Studies on the regulation of secondary metabolism in Lithospermum erythrorhizon using genome editing
概要
「ゲノム編集技術を用いたムラサキの二次代謝制御に関する研究」
森林圏遺伝子統御学 Hao LI
シコニン誘導体(以下、シコニンと称す)は、抗菌作用、止血作用、抗炎症等様々な生理活性をもつ脂
溶性の赤色ナフトキノン化合物である。シコニンはムラサキ科の一部の植物の根皮で生産される。これ
までに、シコニン生合成に関する酵素数種(PAL、HMGR、LePGT、CYP76B74 等)が報告された。輸送にお
いては、脂質小胞としてアクチンフィラメント依存的に細胞外に分泌されると示唆された。しかし、シコ
ニン生合成の制御、または分泌に関与する具体な分子メカニズムは未解明な部分が多い。本研究は、in
silico 解析によりシコニンの生合成と分泌に関与する遺伝子の絞込みを試みた。それら遺伝子の機能証
明に向けて、代表的なシコニン生産種ムラサキ(Lithospermum erythrorhizon)をモデルとして、ゲノム
編集による遺伝子破壊及び代謝産物の変動を LC-MS/MS で網羅的に調べる系を構築した。
第1章
シコニン関連遺伝子の候補を探索
ムラサキのゲノムデータの解析から、シコニン生産時に発現する ABC トランスポーターLePDR1 のゲノ
ム上のコピー数と複雑なエキソン構造が明らかになった。また、シコニン生合成関連遺伝子の一部にお
いてシングルエキソン化という特殊な進化の痕跡が観察された。ムラサキ科植物の RNA-seq データの比
較から、ムラサキの各遺伝子の無光下、根、シコニン生産種での発現傾向を指数化した。各遺伝子のアノ
テーション、発現傾向及び遺伝子進化の痕跡から、シコニン生産と正の相関のある遺伝子 154 個をリス
トアップした。
第2章
ムラサキのゲノム編集
Rhizobium rhizogenes ATCC15834 を用いて、CRISPRCas9 のベクターをムラサキに導入し、ゲノム編集毛状
根の作製を試みた。シコニン分泌に関連するとされる
遺伝子 LeDI−2 とシコニン生合成時に発現する転写因
子 LebHLHs5c2 それぞれを対象に遺伝子を破壊したラ
インが得られた。シーケンサーの Miseq と MinION を
用いて、遺伝子破壊毛状根のモザイク変異を確認した。
第3章
ムラサキのメタボローム解析
ムラサキ毛状根から代謝産物をメタノールで抽出し、LC-MS/MS 分析の最適条件を決めた。毛状根抽出
物から 2 千種以上のピークが検出され、主要なピークについて精密質量の MS2 データを取得した。CRISPRCas9 のみを導入した毛状根(コントロール)、LeDI-2_KO 毛状根、LebHLHs5c2_KO 毛状根をそれぞれシコ
ニン非生産培地とシコニン生産
培地で 15 日間培養し、代謝産物
を比較した。シコニン非生産培地
において遺伝子破壊株は大きな
化合物変動を示さなかった。シコ
ニ ン 生 産 培 地 に お い て 、 LeDI2_KO 毛状根の polar lipid が顕著
に減少し、LebHLHs5c2_KO 毛状根
のシコニン類が顕著に減少した。 ...