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大学・研究所にある論文を検索できる 「Development of Heme Acquisition Proteins Capturing Artificial Metal Complexes and Investigation of Their Functions」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Development of Heme Acquisition Proteins Capturing Artificial Metal Complexes and Investigation of Their Functions

榊原, えりか 名古屋大学

2022.06.30

概要

ヘム蛋白質は、補因子としてヘム(プロトポルフィリン鉄錯体)を有する金属蛋白質であり、酸素運搬や電子伝達、代謝など、生体内で多種多様な機能を担う。ヘム蛋白質の機能は活性中心としてはたらく補因子のヘムに強く依存するため、ヘムをその類似錯体に置換する「ヘム置換」はヘム蛋白質の機能改変において有力な戦略の一つであり、バイオ触媒やバイオセンサーの開発、ヘム蛋白質超分子の構築などが達成されている。しかし、ヘム蛋白質は高い親和性でヘムを結合しているため、ヘム置換に用いる金属錯体は、ヘムとよく似た構造または性質をもつ金属錯体に限られ、ヘムとは構造の異なる疎水的な合成金属錯体を、補因子としてヘム蛋白質に内包することは困難である。一方、先行研究において、緑膿菌が分泌するヘム獲得蛋白質 HasA は、鉄フタロシアニンや鉄ジフェニルポルフィリンなど水に不溶な合成金属錯体を、ヘムの代わりに内包できることが明らかにされている。本論文では、先行研究よりもさらにヘムと異なる嵩高い構造をもつ合成金属錯体を新たに HasA に内包させた「人工 HasA」の構築と、その機能発現を目標として、第二章、第三章からなる研究成果として報告している。併せて、合成金属錯体を内包可能な他のヘム蛋白質の探索にも取り組み、その研究結果について第四章で記述している。

本稿第二章では、HasA のヘム結合部位の収容能力に関する知見を得るために、先行研究で用いた合成金属錯体よりも嵩高い構造をもつテトラフェニルポルフィセン(Ph4Pc)錯体と HasA の複合化に取り組んだ。Ph4Pc 錯体を捕捉した HasA の結晶構造解析から、HasA の錯体結合部位の周辺に位置するループ構造が、内包する金属錯体の構造に合わせた結合部位を再形成するのに十分な柔軟性をもつために、4 つのフェニル基をもつ Ph4Pc 錯体の内包に成功したことが明らかになった。ループ構造のゆらぎが観測されたものの、Ph4Pc 錯体を捕捉した HasA は、ヘムを捕捉したHasA と同様に HasA 特異的なレセプターHasR と相互作用し、鉄源であるヘムの獲得経路の阻害による鉄不足に陥らせ、病原性細菌である緑膿菌の増殖抑制を達成した。

本稿第三章では、「人工 HasA」として、テトラフェニルポルフィリン錯体を捕捉した HasA(TPP-HasA)を選択し、その機能発現に取り組んだ。緑膿菌の培養実験から、TPP-HasAの中でも CoTPP-HasA が緑膿菌の増殖を顕著に抑制できることを明らかにした。一方で、 GaTPP-HasA は、光照射により細胞毒性を示す一重項酸素を生成する光増感剤である GaTPPを緑膿菌の細胞内に送り込み、高効率(99.99 %以上)での光殺菌を達成した。これらの緑膿菌の不活化戦略は、既存の抗生物質を用いた治療が困難な多剤耐性緑膿菌にも有効であることを確認した。さらに、抗菌効果にとどまらない TPP-HasA の機能を見出すために、 TPP-HasA の結晶構造に基づく2 種類の変異体設計を行った。錯体結合部位の内部に位置し、 TPP のフェニル基と近接している Leu85 をアラニンに変異させた HasA(L85A)は、錯体結合部位の拡張により、HasA 野生型では捕捉できなかったTPP 誘導体を捕捉でき、より多様な合成金属錯体を内包できる足場蛋白質としての有用性を示した。また、TPP のフェニル基との立体反発を解消するために Val37 をグリシンに変異させた HasA(V37G)は、HasA のループ構造の柔軟性がさらに向上し、結晶中での直線的な蛋白質の集合をもたらした。結晶中の TPP 錯体は、反応点となる金属の空配座が確保された状態であり、立体選択的なカルベン挿入反応を達成する触媒として機能することを見出した。

本稿第四章では、ヘムと構造の異なる合成金属錯体を補因子として内包可能なヘム蛋白質の拡張を目的とし、緑膿菌のヘム結合蛋白質 PhuT を対象とした検討を行った。ヘムを除去した PhuT の調製法の確立と物性評価を通して、PhuT がヘム類似錯体に加え、鉄フタロシアニンを捕捉できることを明らかにした。結晶構造解析とドッキングシミュレーションから、PhuT のヘム結合部位は十分に広く、これらの合成金属錯体を内包できることを示唆する結果を得た。さらに、合成金属錯体を捕捉した PhuT とその受容体 PhuUV の相互作用を解析するために、PhuUV の発現を試みた。大腸菌などのバクテリアを宿主とした発現系では PhuUV の発現は確認できなかったため、コムギ胚芽由来の無細胞発現系を用いた検討を行ったところ、PhuUV の発現に成功した。

以上、申請者は、ヘムと異なる構造をもつ合成金属錯体(Ph4Pc 錯体、TPP 錯体)によるヘム置換戦略を用いて、(1)ヘム獲得経路の遮断による増殖抑制、(2)光増感剤の送達による光線力学的療法、(3)結晶中での立体選択的な触媒反応、といったヘム蛋白質 HasA の機能化を達成した。本稿で使用した Ph4Pc/TPP 錯体は、確立された合成ルートでの置換基導入や誘導化よって錯体の特性を容易にコントロールできる点から、本稿の研究成果を足掛かりとした HasA の多機能化につながるものである。さらに、抗菌剤や触媒としての応用にとどまらず、超分子構造体や蛋白質マテリアルとしての活用など、Ph4Pc/TPP 錯体の特性を蛋白質科学の分野に活かした多様な展開が見込まれる。さらに、合成金属錯体を内包できるヘム蛋白質の拡張も含めた本稿の研究成果は、ヘムと異なる構造を持つ合成金属錯体を補因子としたヘム置換戦略によるヘム蛋白質の機能改変をさらに加速させるものであると期待している。

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