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大学・研究所にある論文を検索できる 「Uncovering Novel Functions of Bacterial Haemoproteins Incorporating Artificial Metal Complexes」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Uncovering Novel Functions of Bacterial Haemoproteins Incorporating Artificial Metal Complexes

Shisaka, Yuma 四坂, 勇磨 名古屋大学

2020.04.02

概要

多くの生物にとって、鉄は生存に欠かせない栄養素である。これは感染症の元凶となる病原菌にも当てはまり、細菌に特有な鉄獲得システムの存在が明らかになっている。病原菌の宿主内に存在する鉄イオンの大半がヘム(鉄ポルフィリン錯体)として存在するため、多くの病原菌は、多様な鉄獲得システムの中でも、特にヘムを獲得するシステムを発達させている。日和見感染菌として知られる緑膿菌は、ヘムを獲得するために、HasA(Haem acquisition system protein A)と呼ばれる蛋白質を分泌する。この HasA は、ヘモグロビンからヘムを奪い取り、緑膿菌の外膜に発現する HasA 特異的な受容体である HasR にヘムを受け渡す。これにより、緑膿菌は鉄イオン濃度が極端に低い環境でも効率よく鉄を獲得し、増殖することが可能である。先行研究において、鉄フタロシアニンや鉄サロフェンなど、水に不溶な合成金属錯体を、ヘムの代わりに HasA へ安定に内包可能なことが報告されている。さらに、合成金属錯体を内包した「偽の HasA」を緑膿菌に投与すると、緑膿菌の増殖を抑制できることも明らかにされた。本論文では、これまでとは構造の異なる合成金属錯体を新たに HasA に内包させ、偽のHasA の高性能化および多機能化を目標に、三章から成る研究成果としてまとめている。

本稿第二章では、鉄ジフェニルポルフィリンを基本骨格とする多様な合成金属錯体を HasA と複合化し、緑膿菌の増殖抑制効果を評価した。ポルフィリン環のメソ位に官能基を修飾することで増殖抑制効果が向上し、官能基を適切に選択することで増殖抑制効率を調整可能なことを見出した。さらに、HasA 特異的な外膜受容体 HasR の発現系を構築し、合成金属錯体を内包させた HasA を用いる本増殖抑制手法の作用機序の解析に取り組んだ。緑膿菌そのものを宿主とする HasR の発現系を構築することで、フォールディングした HasR を細胞膜から機能を保ったまま抽出することに成功した。さらにこれを利用し、高い増殖抑制効果を示す鉄フタロシアニン HasA とHasR が、天然のヘムを内包した HasA の場合と同じように蛋白質−蛋白質相互作用を介して三者複合体を形成することを明らかにした。さらに、HasA−HasR 複合体の形成と同時に、HasA に捕捉されていた鉄フタロシアニンが、HasR へとエネルギー非依存的に輸送されることを実験的に証明した。精製タンパク質を用いた実験に加え、緑膿菌に直接作用させた偽の HasA の解析手法を新たに構築し、偽の HasA から HasR に送り込まれた金属錯体が HasR と強く結合した場合 では、HasA が HasR から解離するプロセスが妨げられ、ヘム獲得のサイクルが阻害されること を明らかにした。つまり、緑膿菌のヘムの取り込み口である HasR に偽のHasA が蓋をし、緑膿 菌のヘム欠乏、ひいては鉄欠乏を引き起こすことが増殖抑制の直接的な要因であると結論づけた。

本稿第三章では、合成金属錯体を内包した HasA を用いた、緑膿菌選択的な光殺菌法の開発を行った。第二章で報告した偽の HasA は、緑膿菌の増殖を抑制する、静菌的な作用にとどまっていた。そこで、光増感剤のガリウムフタロシアニンを内包させた HasA(GaPc-HasA)を用いて、緑膿菌を選択的に死滅させる手法を考案した。GaPc-HasA を緑膿菌に投与すると、HasA の外膜受容体 HasR と特異的に相互作用した後、HasR への錯体輸送のみにとどまらず、緑膿菌の細胞内へガリウムフタロシアニンが輸送されることを明らかにした。緑膿菌の菌体内にガリウムフタロシアニンを蓄積させ、光線力学治療に有効な近赤外光(600 − 800 nm)を 10 分間照射することにより活性酸素を発生させて、99.99%以上の効率での緑膿菌選択的な殺菌に成功した。さらに、既存の抗菌薬では殺菌が困難な、多剤耐性緑膿菌にも本手法が有効であることを確認した。

本稿第四章では、テトラフェニルポルフィリン金属錯体と HasA の複合化に取り組んだ。これまでに、天然のヘム蛋白質のヘムを他の金属錯体に置換して、蛋白質の機能改変を目指す研究が盛んに行われてきたが、ヘム蛋白質の高いヘム選択性から、人工補因子として利用できる金属錯体の種類は限られており、ヘムに似た骨格の補因子を化学合成するための、多大な労力が必要とされてきた。一方、テトラフェニルポルフィリンは、自然界で頻繁に見られるヘムなどのテトラピロール化合物とは異なる高い対称性を持ち、簡便な合成法が確立されていることに加え、置換基の変換によって光学的特性や電子的特性を容易に変化させることが可能である。そのため、光増感剤や化学反応の触媒として高い有用性が認められているものの、蛋白質に内包することはその嵩高い構造や疎水性の高さのため不可能と考えられてきた。しかし、本章における研究で、鉄テトラフェニルポルフィリンを HasA に内包させる手法を初めて見出し、複合体の結晶化に成功した。さらに、SPring-8 のBL41XU でX 線回折実験を行ったところ、最高分解能 0.74 Å という、蛋白質の結晶構造解析としては異例の超高分解能な測定結果を得ることができた。SHELXL を用いた完全行列最小二乗法による構造精密化を行ったところ、精密な原子位置と、プロトネーション状態を観測することができた。さらに量子化学計算を組み合わせた解析により、これまで実験的な直接観測が不可能であった、鉄ポルフィリン錯体と HasA の強固な結合に関わる重要な水素結合について、通常の水素結合よりもエネルギー的に安定な、低障壁水素結合を形成していることが示唆された。

以上、申請者は、多様な合成金属錯体を内包させた「偽の HasA」の、緑膿菌選択的な増殖抑制(静菌作用)、および光殺菌(殺菌作用)への応用を達成した。さらに「偽の HasA」と受容体 HasR の特異的な相互作用を介した詳細な作用機序も明らかにした。これまでに、宿主内における病原菌のヘムの略奪能力と病原性の緊密性に関する報告はあったものの、病原菌のヘム輸送システムを抗菌薬の輸送経路として活用する取り組みはなかった。本報告を端緒とし、緑膿菌をはじめとした病原菌のヘム獲得システムを標的とする薬剤送達技術の開発が活性化され、特定の病原菌に薬剤を運搬できる、副作用の少ない新たな抗菌薬群が探究されることを期待している。また、テトラフェニルポルフィリン骨格の金属錯体の HasA への内包は、ヘム蛋白質の機能改変においてこれまでに例のない、革新的な結果であり、触媒としての応用にとどまらず、超分子構造体や光増感剤としての活用など、テトラフェニルポルフィリンの特性を蛋白質工学の分野に活かした多様な展開が見込まれる。

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