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大学・研究所にある論文を検索できる 「フェノール-アセチレン-フェノール構造からなる分子の水素結合能の制御とその応用に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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フェノール-アセチレン-フェノール構造からなる分子の水素結合能の制御とその応用に関する研究

林 友哉 富山大学

2022.03.23

概要

序論:
 メタ-フェニレンエチニレン構造は、特定の芳香環のメタ位どうしがアセチレン結合を介し連結された構造のことを示す。それらを繰り返し連結したオリゴマーは自発的にらせん構造を形成し、その内孔にゲスト分子を認識することが知られている。その構造と機能は生体内のタンパク質やDNAを彷彿とさせるものであり、生体模倣化学で注目されている。生体分子の機能に匹敵するオリゴマーが創製できれば、バイオセンサーや医薬品への応用が期待される。

 その中で申請者の所属する研究室では、様々な芳香環からなる(メタ-フェニレンエチニレン)オリゴマーの開発を行っている。そして最近、フェノールとピリジンがアセチレン結合を介し交互に連結された鎖状のオリゴマーと大環状分子を開発した(図1)。オリゴマーはおよそ107M−1の会合定数で糖質を強く認識し、さらにその会合体がらせん構造を形成することを明らかにしている(図1上段)。一方で大環状分子は、鎖状のオリゴマーと同様の強力な会合能に加え、その剛直な骨格を特長とし、内孔の大きさに合った単糖に高い選択性を示した(図1下段)。これらが強く糖質と会合したのは、ピリジンの窒素原子が水素結合アクセプター、フェノール性ヒドロキシ基の水素原子が水素結合ドナーとして働く、効率的なpush-pull型の分子間水素結合を糖質上のヒドロキシ基との間で形成できるためだと想定している。

 ここで申請者は、フェノール性ヒドロキシ基に着目した。ヒドロキシ基は水素結合ドナーとして利用できるだけでなく、酸素原子上では水素結合アクセプターとしても機能し得る。このことを踏まえれば、フェノールどうしがアセチレン結合を介し連結された構造でも、効率的なpush-pull型の分子間水素結合の形成が可能であり、先行研究と同様、強力に糖質と会合することが期待された。またフェノール性ヒドロキシ基は比較的酸性度の高いプロトンを有するため、本構造を待つ分子はゲスト分子の認識だけでなく、触媒能を示すことも期待される。そこで申請者は、フェノール-アセチレン-フェノール構造からなるオリゴマーna(n=2~7、9)および同構造を有した大環状分子21と24を合成し、その高次構造、分子認識能、触媒能を調査した(図2、図3)。

第一章:鎖状オリゴマーの自発的らせん形成とその不斉誘起[1]
 9個のフェノールからなるオリゴマー9aの合成を図4に示す。出発物質としては、4-pentylphenolより2段階で調製できる1a-MOMを用いた[2a]。その1a-MOMとtrimethylsilylacetylene(TMSA)との薗頭カップリング、続くTMS基の除去により、11を合成した。その後、逐次的な薗頭カップリングにより目的のオリゴマーの前駆体9a-MOMを得た。最後に9a-MOMを酸で処理することで目的の9aを合成した。また上述した9a以外にも、様々な長さのオリゴマー(n=2~7)を同様の手法にて合成した。

 得られたオリゴマーの糖質に対する会合能を評価するために、糖質を添加した際の1HNMRスペクトルの変化を観察した。その結果、顕著なシグナル変化は観測されず、合成したオリゴマーは糖質との会合能が非常に低いことが明らかになった。

 一方で、5a以降の長いオリゴマーにおける糖質添加前の1HNMRスペクトルでは、芳香族プロトンに由来するシグナル(Ha)とベンジル位のプロトンに由来するシグナル(Hb)が高磁場側へのシフトと分裂している様子が観測された(図5左)。このシグナル変化は、オリゴマーが4個ないし5個のフェノールを1ピッチとして、自発的にらせん構造を形成していることを示唆している(図5右)。また5aのモデル分子の結晶構造解析からは、本来直線構造が優位なはずのアセチレン結合が内側に折れ曲ることで、隣り合ったフェノールのヒドロキシ基どうしが接近し、分子内水素結合を形成している様子が観測された(図6)。以上の結果より、オリゴマーは自発的に分子内水素結合を形成し、安定ならせん構造を形成したために、糖質を認識できなかったものと推測される。

 さらに、オリゴマーが形成するアキラルならせん構造の不斉誘起も検討した。様々なキラルゲスト分子を添加することによりその不斉誘起を試みたところ、大過剰のキラルなアミンを添加した際、オリゴマーのらせん不斉を誘起することに成功した(図7)。これは、オリゴマー上の一部のフェノールとアミンとが酸塩基反応を起こし、その後に生成したフェノラートアニオンとアンモニウムカチオンとの静電相互作用により、キラルなアミンの不斉がオリゴマーのらせん構造に伝播したためであると考えている(図8)。

第二章:大環状分子の分子認識能とその五炭糖選択的会合[2]
 鎖状オリゴマーnaは、分子内水素結合によって自発的にらせん構造を形成するという興味深い知見を得ることができた。しかし、糖質を添加した際にも分子内水素結合を優先的に形成してしまうため、分子間水素結合を駆動力とする糖質認識能は非常に低かった。一方で大環状分子21はその剛直な骨格により、分子のサイズや形が変化しにくい性質を示す。そのため21中のアセチレン結合は折れ曲がりにくく、分子内水素結合も形成しないと考えられる。さらに分子内水素結合形成の抑制により、21は内孔に分子間水素結合を駆動力に糖質を取り込むホスト分子として機能することが期待された。

 その合成には、第一章にて合成した3a-MOMおよび15を環化前駆体として用いた(図9)。得られた環化前駆体を高希釈条件下の薗頭カップリングに附し、さらに酸で処理することで目的の21を得た。

 実際に分子間水素結合により糖質を認識するかを明らかにするため、UV-visスペクトル測定を用いた滴定実験を行った(図10)。五炭糖のmethyl -D-ribofuranoside(Met-Rib)の添加に伴って、濃色効果と長波長シフトが観測された。これは、21がMet-Ribを環の内孔に包接したことを示唆している。さらにこのスペクトル変化から、その会合定数(Ka)は1.5×104M−1と算出された。同様の滴定実験から、六炭糖のoctyl-D-glucopyranosideを対するKaは0.5×104M−1と算出され、21が五炭糖に対し選択性を示すことが明らかになった。五炭糖が六炭糖と比較し水素結合を形成するヒドロキシ基が1個少ないことを考慮すれば、21の五炭糖に対する選択性は、21の内孔のサイズや形に五炭糖がよく合っていたことに起因していると考えられる。

第三章:水素結合ドナー性触媒として機能する大環状触媒の創製
 ごく最近Rawalらは、フェノール-アセチレン-フェノール構造を有する分子がカルボニル化合物を認識し、それを活性化する有機触媒として働くことを報告している(図11)。しかし申請者のここまでの研究を考慮すれば、この触媒においても分子内水素結合の形成が触媒としての働きを妨げていることが想定される。ここで申請者は第二章で用いた大環状骨格であれば、分子内水素結合を抑制でき、フェノール-アセチレン-フェノール構造の本来の触媒能を明らかにできると考えた。これを踏まえ、21と比較し大きな内孔を有する大環状触媒24を新たに設計し、触媒能を評価することとした(図3)。

 大環状触媒24の合成では、既報の方法で4-butylanilineより誘導した28を出発物質として用いた(図12)。脱アミノ化を経てジヨード体29を調製し、さらにそのエチニル化により30と31を合成した。その後、それらを組み合わせた逐次的な薗頭カップリングにより、環化前駆体33を得た。さらに第一章の研究において合成法を明らかにした13と先の33を組み合せた薗頭カップリング、MOM基の脱保護により目的の大環状触媒24を得た。

 実際に24に対し、メチルビニルケトン(MVK)を添加する滴定実験を1HNMRスペクトル測定により行った(図13)。その際MVKの添加に伴って、ヒドロキシ基のプロトンに由来するシグナルの低磁場シフトが観測された。またこのスペクトル変化からそのKaは27M−1と算出され、実際に24がMVKを分子間水素結合を介して認識することが分かった。

 この結果を踏まえ、24が触媒として機能するかを明らかにするため、MVKとシクロペンタジエン(CP)とのDiels-Alder反応に対して24を触媒量添加し、その際の反応速度定数(k)を算出した(図14)。その結果、算出されたkは0.69h−1であり、何も添加していない場合に比べて2倍程度大きい値だった(k=0.30h−1)。これは24が、水素結合ドナー性触媒として機能したことを示している。さらに対照分子26を用いた際の結果と比較しても(k=0.42h−1)、24を用いた際のkは高かった。この結果は第二章での結果と一致しており、大環状骨格を有する24の方が効率よく基質と分子間水素結合を形成できたためだと推測される。

 以上のように申請者は、同じフェノール-アセチレン-フェノール構造を基本構造としながらも、分子骨格によってその水素結合能を制御でき、それに伴い物性も大きく異なることを明らかにした。また単純なホスト・ゲスト相互作用だけでなく、本骨格が触媒活性を示すことを見出した。今後は生体内で働く酵素を模倣し、認識部位と触媒活性部位を組み合わせた、高い選択性を有する触媒系の構築が期待される。実際にそれが実現し、有用な反応系へと応用できれば、医薬分野の研究へと大きく貢献できることが期待される。

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参考文献

[1] T.Hayashi,Y.Ohishi,H.-S.So,H.Abe,S.Matsumoto,M.Inouye,J.Org.Chem.2018, 83,8724−8730.

[2] T.Hayashi,Y.Ohishi,H.Abe,M.Inouye,J.Org.Chem.2020,85,1927−1934.

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