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歯状回苔状細胞における海馬情報の符号化

大内, 彩子 東京大学 DOI:10.15083/0002005192

2022.06.22

概要

【序論】
記憶や学習などの高次機能は、細胞集団のパターン化された神経活動が海馬内の神経回路を伝播し、適切に処理されることで発揮される。これまで海馬の情報処理機構を調べた研究では、神経同期発火に焦点をあてた研究は数多く存在する。海馬における神経細胞の同期発火は鋭波リップルと呼ばれる局所場電位(LFP; local field potential)として反映される。この鋭波リップルは海馬CA3野において、複数の錐体細胞が同時に活動することによって生じ、記憶形成の様々な過程や将来の意思決定など高次機能に重要であることが示唆されている。海馬のすべての亜領域からLFP記録を行うと、鋭波リップルはすべての亜領域においてほぼ同時に発生する。具体的にはCA3野で鋭波リップルが生じた後、CA1野、大脳皮質へと伝播する順行性経路と歯状回へと伝播する逆行性経路の2つの情報伝達経路が存在する。鋭波リップルの性質および役割は多岐に亘るため、一概に定義することは困難だが、本研究では鋭波リップルに神経同期発火の情報が内包されることを前提として、鋭波リップルのシナプスレベルの情報移行に着目する。

鋭波リップルの順行性伝播については記憶情報の獲得に寄与することが報告されている。一方で、海馬から歯状回への逆行性伝播については理論的には認知機能に寄与することが示唆されているが、それを実験的に示した知見は皆無である。そればかりでなく、個々のシナプスレベルでどのような情報伝達がなされ、さらには神経回路レベルでどのような情報演算が可能になるのかという点も明らかではない。本研究の目的は、鋭波リップルの逆行性伝播に潜む神経回路レベルの演算原理を明らかにすることである。

海馬CA3野と歯状回への直接的な興奮性投射はなく、逆行性伝播は間接的なシナプス連絡によって担われる。本研究では、CA3野と歯状回の間に存在する苔状細胞に着目した。苔状細胞は局所神経回路の興奮性を正常に保つ役割があり、CA3野の錐体細胞や歯状回の顆粒細胞と相互にシナプスを形成することから、海馬と歯状回をつなぐ重要な中継点となっている。

本研究では、初めに、in vitroパッチクランプ記録を適用し、鋭波リップルの情報が苔状細胞の神経活動に反映されることを示した。したがって、鋭波リップルの情報は苔状細胞にシナプスレベルで移行されることが示唆された。さらに、苔状細胞が受け取った情報は歯状回へ送り届けられると想定されるが、マウスにおける各神経細胞の分布に注目すると、CA3野錐体細胞は30万個、苔状細胞は2万個、歯状回顆粒細胞は245万個であり、苔状細胞は中継点としては存在比が小さいことが窺える。そこで本研究では、CA3野から苔状細胞の間では情報の圧縮が起こっていると着想した。すなわち、鋭波リップルの圧縮された情報が少数の苔状細胞に集団単位で符号化されると仮説を立てた。そして、同時に複数の苔状細胞からパッチクランプ記録を行い、鋭波リップル発生前後の苔状細胞の膜電位変化を観察することで、海馬と歯状回の局所神経回路における情報動態の詳細なメカニズムに迫った。さらに、生体マウスより苔状細胞のパッチクランプ記録を行うことで、in vitro標本で得られた結果との整合性を図った。

【結果・考察】
1.鋭波リップルは苔状細胞の神経活動に反映される
海馬急性スライス標本より、単一の苔状細胞からin vitroパッチクランプ記録およびCA3野から鋭波リップルの発生を捉えるLFP記録を同時に行った。鋭波リップルの発生直後に苔状細胞は有意に膜電位応答を示し、膜電位の大きさが鋭波リップルの振幅と相関することを発見した。すなわち、苔状細胞の神経活動の一部は鋭波リップルの活動を反映したものであることを示した。

2.鋭波リップルの情報が苔状細胞の閾値下膜電位の組合せによって表象される
次に、最大5つの苔状細胞から同時にパッチクランプ記録法を行い、LFP記録と閾値下膜電位を一斉に観察することで、局所神経回路における情報動態の観測を試みた。そして、鋭波リップルの活動および各鋭波リップルに伴う複数の苔状細胞の膜電位変化に対してそれぞれAffinity Propagationに基づいたクラスタリングを行った。鋭波リップルの活動と各鋭波リップルに伴う複数の膜電位変化の対応関係を調べるため、得られた鋭波リップルのクラスター群と膜電位変化のクラスター群に対して、情報理論解析を適用し、これまで記録を行った各ペアから相互情報量を算出した。相互情報量は2つのクラスターが共有する情報量の尺度である。5細胞を同時記録したデータでは全3例のうち2例、4細胞を同時記録したデータでは全8例のうち4例、3細胞を同時記録したデータでは全19例のうち12例、2細胞を同時記録したデータでは全13例のうち9例がランダムデータと比較して有意に大きい相互情報量を示した。したがって、一部の鋭波リップルの情報が苔状細胞の特定の膜電位の組合せに対応しているといえる。

次に、同時に記録する細胞数が多いほど得られる情報量も多くなるのか検証を行うために、相互情報量とランダムデータの95%信頼区間を比較した際に計算される有意確率(P値)に着目した。情報理論では、確率が小さい事象ほど情報量が多いと定義される。結果、同時に記録する細胞数が増えると、情報量は有意に増加する傾向にあった。

3.苔状細胞に閾値下膜電位レベルで鋭波リップルの情報が符号化される
In vitro標本で局所神経回路の情報動態の詳細なメカニズムに迫るためには、in vitro標本で見出された局所回路構造が生体動物の海馬内でも起きている現象の普遍的原理であることを示す必要がある。そこで本研究では、ウレタン麻酔下のマウスの苔状細胞からin vivoパッチクランプ記録と海馬CA1野からLFPの同時記録を行った。苔状細胞の同定は、ビオシチンによる記録細胞の形態の可視化に加え、苔状細胞のマーカーであるGluR2/3抗体の免疫組織化学染色により行った。LFPと苔状細胞のin vivoパッチクランプ記録の同時記録したデータ6例から、得られた全ての鋭波リップルをウェーブレット変換により抽出した特徴量に基づき、Affinity Propagationを用いて、鋭波リップルを4つにクラスタリングした。クラスター毎に各細胞の膜電位応答の数値を1万回シャッフルすると、クラスター#2と#4で膜電位応答のSDが有意に高かった。すなわち類似した情報を持つ鋭波リップルに対して、個々の苔状細胞はそれぞれ異なる応答を示すことがわかった。したがって、苔状細胞に閾値下膜電位レベルで鋭波リップルの情報が符号化されるが、全ての苔状細胞に均一に符号化されないことを示した。

【総括】
本研究では、複数の苔状細胞から同時に閾値下膜電位記録を行い、情報理論解析に適用することで、鋭波リップルのシナプスレベルの情報移行を調べた。その結果、鋭波リップルに対応した閾値下膜電位の情報が苔状細胞に集団単位で符号化されるという仮説を立証し、個々の苔状細胞においても閾値下膜電位レベルで鋭波リップルの情報が符号化されることを示した。また、全ての苔状細胞に均一に情報が符号化されるのではなく、複数の苔状細胞が相互に作用することで、海馬と歯状回の間の情報伝達に協調的、排他的に働く可能性があることを示した。

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