス）、そしてExt1をノックアウトした3T3-L1脂肪細胞（Ext1+/-細胞）を作製した。これらマウス・細胞の解析を行うことで、膵β細胞及び白色脂肪細胞におけるヘパラン硫酸の機能を評価するとともに、インスリン分泌・感受性におけるヘパラン硫酸の役割を明らかにした。

　βExt1CKOマウスの解析では、βExt1CKOマウスにおける膵β細胞の分化・増殖能の低下が確認された。またβExt1CKOマウスでは、分化・増殖能の低下により、グルコース刺激時のインスリン分泌量が減少していた。さらにβExt1CKOマウスは、グルコース負荷試験においてインスリン不足により、血糖値が上昇していた。以上のことから、膵β細胞におけるヘパラン硫酸は、細胞の分化・増殖能を高めることでインスリン分泌を促進し、血糖値の維持に関与していると考えられた。

　続いてExt1+/-細胞の解析では、Ext1+/-細胞の分化能が低下していることを確認した。さらにExt1+/-細胞では、インスリン刺激時のブドウ糖取り込み量が減少していた。最後にaExt1CKOマウスの解析を行ったところ、aExt1CKOマウスの内臓脂肪組織では、脂肪細胞の分化能が低下していた。また、グルコース負荷試験やインスリン負荷試験を行ったところ、aExt1CKOマウスでは、インスリン抵抗性による血糖値の上昇が認められた。以上のことから、白色脂肪細胞におけるヘパラン硫酸は、細胞の分化を促進することでインスリンに対する感受性を高め、血糖値の維持に関与していると考えられた。

　本研究により、ヘパラン硫酸はインスリン分泌・感受性の両側面から血糖値の維持に寄与していることが明らかとなった。この研究成果は、将来的に糖尿病のより深い病態理解に繋がるものと思われる。