ゼニゴケを用いた新規植物ペプチド遺伝子の探索および多面的手法による機能解析

概要

植物では，多種多様なペプチドによって発生やストレス応答など多岐にわたる生命現象が
制御されることが明らかになってきた。ペプチドの多くが細胞外に分泌されて細胞間のシグ
ナル伝達因子として機能する。現在に至るまで多くの種類のペプチド遺伝子が同定されてお
り，今なお機能を有する新たな植物ペプチド遺伝子の報告が増えている。一部のペプチド遺
伝子では，コケ植物から種子植物の，いわゆる陸上植物によく保存されていることが報告さ
れている。本研究では，コケ植物ゼニゴケ（Marchantia polymorpha）を用いて植物種間
で保存される新規ペプチド遺伝子の探索を行った。
ゼニゴケとシロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana）に共通するペプチド遺伝子を選出す
るため，シロイヌナズナの small Open Reading Frame（sORF）データセットをクエリと
してゼニゴケのタンパク質配列に対して配列類似性検索（BLAST 検索）を行った。検索結
果から，シロイヌナズナ sORF とアミノ酸配列が類似するゼニゴケ遺伝子を 28 個見出し，
それらを sORF とゼニゴケ遺伝子の組み合わせから 18 個のグループに分類した。これらを
SMALL GENE FAMILIES（SGF1–SGF18）と名付けた。これらの SGF は，一部の系統
にのみ保存されるものもあるものの，大半が植物種間で広く保存されている傾向を示した。
さらに，これらの SGF の中から機能解析の対象として，ゼニゴケで機能未知である遺伝子
を 7 個選抜した（MpSGF6，MpSGF10B，MpSGF13A，MpSGF13B，MpSGF13C，
MpSGF17，MpSGF18）
。
機能解析に先立ち，これらの 7 遺伝子が属する 5 つの SGF ファミリーについて分子系統
解析を行った。ゼニゴケを含む植物 10 種に保存されるオーソログのアミノ酸配列を用いて
作成した多重配列アライメントより，保存される残基パターンが散在するものや一箇所に集
中するものが見られた。特定の種で高度に保存されているものもあるが，総じて陸上植物種
間で保存されていた。
続いて，7 個のゼニゴケ SGF 遺伝子産物の細胞内局在を観察するために，ベンサミアナ
タバコ（Nicotiana benthamiana）を用いた一過的発現系による蛍光タンパク質融合型
MpSGF（MpSGF-YFP）の蛍光観察を行った。選抜した MpSGF は葉緑体やサイトゾルな
どの区画に局在することが観察され，その中でも，MpSGF10B-YFP は細胞外領域で検出
された。
これらの MpSGF がゼニゴケ植物体内のどの器官で発現しているかを確認するために，
GUS 遺伝子を用いたレポーターアッセイを行った。 ...