1箇所のアミノ酸残基異性化が生体由来ペプチドの構造および機能へ及ぼす影響の解析
概要
生体内でタンパク質中およびペプチド中のアミノ酸残基の異性化は自発的・非酵素的に生じる。申請者は、この背景をふまえて、加齢後の生体内で確認された生体由来ペプチド中のAsp異性化が、それを含む生体内機能性ペプチドに及ぼす影響を調査した。加齢後ヒト眼内の水晶体中またはアルツハイマー病疾患者脳内に見られる各ペプチド断片を用い、それぞれ内部Asp残基の異性化が、それを含むペプチド機能および構造へと及ぼす影響の解析を行なった。加えて、それぞれの凝集物に対してAsp異性体を修復する酵素を用い、その活性を評価した。
実験1 Asp76残基の異性化がαA66–80へと及ぼす影響の解析
ヒトαA-クリスタリンの66–80番目の部分ペプチド (以下、αA66–80と記述する)中、Asp76残基の異性化がαA66–80の機能および構造へ及ぼす影響を分析した。Asp76残基を4種類のAsp異性体で置換して合成し、凝集能を有するタンパク質と混合し、各ペプチドの凝集誘導能を比較した。その結果、αA66–80 (Lβ) のみが全タンパク質の凝集を抑制する機能を有し、βシート構造およびアミロイド線維を形成することが判明した。αA66–80中でAsp76残基がLβ-Aspへと異性化するとαA66–80の機能や二次構造が大きく変化することが明らかとなった。
実験2 αA66–80 (Lβ) 構成アミノ酸残基がペプチド構造に与える影響の解析
αA66–80 (Lβ) のβシート構造形成に各アミノ酸残基がどのように寄与するのかを解析した。また、αA66–80 (Lβ) が形成するアミロイド線維に対し、Asp異性体修復酵素であるProtein L-isoaspartate o-methyltransferase (PIMT) が作用可能かどうかを検討した。その結果、主として疎水性アミノ酸残基がαA66–80 (Lβ) のβシート構造およびアミロイド繊維の形成に必須であることが示された。加えて、PIMTが濃度依存的にαA66–80 (Lβ) が形成するアミロイド様線維を分解することが示唆された。
実験 3 Amyloid-beta peptide fragment に対する PIMT 活性の解析
PIMTのアミロイド様線維分解能の普遍性を解析するべく本研究では、Amyloid-betaの部分ペプチド (Asp23部位をLβ-Aspに置換したもの) に対するPIMTの分解活性を評価した。その結果、アミロイド線維を形成したAβ15–28 (Lβ) にPIMTを作用させると、PIMT濃度依存的にThT蛍光強度の減少が認められ、PIMTは普遍的にLβ-Aspへの異性化により形成されたアミロイド線維の分解活性を有していることが示唆された。