Effect of a Psychiatric Department Liaison Team on Patient Treatment and Outcomes
概要
1.序論
近年,精神疾患の患者数は大幅に増加しており,わが国における重大な健康問題となっている.身体疾患と精神疾患が併存しやすいことは以前から知られており,身体科の急性期病棟に入院中の患者のうち,27%の患者において何らかの精神疾患や精神症状が併存していたとの報告があり(Silverstone,1996),精神症状の存在が身体治療の妨げになることもある(Creedetal.,2002).そのため,身体科病棟に入院中の患者における精神症状に適切に介入を行うことは,身体治療を行ううえで非常に重要なことである.そのための方法として,精神科が身体科の診療に積極的に関わり,患者の精神医学的な問題を早期発見し,介入を行うリエゾンモデルが提唱されている.さらに,多職種チームによる精神科リエゾン診療が,患者の転帰を改善し医療費を削減させる効果があることも示されている(Tadrosetal.,2013).また,救急医療の現場においても,精神症状を合併する患者に対応する機会は多く(Hazlettetal.,2004),そのうち自殺未遂患者への対応は最も多い割合を占める.
横浜市立大学附属市民総合医療センター(以下,当院)では,せん妄対策を主な目的とし,安全管理部の下部組織の位置付けとした精神科リエゾンチームを組織し,2013年度より活動を開始した.また,2005年度より救命救急センターに精神科医を常駐させ,リエゾンモデルの実践を行ってきた.これらの取り組みが,患者の治療にどのような効果をもたらしたかを検証する必要があると考え,「①精神科リエゾンチーム運用開始前後における,患者の治療や転機に関する調査」および「②救命救急センターにおける精神科リエゾン診療を要する患者の概要と,自殺未遂患者への対応に関する変化の調査」を行うこととした.
2.対象と方法
研究①:2011年4月から2015年3月の4年間に,当院の身体診療科に入院し,精神科診療が行われた患者を対象とし,後方視的な調査を行った.対象者を精神科リエゾンチーム運用開始前の「通常対応期」と,その後の「リエゾンチーム対応期」の二群に分け,はじめに診療依頼件数,性別,年齢,入院診療科,精神科への診療を依頼した医療者の職種,精神科診断(ICD-10)を調査した.次に,本研究における主要評価項目を「入院から精神科診察までの日数」および「在院日数」としたほか,退院時の転帰(退院先)についても調査を行い,両群間で比較した.また,せん妄患者に関しては,処方されていた向精神薬,インシデントの発生,身体抑制の実施の有無についても調査し,両群間で比較した.本研究は,公立大学法人横浜市立大学人を対象とする医学系研究倫理委員会の承認を得て行った(B180600057).
研究②-1:2006年4月から2014年3月までの8年間に,当院高度救命救急センターに入院となった全患者を対象とした後方視的な調査を行った.まず,救命救急センターにおける精神科ニーズの実態調査として,入院中に精神科医が介入を行なった患者を特定し,全入院患者に対する割合を明らかにした.また,精神科医が介入を行った患者については,その介入理由を特定し,頻度の多い介入理由を調査した.研究②−2精神科医の介入理由が自殺企図であった自殺未遂患者については,精神科医が救命救急センターへの常駐を開始した当初の期間(A期)と,その後の期間(B期)で二群に分けた.主要評価項目は,身体治療後の転帰(退院先)とし,その他,患者背景,主な精神科診断(ICD-10),自殺企図手段,自殺企図理由を調査し,二群間の比較を行った.本研究は,公立大学法人横浜市立大学人を対象とする医学系研究倫理委員会の承認を得て行った(B171000013).
3.結果
研究①:対象者は,通常対応期は521例,リエゾンチーム対応期は742例であった.通常対応期と比べ,リエゾンチーム対応期では,平均年齢が高く(62.6歳vs65.2歳,p=0.012),65歳以上の高齢者の割合も高かった(55.1%vs61.7%,p=0.018).また,心臓血管センターからの依頼が増加し,精神科診断では,せん妄が増加した(232件vs384件,p=0.012).せん妄患者では,入院から診察依頼までの日数(13日vs9日,p=0.001),在院日数(39.5日vs30日,p=0,003)がともに短縮していた.せん妄患者に関して,リエゾンチーム対応期では,診療依頼前にインシデントが発生していた患者の割合が低下していたが(35.8%vs26.0%,p=0.011),一方で身体抑制を使用していた患者の割合は高かった(36.6%vs44.8%,p=0.046).また,精神科医の診察から1週間後までの間にインシデントが発生した患者の割合についても,リエゾンチーム対応期で低下していた(21.1%vs8.8%,p<0.001).診療依頼時点でせん妄患者に対して処方されていたベンゾジアゼピン受容体作動薬などは,両群間で違いは見られなかった.
研究②:対象期間中に精神科医の介入を受けた入院患者は2158例で,救命救急センター入院患者全体の26.5%を占めていた.最も多い介入理由は自殺企図に対する介入であり,精神科医が介入した患者全体の54.2%を占めていた.A期における自殺未遂患者は485例,B期は411例であった.B期では,A期と比べ平均年齢が4歳ほど高く(38.1歳vs42.3歳,<0.001),刺切創による自殺企図が多かった(11.8%vs17.8%,p=0.011).また,精神科入院となった患者が増加し,さらにそのなかでも当院精神科入院となった患者の割合が増加していた(p=0.014).
4.考察
精神科リエゾンチームの運用を開始することにより,身体科病棟に入院中の患者に対する精神科リエゾン介入が促進された.またその傾向は,せん妄患者でとくに顕著であり,インシデントも減少を認めた.また,救命救急センターにおける精神科介入患者は非常に多く,そのニーズの高さを改めて認識した.また,精神科医が救命救急センターに常駐する取り組みを続けるなかで,診療科間同士の連携も高まった可能性が示唆された.