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大学・研究所にある論文を検索できる 「統合失調症者のリカバリー尺度の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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統合失調症者のリカバリー尺度の開発

尾形, 佑香 筑波大学

2021.12.02

概要

目 的:
 統合失調症の治療目標は「治る・治す」という考えから、当事者が「自分らしく生きる」という目標をもち、前向きに歩むことができるようにという考え方に変化してきている(佐藤,2013;土屋,2014)。疾患を抱えてもその人らしく生きていくことを意味するに「リカバリー」という概念がある。Anthony(1993)はリカバリーを「たとえ症状や障害が続いていても希望を抱き、自分の人生に責任をもって、主体的に意味ある人生を生きること」と定義している。その後1990年代には米国とニュージーランドでは「リカバリー」が精神保健政策の根幹に位置付けられ、現在では英国、オーストラリアにもリカバリーの概念が拡がっている。一方、我が国では2003年に「リカバリー」の概念が紹介されたが、未だ概念定義はされておらず、「リカバリー」の研究は始まったばかりである(新海ら,2018)。日本語のリカバリーの尺度は現時点では3つ開発されているが、いずれも諸外国の尺度を翻訳したものであり、我が国の精神科医療の現状をふまえた尺度は開発されていない。またこれまでの尺度は、さまざまな精神障害者を含めて対象としているが、統合失調症者は他の精神疾患に比べて認知機能障害があることやセルフスティグマが強いことなどから、特にQOLが低く、リカバリーに向かいにくい現状がある。
 そこで、本研究は我が国の精神科医療の現状をふまえた「統合失調症者のリカバリー尺度」を開発することを目的とした。

対象と方法:
 研究1は、統合失調症者のリカバリー尺度の調査項目試案を抽出することを目的とし、統合失調症者のリカバリーについて言及している諸外国の文献103件を対象に文献検討、および我が国の精神科看護の専門家10名を対象としたフォーカスグループインタビューを実施した。
 研究2は、研究1によって抽出された調査項目試案97項目を精選することを目的とし、精神科医療の専門家55名による内容妥当性、表現妥当性の検討、並びに当事者21名による表現妥当性の検討を行うために自記式質問紙調査を実施した。
 研究3は、「統合失調症者のリカバリー尺度」の信頼性・妥当性を明らかにすること目的とし、精神科病院に入院または外来通院をしている統合失調症者356名に対して自記式質問紙調査を行った。

結果:
 研究1の文献検討から、84の調査項目が抽出され、またフォーカスグループインタビューを行った結果から、新たに50の調査項目が抽出された。文献検討で抽出された84項目とフォーカスグループインタビューで抽出された50項目の計134項目について、項目間の類似性などを確認し、最終的に97の調査項目の試案を作成した。
 研究2の専門家による妥当性の検討の結果、60の調査項目の内容妥当性が確認され、表現内容はそれぞれ専門家の意見を基本とし修正した。その後統合失調症者による妥当性の検討の結果、60の調査項目全てにおいて表面妥当性が検討された。
 研究3の結果、〈将来に向かう〉、〈周囲とつながる〉、〈病気とともに生きる〉、〈自分らしさを大切にする〉、〈自分の力を生かす〉の5因子17項目からなる「統合失調症者のリカバリー尺度」が作成された。5因子および17項目合計の信頼性は保たれていた。既知グループ技法の結果、構成概念妥当性が確認された。「統合失調症者のリカバリー尺度」と「日本語版リカバリー評価尺度」、「統合失調症者の自己概念測定尺度」、「ローゼンバーグ自尊感情日本語版」との間には中等度~強い相関が認められ、基準関連妥当性が確認された。

考察:
 本研究は、「統合失調症者のリカバリー尺度」の開発のため、国内外の文献を検討後、精神科医療の専門家へのフォーカスグループインタビューで我が国の精神科医療や統合失調症者に合わせたリカバリーを明確にし、調査項目を抽出した。その後、多職種からなる精神科医療の専門家、当事者などさまざまな立場の意見を反映したことで、我が国における統合失調症者のリカバリーを想定することが可能な調査項目が選定されたと考える。
 既存のリカバリー尺度と比較すると、統合失調症による困難を抱きながらも主体的に自分の人生を歩んでいくことや、病気をもつ自分を受け入れて自分の強みを生かしながら役割を果たしていくことなどが測定でき、独自性がある尺度が作成されたと考える。
 本研究により「統合失調症者のリカバリー尺度」を開発したことにより、その人の主観的なリカバリー状況を客観的に示すことが可能となった。本尺度を用いることで、当事者に自分のリカバリー状況を客観的に示すことができると同時に、どのような側面が不足しているのかを考える機会とすることができる。
 また、心理・社会教育プログラムなどの実施前後で測定することで、リカバリー状況の前後比較をすることも可能である。さらに、本尺度を用いることで当事者と支援者が共にリカバリーに向かうための指標となる。当事者だけでなく、医療職者にリカバリー志向を意識付けすることができ、リカバリーを意識し、当事者のリカバリーを高める支援を行うことにつながると考える。

結論:
 本研究の結果、以下のことが明らかになった。
1. 「統合失調症者のリカバリー尺度」は、項目分析および因子分析の結果、最終的な調査項目は17項目となり、〈将来に向かう〉、〈周囲とつながる〉、〈病気とともに生きる〉、〈自分らしさを大切にする〉、〈自分の力を生かす〉の5因子で構成されていた。
2. 信頼性の検討の結果、5因子で構成された全17項目の信頼性が確認された。
3. 既知グループ技法の結果、構成概念妥当性が認められた。
4. 基準関連妥当性について検討した結果、「日本語版リカバリー評価尺度」、「統合失調症者の自己概念測定尺度」、「ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版」との間に中程度~強い相関が認められ、基準関連妥当性が認められた。

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