イネの登熟期の高温により誘導される白未熟粒に関する遺伝学的研究
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Genetic studies on grain chalkiness induced by
high temperature during grain filling in rice
(Oryza sativa L.)
宮原, 克典
https://hdl.handle.net/2324/7157387
出版情報:Kyushu University, 2023, 博士(農学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (2)
氏
名
論文題名
:宮原
克典
:Genetic studies on grain chalkiness induced by high temperature during
grain filling in rice (Oryza sativa L.)
(イネの登熟期の高温により誘導される白未熟粒に関する遺伝学的研究)
区
分
:甲
論
文
内
容
の
要
旨
本研究は、水稲の高温登熟耐性メカニズムの解明を目的に実施された。登熟期間の高温によりも
たらされる未熟粒の増加は、玄米品質の評価を下げる主な要因の一つとして問題となっており、高
温登熟耐性に関わる遺伝的要因とメカニズムを明らかにすることは、高温耐性品種の育成における
重要な課題である。
まず、高温登熟耐性系統である「ちくし 52 号」と高温登熟感受性品種である「つくしろまん」
を用い、高温耐性に関与する遺伝領域の探索を行った。玄米の背側が白濁する背白粒に関する領域
は第8染色体で複数の処理条件で共通して検出され、当該領域を「つくしろまん」に戻し交配する
ことで得られた準同質遺伝子系統では、背白粒や玄米の基部が白濁する基白粒の発生が「つくしろ
まん」に比べて少なかった。また、玄米全体が白濁する乳白粒に関わる領域は第4染色体上に検出
され、同様に戻し交配によって得られた準同質遺伝子系統において、乳白粒の減少が確認された。
次に、福岡県で作付けされている高温耐性品種「元気つくし」と「つくしろまん」を用いて、実
用品種における高温登熟耐性に関わる遺伝領域の探索を行った。本解析においても背白粒に関する
領域が第8染色体に検出されたことから、戻し交配を用いて「元気つくし」の第8染色体を有する
「つくしろまん」を遺伝的背景とした準同質遺伝子系統を作出した。この準同質遺伝子系統では、
背白粒の発生が「つくしろまん」に比較して有意に減少した。準同質系統の農業形質(草丈、茎数、
稈長、穂長、穂数、収量など)を評価したところ、
「つくしろまん」に近似していたことから、当該
領域のもたらす高温登熟耐性は、この第8染色体の領域が、これらの形質を介さずに背白粒の抑制
に貢献しているものと考えられた。また、この第 8 染色体領域における高温登熟耐性に関与する遺
伝子について、第8染色体上に存在し、未熟粒の発生に関与することが報告されている OsAGPS2b、
OsAmy3D、OsAmy3E の発現解析を実施した。その結果、登熟期間中の子実について、高温登熟、
常温登熟条件で比較したところ、処理区による変動は認められたものの、品種間の差は認められな
かった。そこで、「元気つくし」、「つくしろまん」と 2 系統の準同質遺伝子系統の高温登熟中の子
実から抽出した RNA を用い、RNA-seq 解析を行った。その結果、「元気つくし」と 2 系統の準同
質遺伝子系統全てにおいて、2倍以上の発現上昇が認められた遺伝子が第 8 染色体上に 5 つ確認さ
れた。共通して「つくしろまん」で2倍以上の発現上昇が認められる遺伝子は確認されなかったほ
か、第 8 染色体以外の遺伝子に共通して2倍以上の発現上昇や低下が認められたものも存在しなか
った。そこで、確認された遺伝子について、常温登熟中と高温登熟中の子実から RNA を抽出し、
Real-time PCR を用いて発現解析を行ったところ、1 つの遺伝子は、高温処理区では、
「 元気つくし」、
「GT-NIL05」の発現量が「つくしろまん」に比べて有意に高かったが、その他の4つの遺伝子は、
いずれの条件の子実においても「つくしろまん」での発現量が極めて微量か検出されないレベルで
あった。以上の結果から、第 8 染色体に存在するこれらの遺伝子は、高温による未熟粒の発生に寄
与している可能性が示唆された。