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好中球・リンパ球比の時系列変化は非小細胞肺がんの治療効果予測マーカーとして有用である

Kiriu, Tatsunori 神戸大学

2021.03.25

概要

[背景と目的]
 がん免疫療法は、進行した非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer: NSCLC)に対する新しい治療戦略である。ニボルマブやペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体は、PD-L1がPD-1に結合するのを阻害することでPD-1を介するシグナル伝達を阻害し、T細胞の活性化と免疫系の認識を可能にする。
 プラチナ併用化学療法既治療の進行NSCLCに対してニボルマブとドセタキセルを比較した第III相試験では全生存期間(overall survival: OS)の改善やニボルマブ治療によって持続的な臨床効果を示す患者が報告されている。しかしながら、ニボルマブ治療における無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)曲線は、治療開始後数ヶ月間は重なり合っており、かなりの数の患者が最初から治療に反応しないことが示されているため、これらの治療では非奏効者を迅速に見つける必要がある。我々の臨床上の課題は、ニボルマブ治療中にいかに早期に奏効者と非奏効者を見分けるかということである。
 好中球/リンパ球比(neutrophi1-to-lymphocyte ratio: NLR)や血小板/リンパ球比(platelet-to-lymphocyte ratio: PLR)などの血液ベースの炎症性パラメータは、固形腫瘍の予後を予測することが報告されている。ニボルマブ単剤療法において治療開始前NLR≦5が生存期間の改善と関連していることが報告された。治療開始前NLRは患者を層別化するのに有用であるが、ニボルマブを継続すべきかどうかを判断するための予測バイオマーカーはまだ不明である。
 ニボルマブは免疫学的状態を修飾することから、時系列変化が腫瘍反応を反映しているのではないかと考えた。これまで治療中のNLRの時系列変化に着目した報告はなかった。本研究では、プラチナ併用化学療法既治療のNSCLC患者において、NLRの時系列変化がニボルマブ単独療法の効果を予測するマーカーとなるかどうかを検討することを目的とした。

[対象と方法]
 神戸大学医学部附属病院で2015年12月から2017年3月までに組織学的または細胞学的にNSCLCと診断され、ニボルマブ単剤療法を受けた連続する患者20名を対象に、電子カルテのレトロスペクティブレビューを行い、データを収集した。ニボルマブは3mg/kgを2週間ごとに1サイクルとして静脈内投与した。NLRは好中球数をリンパ球数で除したものと定義した。NLRの時系列変化を評価するため、治療3〜5週前、各治療サイクルの1日目に測定した血液検査結果を用いた。1サイクル目または2サイクル目終了時点で、NLRが30%以上増加した群とNLRが安定または減少した群の2群に分けた。
 OSは治療開始日から何らかの原因で死亡した日までの期間と定義し、生存患者は最終フォローアップ時に打ち切った。PFSは治療開始日から進行までの期間と定義し、RECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)バージョン1.1、または臨床検査または死亡に基づき、画像検査で証明された期間とした。TTF(time-to-treatment failure)は治療開始日から疾患の進行、死亡、治療中止、または新たな抗がん剤治療の開始までの時間と定義した。生きていて進行がなかった者は、最終フォローアップ時に打ち切った。
 このレトロスペクティブ解析は、神戸大学医学部附属病院の施設審査委員会によって承認され、すべての患者から治療を受ける前に包括的な書面による同意を得て実施した。

[結果]
 20名の患者のうち、術後化学療法後の再発で初回化学療法として治療を行った1名を除外し、19名を解析対象とした。治療サイクルの中央値は3であった。全奏効率は26.3%であった。
 0S中央値は10.8ヶ月であった。持続的な臨床効果は、重篤な毒性のためにニボルマブ単独療法を中止した患者を含めてPRまたはSDの奏効を示した患者で観察され、PD症例では0Sが有意に短い結果であった(p=0.002)。
 治療前NLRの中央値は3.5であった。NLR>5はNLR≦5と比較してOSの短縮と有意に関連していた(p=0.016)。しかし、NLR>5においても一部の患者で治療効果が認められたが、NLRS5においても一部の患者で治療効果が認められなかった。NLRは既報のとおり予後マーカーとして有用であるが、ニボルマブに対する奏効者と非奏効者を区別するには限界があることが示唆された。
 治療3〜5週間前にNLR>5の患者は1人のみだったが、治療前にNLR>5の患者は6名に増加した。NLRは動的に変化しており、病状を反映していることを示唆している。PDや毒性による治療中止前のNLRは、PD7名中5名および毒性中止4名の全てで治療前と比較して上昇していた。NLRが30%以上増加した群はNLRが安定または減少した群と比較してPFSに有意な差は認めなかったが、TTFは1サイクル目、2サイクル目ともに有意に短かった(p=0.014、p<0.001)。

[考察]
 先行研究では、NLRの上昇は様々な種類の癌の予後不良と関連していることが報告されている。NSCLCにおいてもNLRの閾値がいくつか提案されており、これらの閾値の実際の多様性を決定するためには、さらなる研究が必要である。
 PD症例は非PD症例に比べてOSが短いため、PD症例を早期に発見することが重要である。したがって、NLRが30%以上増加した症例は、疾患の進行や重篤な有害事象を早期に発見し、次の治療に切り替えるタイミングを逃さないために役立つ可能性がある。以上の結果から、NLRの経時的変化は免疫療法における治療効果予測マーカーとして有用である可能性が示唆された。
 インターロイキン(interleukin:IL)-17産生T細胞はC-X-Cモチーフのケモカインを放出して好中球を遊走させ、NLR上昇を誘導するとともに、腫瘍随伴マクロファージ(tumor-associated macrophage: ΤΑΜ)への分化を促進すること、NLR上昇はIL-17産生Τ細胞やΤΑΜ比よる炎症性腫瘍微小環境を介して、腫瘍の進行や抗腫瘍効果を持つΤ細胞の枯渇と相関することが報告されている。IL-17Aの阻害は、腫瘍内のΤ細胞のバランスと他のサイトカインの発現を変化させた。マウスモデルにおいてIL-17Aの増加はサイトカインやケモカインを介した炎症を促進し、腫瘍の進行を促進することが示唆されており、IL-17AはPD-1抗体に対する抵抗性のメカニズムの一つとして関与している可能性が示唆されている。NLRの経時的変化は間接的にニボルマブに対する抵抗性を示していると考えられる。
 進行NSCLCの初回治療としてペムブロリズマブを用いた第III相試験の結果では、プラチナ製剤を用いた化学療法と比較して、患者の0SとPFSが改善したことが示され、PD-L1発現が強力なバイオマーカーとなりうることが示された。マウス22C3抗ヒトPD-L1抗体を用いたPD-L1免疫組織化学アッセイは、日本ではペムブロリズマブに反応する可能性の高い患者を選択するために承認されているが、PD-L1高発現であってもペムブロリズマブに反応しない患者がおり、免疫療法の治療効果を予測する新しいマーカーを同定することは、臨床医にとって重要な課題となっている。
 我々の研究は単施設、後方視的検討、少人数、患者背景の偏りから、結果を一般化することが難しいという限界がある。また、PD-L1測定しておらず、NLRとPD-L1の相関を検討することができなかった。ニボルマブ治療の初期段階では、治療開始早期の免疫状態に注意を払うことで、奏効者と非奏効者を区別することができる可能性が示唆された。今後の研究では、サイトカイン発現やNLRの時系列変化の有用性についてさらなる検証を行う予定である。

[結論]
 NLRは予後マーカーとしてだけでなく、ニボルマブ単剤治療の治療効果予測マーカーとして有用であることが示唆された。NLRの経時的変化は、疾患の進行や重篤な有害事象による治療中止を早期に発見するための有効なマーカーとなる可能性がある。

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