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機械学習による海馬リップルの検出と評価

渡邉, 裕亮 東京大学 DOI:10.15083/0002005189

2022.06.22

概要

【序論】
海馬の脳波の一種であるリップルは、1976年にその特徴的な波形から公に発表された。リップルは、持続時間がおおよそ150ms未満であり、約150Hzを超える高周波成分を含むことが多い。リップルの波形は神経細胞群の同期活動パターンと関連していると報告されており、リップルが記憶固定化に寄与することや記憶想起に関連していることも知られている。すなわち、リップルの波形は特徴的であるだけでなく、記憶情報の処理を反映していると考えられる。

既存のリップル検出法には曖昧さがある。時間軸に関して切り出した脳波から計算されるいくつかの変数に、実験者が任意に決めた閾値を設置し、リップルを定義していく。設定する閾値は統一されていない点は問題となる。また、最終的に検出した“リップル”一つひとつを目視で選別することもある。この方法は実験者の熟練度などの一貫性や再現性の観点から問題があるほか、多大な労力がかかるためにデータの大規模化に対応することが困難である。

こうした背景から、我々は、画像認識のある分野でヒトを超える識別性能を持つようになっている畳み込み型深層ニューラルネットワーク(deep Convolutional Neural Network、以下CNN)を利用してリップルを定義、検出する手法を提案する。本手法は大規模データにスケールし、客観的であり、ハイスループット可能である。むしろ、データの数が増すごとに、リップル検出精度が向上する。また、既存のリップル検出法とは異なり、データの個体差や電極位置の違いによるリップル検出への直接的な悪影響が緩衝されることが期待される。

【結果・考察】
1.既存のリップル検出法で定義される“リップル”
岡田(2019)の取得した、自由行動下の5匹のマウス海馬CA1から慢性記録された局所場電位より、リップル候補を定義した(図1A)。既存のリップル検出法で、あるリップル候補がリップルであると許容するためのリップル帯域ピーク強度、リップル持続時間、動物の頭部の移動速度の閾値は実験者によって異なる(図1B)。既存のリップル検出法をシミュレートした(図1C)。結果、異なる閾値を用いてリップルを検出する場合、異なるイベント群をリップルとして検出してしまうことが分かった。

2.Gaussian Mixture ModelクラスタリングとCNNを用いたリップルの定義
CNNを用いて局所的な波形の特徴量を利用し、リップル候補からリップルを定義した。以下のように、2ステップに分けた。ステップ1では、図1Cの3次元空間において、Gaussian Mixture Model(以下、GMM)クラスタリングにより、リップル候補を2クラスタに分けた。クラスタ中心の筋電強度の次元の値が小さいクラスタをクラスタTとし、クラスタTに含まれるリップル候補に荒いラベルTrue_noisyを付けた。もう一方のクラスタをクラスタFとし、クラスタFに含まれるリップル候補に荒いラベルFalse_noisyを付けた。ステップ2では、先に付けた荒いラベルが局所的な波形を根拠とした場合には誤りを含むラベルであると解釈し、CNNを用いたConfident Learningによって潜在的な真のラベルを推定した。推定した真のラベルを綺麗なラベル(True_cleanedもしくはFalse_cleaned)と呼ぶことにした(図2A)。

各リップル候補を、荒いラベルから綺麗なラベルへの推移に関して、4群に分けた。各群を(群名,GMMで得られた荒いラベル, Confident Learningで得られた綺麗なラベル)の順で、それぞれ次のように名付けた:(T2T群,True_noisy,True_cleaned),(T2F群,True_noisy, False_cleaned), (F2F群, False_noisy, False_cleaned), (F2T群, False_noisy, True_cleaned).

F2T群とT2T群のln(持続時間)[a.u.]のCliff’s Delta値は0.127±0.040(図2B;n=5マウス,平均±標準偏差)であり、効果量は小さかった。F2T群とT2T群のln(平均標準僧帽筋筋電強度)[a.u.]のCliff’s Delta値は0.928±0.024((図2C;n=5マウス,平均±標準偏差)であり、効果量は大きかった。F2T群とF2F群のln(平均標準僧帽筋筋電強度)[a.u.]のCliff’s Delta値は0.308±0.084(図2C;n=5マウス,平均±標準偏差)であり、効果量は小さかった。これらの結果より、持続時間を根拠にF2T群が生体内で発生しているリップルを正しく検出しているならば、既存のリップル検出法では検出することができなかった、動物が動いている時間帯のリップルを確率的に定義することができるようになった。

3.CNNを用いたリップルの検出
CNNを用いて、学習データにない未知のマウスの海馬局所場電位から正しくリップルを検出できるか検討した(図3A)。True_cleanedのラベルがついたリップル候補のうち、特に、リップル帯域ピーク強度が7SDを上回るものを“特に確からしいリップル”と定義した。長さ400msの海馬局所場電位サンプルのうち、特に確からしいリップルが1つだけ、オンセットからオフセットまで完全に含まれているサンプルに、ラベル“含リップル”を付けた。一方で、長さ400msの海馬局所場電位サンプルのうち、リップル候補を一部分も含まないサンプルにラベル“非含リップル”を付けた。教師あり学習で、含リップルと非含リップルの2クラス分類を行った。

全5匹のマウスから各1匹をテストデータとして交差検証を行った。損失を調整しない場合、モデルの予測は多数派のクラスである非含リップル群であった(n=5マウス)。クラス間のサンプルサイズに不均衡が生じていたため、損失関数を独自に考案した調整を行い学習させた。

適合率-再現率曲線の下面積(図3B)は0.72±0.10(n=5マウス,平均±標準偏差)だった。曲線下面積がチャンスレベルの0.5を上回ったことから、学習したモデルは平均的に未知のマウスの海馬局所場電位からリップルを検出する性能を持つことが分かった。これにより、独自に考案した損失の調整が機能したことが分かった。

閾値二値化を0.5にして混同行列を求めた(図3C)。混同行列から、各種予測性能指標を求めた(図3D)。含リップル群に関して、再現率は0.96±0.03、適合率は0.15±0.13(n=5マウス,平均±標準偏差)であった。また、正確度は0.94±0.04(n=5マウス,平均±標準偏差)であった。

【総括】
既存の海馬リップルの検出法は、主観的な要素があり判定の根拠が薄かった。本研究ではGMMクラスタリングとCNNを利用したConfident Learningによる「弱教師あり学習」を用いて、真のリップルと見かけのリップルを、海馬局所場電位の時間的に局所的な波形を根拠に、客観的に定義することに成功した。その結果、S/N比の小さなリップルや、動物が動いている時間帯のリップルを確率的に定義できるようになった。

本手法は、行動時のリップルを解析するための基礎的なツールとなり得る。また、本手法を用いることで、S/N比の小さなリップルを確率的に扱うことが可能になるため、電極位置に“ずれ”が生じやすい自由行動下の動物から、より安定して長期的なリップルの観察が可能になると期待される。

この論文で使われている画像

参考文献

(1) Watanabe, Y., Ikegaya, Y. Caffeine increases hippocampal sharp waves in vitro. Biol. Pharm. Bull., 40:1111-1115, 2017.

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