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大学・研究所にある論文を検索できる 「糖尿病マウスにおいて長期間の術前血糖管理は周術期の好中球貪食能を回復させる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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糖尿病マウスにおいて長期間の術前血糖管理は周術期の好中球貪食能を回復させる

Fujimoto, Daichi 神戸大学

2020.09.25

概要

(背景)
予定手術患者のうち約10%が糖尿病を合併しており、そのうち20%の患者において術前血糖管理が不良であると報吿されている。 血糖管理不良患者における慢性髙血糖は PI3K(phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路のシグナル伝達を阻害することでインスリン抵抗性を惹起し、さらに貪食能等の好中球機能を低下させる。そのため管理不良の糖尿病患者では創部感染のリスクが髙いと報告されている。

インスリン療法はPI3K-Akt経路のシグナル伝達低下などを回復させる。このため、術前の血糖管理は糖尿病患者の好中球機能を回復させ、創部感染の発生率を減少させるかもしれない。しかし慢性高血糖患者における術前のインスリン療法の効果について調査された研究はほとんどない。また、術前の長期のインスリン療法は手術時期を遅延させるため、特に悪性腫瘍の手術などでは問題になりうる。術前の短期のインスリン療法と長期のインスリン療法の効果について比較した研究はわずかであり、術前の最適なインスリン療法の期間は未だ不明のままである。

そこで我々は慢性高血糖の糖尿病マウスを用いて、周術期の好中球機能に対する術前の'短期インスリン療法と長期インスリン療法の効果を評価した。

(方法)
5週齢の雄性C57BL/6Jマウスに5日間連続でストレプトゾトシン(STZ: strep tozotocin) 50mg/kgを腹腔内投与φて糖尿病を誘発し、6週齢から満8週間飼育することで慢性高血糖マウスを作成した。14週齢で慢性高血糖マウスを、術前にインスリン療法を行わないNo insulin群 (n=23)、手術6時間前にインスリンを単回投与する短期群(n=24)、術前の5日間インスリンを投与する長期群(n=21)の3っの群に分けた。一方、非糖尿病群(n=22)は5週齢で溶媒のみを投与し、糖尿病マウスと同様に14週齢まで飼育した。インスリン抵抗性の指標としてインスリン効果値 (ISF :insulin sensitivity factor)を計算した。なお、ISFはインスリン投与前後の血糖値の変化を投与した中間型インスリンの単位数で除することで算出した。

手術は14週齢で4群全てに実施した。3.5%セボフルレンによる全身麻酔下で、開腹し小腸内容物を清潔綿棒で口側から肛側に移動させる腸管マニュピュレーションを行った。

好中球機能検査は蛍光マイクロビーズによる貪食試験とD C F H - D A ( 2 ’ , 7 ’ ·dichlorofluorescein-diacetate)による ROS(reactive oxygen species)産生試験をフローサイトメ トリーで術前と術後24時間に実施した。貪食率はビーズを貪食した好中球数を全好中球数で除することで算出した。またROS産生試験ではDCF (2’,7'-dichlorodihydrofluorescein)から発生される蛍光を MFKmeanfluorescence intensity)で示した。

統計解析はNo insulin群を対照として、Mann-Whitney U試験を行い、p<0.0167で統計学的有意差ありとした。また、長期群のISFはインスリン療法初日を対賄としてWilcoxon’s signed-rank testを行い、p<0.01で統計学的有意差ありとした。それ以外の比較は非ペアデータは、Mann-Whitney U 試験、ペアデータは Wilcoxon’s signed-rank test を行い、p<0.05 で統計学的有意差ありとした。

(結果)
No insulin群、短期群そして長期群のインスリン療法前の血糖値は約600mg/dLであった。周術期血糖コントロールの結果、長期群の血糖値は5日間とも200mg/dL以下に低下した。また、短期群も手術直前に200mg/dL以下に低下し、術前と術後の血糖値は長期群と有意差は認めなかった。

長期群と短期群の初日のISFに有意差はなかった(p=0.47)o長期群において、初日のISFと比較して、3日目、4日目、そして5日目のISFは有意に低下していた(各p=0.0061,0.0004,く0.0001)。

術前の食食能試験では、No insulin群と比較して短期群では有意差はなかった(p=0.87)が、長期群において有意に髙値であった(p=0.0008)。術後の貪食能試験でも術前と同様の傾向が認められ、No insulin群と比較して短期群では有意差はなかった(p=0.41)が、長期群において有意に髙値であった(p=0.0005)。

非糖尿病群、No insulin群そして短期群の好中球数は手術前後でほぼ倍増していたが、長期群においては、手術前後でほぼ不変であった。

術前の貪食試験において好中球に貪食されたビーズの総数は、No insulin群と比較して、短期群、長期群そして非糖尿病群は有意な差は認めなかiた(各p=0.084, 0.043,0.074)。しかし、短期群と長期群には有意差があった。術後の食食試験において好中球に貪食されたビーズの総数においてもNo insulin群と比較して、短期群、長期群、そして非糖尿病群では有意な差は認めなかった(各 p=0.84, 0.43, 0.021)。

術前のROS産生試験でMFIはNo insulin群と比較して、短期群、長期群は有意な差は認めなかった(p=0.9, 0.059)。一方で、No insulin群は非糖尿病群よりも有意にMFIは髙値であった(p=0.0043)。術後のROS産生試験ではMFIはNo insulin群と比較して、短期群、長期群、そして非糖尿病群は有意な差は認めなかった(それぞれp=0.78, 0.64, 0.026)。

(考察)
本研究では8週間の慢性髙血糖により貪食能が約40%低下した。さらに、手術侵襲によるストレスで全てのグループにおいて20-40%の貪食能の低下を認めた。慢性高血糖による貪食能の低下は術前5日間のインスリン療法により、非糖尿病のグループと同程度まで回復した。長期間のグループと短期間のグループにおいて、術直前と術後24時間の血糖値に有意差はなかったが、貪食能に違いが認められた。

本研究において、短期群では貪食能が改善せず、長期群では貪食能が回復したことについて理由がいくつか考えられる。慢性髙血糖によるPI3K-Akt経路のシグナル伝逹低下は好中球食食能活性の抑制と関連することが報告されている。また、PI3KAkt経路のシグナル伝達低下はインスリン抵抗性の悪化と関連しているが、これはインスリン療法により回復する。本研究では3日以上のインスリン療法によりISFが改善していた。この結果は、PI3K-Akt経路を含む様々なメカニズムによって生じるインスリン抵抗性の改善には、一定期間のインスリン療法が必要であることを示唆している。PI3K-Akt経路はインスリン抵抗性と好中球貪食能の両方に関与しており、これらのことが我々の研究において長期群でのみ好中球貪食能が改善したことの説明の一助になるかもしれない。

マウスの骨髄では骨髄芽球が成熟好中球に分化するまで5日間必要とされる。成熟好中球は2週間骨髄で貯蔵され、血中に放出される。そして6時間で寿命を迎える。髙血糖は骨髄中の糖濃度にも影響を及ぼすので、5日間のインスリン療法は骨髄での成熟好中球の成長環境を改善し、好中球貪食能を改善させるのかもしれない。ヒトにおいては、インスリン抵抗性の改善に強化インスリン療法を2-3週間必要とすると報告されている。上記仮説のようにインスリン抵抗性が好中球貪食能に関与しているならばヒトにおいては約2-3週間の血糖コントロールの期間が必要かもしれない。

我々の研究では、好中球の貪食率を食食活性の指標とした。長期群ではNo insulin群と比較して術後24時間の貪食率の有意な改善を認めた。これは術後の好中球1個あたりの貪食の「効率』は長期群でより良いことを示唆している。No insulin群、短期群における好中球カウン卜は術後に術前値の2倍になっていたが、長期群では変化していなかった。従って、長期群の好中球に食食された全ビーズの数は、No insulin群と短期群と有意差はなかった。No insulin群、短期群における好中球の増加は貪食効率の低下に対する代償反応であり、これが結果的に4祥間で術後の貪食したビーズの数が同じになった理由かもしれない。

本研究にはいくつかの制限が存在する。1つ目は術後のインスリン療法を継続しなかったことである。2つ目は肥満やレプチンの異常が免疫に及ぼす影響を避けるためにSTZ投与で糖尿病を誘発していることである。2型糖尿病の患者が多いことを考慮すると、さらなる研究で2型糖尿病モデルに我々の結果を一般化できるかを評価するべきである。3つ目は術後の評価タイミングとして術後24時間を選択したことと、手術モデルとして腸管マニュピュレーションを選択したことである。異なるタイミング、異なる手術操作を行えば結果が異なるかもしれない。4つ目は開腹を行うが腸管は操作しないモデルや全身麻酔のみのモデルを置かなかったことである。今後の研究では腸管操作、腹部切開、全身麻酔の影饗を評価する必要がある。最後に、本研究では細胞内シグナリングにおける髙血糖やインスリンの影饗を評価していないため、その評価が今後の課題と言える。

(結論)
8週間続く慢性高血糖モデルにおいて、術前6時間のインスリン療法では術前術後の好中球食食能は改善しなかったが、術前5日間のインスリン療法では術前術後の好中球貪食能は回復した。

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