赤色レンコンの根茎着色特性とその遺伝様式に関する研究
概要
本研究は,わが国で古くから野菜として利用されてきたレンコン(食用ハス,Nelumbo nucifera Gaertn.)において見出された根茎が赤色に着色する‘友弘’を対象として,根茎の着色特性と根茎着色形質の遺伝様式について明らかにしたものである.
まず,白色レンコン‘備中’とその突然変異によって生じた赤色レンコン‘友弘’の収量を比較したところ,‘備中’よりも‘友弘’の収量が有意に低かった.生育と根茎の形態を比較した結果,‘備中’では中期の生育が旺盛であるのに対し,‘友弘’では初期生育が旺盛であることがわかった.また,両品種で平均節間重に有意差はないが,‘備中’に比べて‘友弘’の肥大節間総数が少なく,このことが‘友弘’の低収量の要因であると考えられた.赤色レンコン品種・系統の根茎着色特性の調査により,定植後根茎が伸長するとともに種レンコン(基部)側から徐々に着色が進行し,根茎の肥大が完了する10月には先端部まで着色することを明らかにした.‘友弘’後代における根茎着色特性を調査した結果,全ての節間が赤色に着色する個体と全ての節間が白色の個体が認められ,いずれの個体でも根茎の表皮と内部の着色は同調していたことから,表皮と内部の着色は同一の遺伝子により制御されていると考えられた.
次に,‘友弘’の着色肥大根茎から抽出した色素をHPLCおよびLC-MS/MSにより分析し,delphinidin3-glucoside, cyanidin3-glucoside, petunidin3-glucoside, pelargonidin3-glucoside, peonidin3-glucoside, malvidin3-glucosideの6種類のアントシアニンが含まれていることを明らかにした.‘友弘’花弁から抽出した色素のHPLC分析においても,根茎と同じ6種類のアントシアニンが検出されたことから,‘友弘’の根茎と花弁において同様のアントシアニン生合成経路が機能していると推察された.
地上部への紫外線(UV-A)照射が根茎着色に及ぼす影響について調査したところ,8月(着色初期)では昼間照射区においてわずかに根茎着色促進の傾向が見られたが,10月(着色終期)では処理区間での着色の差は認められなかった.エセフォンが根茎着色に及ぼす影響についても調査し,10mg・L-1のエセフォン湛液処理により根茎の節数・分岐数の増加と根茎肥大の遅延を認め,根茎先端部の着色が遅れることを示した.
‘友弘’後代の根茎着色の調査により,‘友弘’の自家交配(S1)個体の根茎色は全て赤色,‘友弘’と白色根茎品種との交配により得たF1個体ではすべて白色,F1の自家交配により得たF2個体では肥大根茎色が白:赤=3:1に分離することを認め,赤色レンコン‘友弘’の赤色形質は白色が顕性(優性),赤色が潜性(劣性)の1遺伝子で支配されていることを明らかにした.F2集団を用いたRAD-seq解析により,根茎着色形質への関連が示唆される12領域のSNPが検出され,このうち4領域から作成したdCAPSマーカーについて‘友弘’ב小寿星’のF2集団を用いてスクリーニングした結果,いずれのマーカーも根茎着色遺伝子との間に連鎖関係が認められたことから,これらのマーカーが根茎着色個体の早期選抜に適用できることが明らかになった.
以上のように,赤色レンコンの根茎着色特性とその遺伝様式を明らかにできたことから,赤色レンコンの高品質栽培と効率的な品種開発を実現できることが示された.