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大学・研究所にある論文を検索できる 「脳梗塞後の神経細胞死におけるDNAメチル化の病態生理学的意義」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脳梗塞後の神経細胞死におけるDNAメチル化の病態生理学的意義

浅田 眞由美 東京薬科大学

2021.03.19

概要

1900 年代半ばから 30 年に渡り我が国における死因の第 1 位を占めていた脳血管疾患も, 医療技術の進歩とともにその死亡率は年々低下してきた. ところが, 一命を取り留めても重篤な脳機能低下に苦しむ患者は未だに多く, 現在では介護が必要となる主な原因の第 2 位となっている. したがって脳血管疾患は, 今日においても私たちが克服できていない疾患であると言える.脳血管疾患のうち最も多い病態は, 脳血管の閉塞により引き起こされる脳梗塞である. 脳梗塞治療の第一義的目的は, 虚血により惹起される神経細胞死を抑制し, 脳機能を維持することである.そのための有効な手段として血栓溶解薬の投与が行われる. この薬剤は劇的な作用が望める一方で, その適応は発症 4.5 時間以内に限られている. したがって, この治療薬を使用できる患者は全体の数% とわずかであり, 異なる機序に基づく新規脳梗塞治療薬の開発が急務である.

DNA の塩基配列によらない遺伝子発現制御機構のことを, エピジェネティクスという. エピジェネティックな遺伝子発現制御機構には, DNA メチル化, ヒストン修飾および非翻訳 RNA が知られているが, 本研究ではそのうちの DNA メチル化に着目した. 一般に DNA メチル化は, DNA メチル基転移酵素 (DNA methyltransferase : DNMT) により DNA 中のシトシンにメチル基が付与され 5-methylcytosine (5mC) となることをいう. 哺乳類では, DNMT1 および DNMT3 が DNA メチル化反応を担っている. DNMT1 は, DNA 複製の際にメチル基を転移する維持 DNA メチル化酵素である. 一方 DNMT3 には DNMT3a および DNMT3b の 2 つのアイソフォームが知られており, それぞれ成熟期および発生初期における de novo DNA メチル化を担うとされている. メチル化の対象となるシトシンは, プロモーター領域の内部やその近傍に存在している CpGアイランドに含まれており, この領域で DNA メチル化が起こると, 転写因子の結合抑制やクロマチンの構造変化を引き起こし, 遺伝子発現が抑制されることが知られている. 近年では, DNAメチル化によるエピゲノム制御が, がんをはじめいくつかの疾患の病態形成に関与していると報告されている. 中枢神経系におけるDNA メチル化異常は, Rett 症候群や MeCP2 重複症候群といった重度の精神・神経症状を引き起こす先天性疾患に加え, うつ病やパーキンソン病, さらにはアルツハイマー病の病態へも関与するとされている. とりわけ, DNA メチル化の亢進は, 筋萎縮性側索硬化症の運動神経細胞死や網膜色素変性症の視細胞死など, 種々の神経細胞死への関与が報告されている. 脳梗塞においても, DNA メチル化と神経細胞死との関連が示唆されているが, その詳細は未だに明らかにされていない.

そこで本研究では,脳梗塞の新たな治療標的創出を目的とし, 脳梗塞後に惹起されるDNA メチル化の病態生理学的意義について検討を行った. 第 1 章では, ラット一過性局所脳虚血モデルおよび初代培養大脳皮質神経細胞に対する N-methyl-D-aspartate (NMDA) 誘発性神経障害を用いて,脳梗塞病態に伴う DNA メチル化の変化について検討した. 第 2 章では, DNA メチル基転移酵素の阻害薬および siRNA を用い,脳梗塞後神経細胞死における DNA メチル化の寄与について検討した.

第 1 章 虚血性神経障害時の DNA メチル化の変化

第 1 章では中大脳動脈閉塞再灌流 (middle cerebral artery occlusion and reperfusion : MCAO/R) モデルおよび初代培養大脳皮質神経細胞の NMDA 誘発性神経障害モデルを用いて DNA メチル基転移酵素も含めた DNA メチル化の変化について検討した.

MCAO/R 後の DNA メチル化の変化を 5mC を指標に検討した結果, 5mC 陽性細胞数は梗塞中心領域において脳梗塞 24 時間後まで経時的に増加することが明らかとなった. また, この 5mC 陽性細胞の約 70% は神経細胞マーカーである NeuN 陽性であった. 一方 DNMT1, DNMT3a および DNMT3b タンパク質および mRNA の変化を検討したところ, DNA メチル化が亢進する梗塞中心領域ではいずれも Sham 群と比べて変化がなかった. これらの結果を受け,神経細胞での変化に着目するため, 大脳皮質神経細胞を用いた検討を行った. 脳梗塞後細胞外に放出されたグルタミン酸による NMDA 受容体の過剰刺激は Ca2+ の細胞内への過剰流入を招く.このことはグルタミン酸興奮毒性として知られ, 脳梗塞後の神経細胞死の一端を担っているとされる. NMDA 受容体刺激による細胞障害モデルを用いて検討した結果, in vivo モデルでの変化と同様に 5mC 陽性細胞数が増加した. 5mC 陽性細胞数は NMDA 処置 30 分後をピークに一過性に増加し, その後コントロール群と同程度まで減少した. また, DNA メチル化の亢進には DNMTs の量的変化は伴っていなかった.

以上の結果より, DNMTs タンパク質量の増加を伴わずに虚血性神経細胞死に先行して DNAメチル化が亢進することが示唆された.

第 2 章 虚血性神経障害に対する DNMT 阻害の影響

第 1 章では, 脳梗塞後神経細胞で DNA メチル化が惹起されることを示した. そこで第 2 章では DNMT 阻害薬を用いて, DNA メチル化亢進が脳梗塞病態に与える影響について検討した.また, 各 DNMT アイソフォームの siRNA 導入を行い, 脳梗塞後神経細胞で亢進する DNA メチル化に寄与する DNMTs の同定を試みた.

大脳皮質神経細胞を用いた検討で, DNMT 阻害薬の投与は NMDA 誘発性神経障害に対して保護効果を示した. また, DNMT 阻害薬は NMDA 処置により惹起される 5mC 陽性細胞数の増加も抑制した. グルタミン酸興奮毒性はアポトーシスを引き起こし, 梗塞巣の進展に寄与することが知られているため, アポトーシスの実行に関与する cleaved caspase-3 についても検討を行った.その結果, NMDA 処置により増加した cleaved caspase-3 は, DNMT 阻害薬投与により抑制された.次に, 神経系の株化細胞 Neuro2a に各アイソフォームの siRNA を導入し, グルタミン酸興奮毒性に対する効果を検討した. この検討を行う前に, 分化誘導後 Neuro2a に対するグルタミン酸処置は, NMDA 受容体を介する細胞障害であること, および大脳皮質神経細胞で得られた結果と同様に, この細胞障害は DNMT 阻害薬により保護されることを確認した. この系を用いて siRNAによる各 DNMT アイソフォームのノックダウンを行った結果, いずれのアイソフォームのノックダウンもグルタミン酸興奮毒性による生存率の低下を抑えなかった.

以上の結果から, 脳梗塞後神経細胞における DNA メチル化の亢進は caspase 依存性の細胞死を誘発することが明らかとなった. また, 虚血性神経障害により惹起される DNA メチル化の亢進とそれに続く神経細胞障害には, DNMT1, DNMT3a および DNMT3b が協調的に関与していることが示唆された.

総括
本研究により, 脳梗塞後神経細胞における DNA メチル化は, 各 DNMTs をはじめ種々のタンパク質が協調することにより, 細胞死の開始因子の一つとして亢進することが明らかにされた.また, DNA メチル化の亢進は caspase 依存性の細胞死を惹起することが示唆された.
これらの結果は, 脳梗塞の梗塞巣の進展に DNA メチル化が寄与することを示しており, 脳梗塞の新たな治療標的創出のため, 有益な知見を見出した.

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