リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「マウス肉芽腫のオミックス解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

マウス肉芽腫のオミックス解析

古畑, 匡規 東京大学 DOI:10.15083/0002004984

2022.06.22

概要

2018年度における日本の結核罹患率は12.3であり、近隣アジア諸国に比べて低い水準にありアメリカ、ヨーロッパなどの先進国の水準に年々近づいているが、いまだ中蔓延国である。日本の結核罹患率をさらに低下させ、低まん延化を実現するためには、潜在性結核感染症からの発病をいかに抑制するかが最大の課題であり、新しい戦略に基づいた予防、治療方法の開発が望まれている。そのためには宿主による結核菌の殺菌機構を解明することが必要である。

結核菌は細胞内寄生性細菌であり、個体に感染しても自然免疫では効率よく殺菌分解されず、適応免疫によって感染結核菌の封じ込めが行われる。すなわち、感染結核菌を中心にマクロファージが集積して、その外周をリンパ球で取り囲むことによって肉芽腫が形成される。結核肉芽腫では、リンパ球から産生されるIFN-γ、TNF-αなどの炎症性サイトカインによってマクロファージが活性化されて、感染結核菌が殺菌される。また、殺菌から回避した結核菌はマクロファージに封じ込められてしまう。しかし、結核菌の増殖が阻害されずに炎症反応が持続すると、肉芽腫の中心で乾酪壊死が形成される。乾酪壊死に存在する結核菌は、抗菌物質や低酸素によって菌数を減少させて殺菌されるが、その一部は持続感染状態に移行すると考えられている。さらに炎症反応が持続すると、最終的には空洞が生じて排菌源になる。

これまでのマウスを用いた多くの結核研究では結核菌感染によって乾酪壊死が形成されないC57BL/6、もしくはBALB/cが用いられてきた。本研究では、結核菌感染でヒトと同様に乾酪壊死を伴う肉芽腫が形成されるC3HeB/FeJを用いて、乾酪壊死を伴う結核肉芽腫のオミックス解析を行い、結核肉芽腫を形成するタンパク質、遺伝子の同定を試みた。

C3HeB/FeJマウスはJackson Laboratoryから購入し、結核研究所で系統維持を行った。結核菌は7H9培地で増殖を行い、500CFUに調整した菌液をマウスに経鼻感染させた。感染8週間後に感染肺を摘出して、FFPE化した。感染肺FFPE切片のヘマトキシリン染色を行い、乾酪壊死と細胞層とにレーザーマイクロダイセクション法によって分画した。それぞれの組織片からタンパク質、RNAを抽出して、LC-MS/MSおよび次世代シークエンサーによって、網羅的解析を行った。同定したタンパク質、遺伝子情報から、バイオインフォマティクスによって肉芽腫乾酪壊死および細胞層で特異的に発現しているタンパク質群、遺伝子群を決定した。

マウス結核肉芽腫からプロテオミクス解析によってタンパク質、トランスクリプト解析によって遺伝子の同定することができた。プロテオミクス解析の結果において、細胞層では細胞代謝の中でも特に翻訳、タンパク質分解に関与するタンパク質群や抗原提示、IFN-γ信号経路に関与するタンパク質群が増加していることが明らかになった。このことは、細胞層では肉芽腫形成時におけるマクロファージ、リンパ球などの増殖が行われ、結核菌抗原がT細胞への提示によって、IFN-γ信号経路が活性化していることを示された。乾酪壊死では炎症反応に関与するタンパク質群、好中球による免疫反応、血液凝固に関与するタンパク質群の発現が増加していることが明らかになった。このことは、乾酪壊死には好中球が浸潤し、血漿成分の凝固が起こり、持続的に炎症が亢進していることを示された。

一方で、トランスクリプトミクス解析の結果において、細胞層では翻訳などの細胞代謝に関与する遺伝子群、乾酪壊死では炎症反応に関与するタンパク質群、TNFやIFN-γ信号経路に関与する遺伝子群の発現が増加していた。プロテオミクスとトランスクリプトミクスの結果を比較した。20遺伝子が乾酪壊死において、81遺伝子が細胞層において共通して発現が増加していた。

本研究で明らかにした肉芽腫乾酪壊死や細胞層で特異的に発現するタンパク質、遺伝子は結核肉芽腫の構造を特徴づけるバイオマーカーである。以上の結果は、肉芽腫や乾酪壊死が形成されるメカニズムの解明に貢献するのみならず、特定の細胞を標的とした宿主標的治療によって、新しい結核治療レジメンの開発のための分子基盤の整備に寄与する。