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敗血症は、集中治療症候群モデルマウスにおいて身体的および精神的障害を引き起こす

藤浪, 好寿 神戸大学

2022.03.25

概要

【概要】
救急・集中治療領域は、補助循環・呼吸器の改善・標準化のための技術革新やガイドライン、教育プログラムの標準化・充実により、過去四半世紀の間に目覚ましい発展を遂げてきた。その結果、集中治療室(ICU)患者の短期的な予後は劇的に改善されてきた。しかし、敗血症を含む重症患者の長期的な予後や生活の質については、まだまだ改善の余地がある。この長期的予後の表現型として、身体的障害、認知障害、精神障害が挙げられており、これらの症候を特徴とする病態は「集中治療後症候群(Post Intensive Care Syndrome: PICS)」と表現され、近年注目を浴びている。

ICU 生存者を議論するうえで、敗血症が代表的疾患となる。毎年、1,900 万人以上が敗血症を発症し、さらに、約 1,400 万人が退院まで生存するが、その予後はさまざまである。患者の 3 分の 1 は 1 年以内に死亡し、6 分の 1 は重度の持続的障害を呈すると言われている。実際に、患者の 3 分の 1 は半年後に自立した生活に復帰できていない。これほどまでに、ICU の長期予後の重要性が唱えられ、救急・集中治療の分野で注目されるようになったが、敗血症がどのように PICS を誘発するのかはまだ明らかになっていない。

本研究では、敗血症モデルマウスを用いて、身体的、認知的、精神的障害を同時に評価することで、治療介入を施した敗血症生存モデルがPICS モデルに発展しうることを検討した。

【方法】
敗血症生存者を模倣するために、雄の 10~12 週齢の C57/B6 マウスに他マウスの盲腸懸濁液を注入して腹膜炎型敗血症を誘導した。その後、ヒトの敗血症初期診療を模倣して、輸液療法(PBS 30mL/kg/day、皮下投与)および抗菌薬治療(メロペネム 1.5mg/body: 3g/50kg/day、皮下投与)の治療介入を行った。

敗血症導入後 1 週において、身体的評価として握力テスト(GST)およびトレッドミルテスト、認知的評価として新規物体認識テスト(NORT)、精神的評価としてオープンフィールドテスト(OFT)およびビー玉埋めテスト(MBT)を行った。すべての統計解析
は、EZR 統計ソフトウェアを用いて行った。生存率の検討にはlog-rank 検定を用い、グループ間の比較には Mann-Whitney U 検定を用いた。統計的有意性はP < 0.05 とし、結果は平均値±標準誤差で示した。

【結果】
まず、敗血症を導入するために 0.5mg/mL の盲腸懸濁液を腹腔内に投与した。その結果、敗血症後 14 日目の生存率は 73 %であった。この結果は、我々が遂行する他実験でも再現性のある生存率であった。

敗血症後の生存マウスでは、1~2 週間で GST における握力が有意に低下し、トレッドミルテストの総走行距離が減少するなどの筋力低下が見られた。また、1 週間後に NORT での新規物体接触の総数および時間が有意に減少し、短期記憶障害を示した。OFT では、運動量と、中心部にいる時間が有意に減少し、無動時間が増加した。さらに MBT では埋まったビー玉の数が増加し、不安感や活動性の低下が見られた。このように敗血症後に生存したマウスは、身体的、認知的、精神的な障害を示した。

【考察】
敗血症マウスでは、筋力低下、短期記憶障害、不安感、活動性の低下などが観察され、身体的、認知的、精神的な障害を特徴とする PICS 様症状を示していた。

この研究では,1~2 週間でマウスに PICS 様症状が観察された。マウスの老化速度はヒトの 30 倍であり、単純に比例関係ではないと推察されるが、ヒト換算で約 30 週の観察期間であると想定して研究を計画した。ICU 退室後の患者は、PICS の症状を診断するために 3~6 ヶ月間フォローアップされるため、本研究の観察期間は PICS による障害を評価するのに妥当であると考える。

筋力低下について、臨床領域ではICU-AW(ICU-acquired weakness)として認識されており、その有病率はICU 患者の 25%以上と言われている。マウスを用いた過去の研究では、敗血症が骨格筋の乳酸放出、骨格筋の消耗、解糖、萎縮、および筋のプロテオリシスを引き起こしたり、哺乳類ラパマイシン標的の活性を損なうことによって、骨格筋のタンパク質合成を減少させると報告されている。

認知機能障害については、ICU 生還者の最大 80%において、うつや不安といった症状をもってみられるという報告もあり、PICS 患者に観察される 2 つの最も一般的な精神疾患である。考えられるメカニズムとしては、敗血症による低血圧のために脳への血液供給が低下すること、呼吸困難や障害のために脳への酸素供給が低下すること、脳の炎症、実行機能や記憶に関わる脳領域での血液脳関門の破壊などが挙げられる。

認知・精神障害について、マウスの代表的な症候群として、敗血症関連脳症(sepsis- associated encephalopathy:SAE)がある。これは、敗血症時に生じるびまん性の中枢神 経系の機能障害であり、敗血症患者の 70%以上が罹患し、死亡率の上昇や転帰の悪化と関連していることから、敗血症患者の死亡率や罹患率を改善するためには,SAE を早期に発見し,適切な介入を行うことが重要である。以前の SAE モデルマウスでは,エネルギー代謝障害は,急性全身性炎症の行動的・認知的影響を及ぼし、パーバルブミン介在ニューロンの選択的な表現型の喪失や、インターロイキン-1β,インターロイキン-18,インターロイキン-6 の発現を伴う認知障害を引き起こしていた。さらに,SAE の治療標的としては,ヌクレオチド結合ドメイン様再受容体タンパク質 3 /caspase-1 経路、CX3C ケモカイン受容体 1、C-C ケモカイン受容体 2 型+炎症性単球、ミクログリアの活性化などが挙げられる。我々は以前、浸潤したレギュラトリーT 細胞とヘルパー2 型細胞が SAE の減弱に寄与し、慢性敗血症期の神経炎症を解消することで SAE による精神障害を緩和することを報告した。本研究で敗血症マウスは、NORT において新規物体接触の総数および時間が減少したことから、敗血症に伴う短期記憶障害の可能性が示唆された。OFT では、敗血症マウスは中央部での運動量と時間が有意に減少し、さらに無動時間が有意に増加した。MBT では、マウスと比較して、敗血症マウスは埋まったビー玉の数が有意に多かったことから、敗血症が不安を誘発することが示唆された。今回我々は、ICU を代表する疾患である敗血症が、生存に至った末にどのような障害を遺すのかを、PICS の 3 要素と照合しながら確認することができた。PICS 患者は複数のカテゴリーの症状を持つ可能性があることから、これら 3 つの症状カテゴリーには、SAE に挙げられるように同一の機序が関与していることが示唆される。

このようにPICS あるいは ICU-AW は、複数の症状を呈する「症候群」であるため、動物モデルを確立した研究は少ない。Witteveen らは、大腸菌敗血症腹膜炎マウスモデルにおいて、in vivo の強度測定とミオシン/アクチンのアッセイを用いてICU-AW モデルを評価した。Illendula らは、手術、麻酔、集中治療環境がマウスの行動(注意、記憶、思考の整理)に障害を与えることを報告しており、これにより周術期せん妄の臨床的に適切なマウスモデルを確立することができた。これらのモデルはヒトに類似した PICS 症状を示したが、いずれのマウスモデルも気管挿管や人工呼吸はされていなかった。今回の研究においても気管挿管や人工呼吸は行わなかったが、PICS の成因には、敗血症のような疾患だけでなく、気管挿管や人工呼吸、鎮静薬の使用や長時間の無動化など、医原的要因が混在する。そのため、今回のモデルは、臨床現場の PICS を完全に再現するものにはなり得ず、これが現時点で研究の限界のひとつと言える。

この研究にはその他いくつかの限界がある。第一に、本研究では限られた行動評価しか行っていない。本研究では、5 つの行動テスト(GS テスト、トレッドミルテスト、NORT、 OFT、MBT)を実施したが、今後の研究では、認知機能障害を評価するためのY 迷路テストや Morris 水迷路、精神機能障害を評価するための強制水泳テストなど、複数のテストを追加することを提案する。このような追加検査を行い、3 要素を明確に評価できたのちは、上述の医原性因子(気管挿管や人工呼吸、鎮静薬の使用や長時間の無動化など)を単独あるいは追加で導入し、PICS 症状を追求していくことが求められる。

【結語】
敗血症生存マウスは身体的、認知的、精神的な障害を呈した。運動機能、認知機能、精神状態を精密にかつ長期的に評価することで、マウス PICS モデルの確立が期待される。このモデルは、PICS の根本的なメカニズムを解明するとともに、治療標的や新たな治療法の発見につながる可能性がある。

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