Water erosion process on sloping cropland in Central Vietnam - A case study in A Luoi district, Thua Thien Hue province

概要

土壌侵食発生リスクは、一般に気候や土壌条件を反映して、地域によって大きく異なることが指摘されている。ベトナム中部はその75％が傾斜地から成っており、台風常襲地帯としての特異な気候条件にも起因して、山間地農業においては土壌侵食のリスクが非常に高い地域となっている。またベトナム山間地には生計手段の不安定な少数民族が多く居住しており、土壌侵食リスクの低減と農業生産の安定化は重要な課題となっている。本研究は、ベトナム中部トゥアティエンフエ県の中山間地傾斜畑圃場における土壌侵食発生要因および発生リスクの季節変動を解明した上で、土壌侵食発生リスクを軽減しうる圃場管理を提案することを目的として、現地圃場に設置した小スケール土壌侵食計測プロットにおける短時間水収支の解析によって得られた研究結果を取りまとめたものである。

第１章は序論であり、問題の背景を述べるとともに、土壌侵食についてこれまで行われてきた実測およびシミュレーション・モデル構築の研究をレビューした上で、本研究の必要性および目的についてまとめている。

第２章では、研究を行ったベトナム中部トゥアティエンフエ県の地理、地質、気候、植生、土壌について詳細に説明している。

第３章では、特に土壌侵食発生要因および発生リスクの季節変動を解明することを目的として、2017年～2018年の２年間にわたり小スケール土壌侵食計測プロット（幅0.8m、長さ2.4m）における短時間水収支計測を行い、その結果について詳細に解析している。裸地区、キャッサバ２月植栽区、キャッサバ４月植栽区、キャッサバ・アカシア混裁区の４処理区を設定した上で、降雨量、土壌３層位（0-15cm,15-30cm,30-60cm）の体積含水率、表面流去水量を10分間隔でモニタリングするとともに、末端で回収した侵食土壌量を計測した。これらのデータを解析した結果、表面流去水発生をもたらす要因として、10分間降雨強度と総降雨量が重要であるのに加え、雨季前半には土壌の初期体積含水率の寄与が見られた。さらに土壌侵食発生に対しては、雨季前半では実際に発生した表面流去水量が、雨季後半では10分間降雨強度が主要な規定要因となることを明らかにした。

第４章では、特に当該地域において土壌侵食リスクを回避するための圃場管理の提案（アカシア混裁および草本による土壌表面マルチ）を目的として、裸地区、キャッサバ４月植栽区（２年目）、キャッサバ・アカシア混裁区、キャッサバ４月植栽区（１年目）、キャッサバ４月植栽区（１年目・表面マルチ処理）の５処理区を設定した上で、2018年～2019年の2年間にわたり降雨量、表面流去水発生量、土壌侵食発生量について比較検討を行っている。その結果、表面マルチでは主として雨滴の衝撃による土壌団粒の破壊を防ぐことによって土壌侵食の抑制に対して顕著な効果が見られること、アカシアの混裁は２年目以降樹冠が閉じた後に土壌侵食軽減に対して有効となることを明らかにした。

第５章では、ここまで得られた結果に関する総合討論を行うとともに、土壌侵食を回避するために、1)草本（収穫残渣）マルチをキャッサバ定植時と収穫後に２回行うこと、2)アカシアを混裁する場合も、樹冠が閉じるまではマルチを行うこと、3)キャッサバの定植をできるだけ早めるか、あるいは収穫を遅らせることを提言した。

第６章では、本研究の結論を述べている。