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大学・研究所にある論文を検索できる 「アルツハイマー病発症関連分子Aβ42産生に寄与するPresenilin 1の構造活性相関解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アルツハイマー病発症関連分子Aβ42産生に寄与するPresenilin 1の構造活性相関解明

蔡, 哲夫 東京大学 DOI:10.15083/0002005163

2022.06.22

概要

【序論】
認知症患者数は全世界で4600万人を超えると見積もられ、その予防・治療法の確立は急務である。アルツハイマー病(AD)は高齢者の認知症を最も多くを占める神経変性疾患である。これまでの研究から、ADの病理学的特徴である老人斑を形成するアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集及び蓄積がAD発症に寄与するとする、「アミロイド仮説」が広く支持されている(図1)。AβのC末端長には多様性があり、中でもAβ42は最も凝集性と毒性が強い。その為、C末端側の切断を行う膜内配列切断酵素であるγ-secretaseの反応機構の解明は注目されている。特に、毒性種Aβ42産生時に生じる構造ダイナミクスの変化は活性制御法の開発に重要であると考えられる。近年、電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析技術の向上により、その立体構造が解明されつつあるが、酵素を構成する各タンパクドメインなどの生体膜内の動的な変化の追跡は依然難しく、構造ダイナミクスの変化の理解を深める障壁となっている。そこで本研究では、生化学的手法を用いることでγ-secretaseの構造活性相関にアプローチする着想に至り、研究を遂行した。

【方法と結果】
1.PS1のTMD3は活性中心ポアを構成するドメインである
γ-secretaseの活性中心サブユニットであるpresenilin1(PS1)は内部に活性中心ポアを保持し、そこで基質を切断する。またPS1の第3膜貫通領域(TMD3)は多くの家族性AD(FAD)変異が報告されており、Aβ42産生制御に関与すると考えられている。そこで、親水性環境下でSubstituted Cysteine Accessibility Methods(SCAM)を用い、TMD3が活性中心ポアに面するかを確かめる為、生細胞と膜画分に発現したPS1に対して標識実験を行った。SCAMは親水性環境下のCys基と特異的にジスルフィド結合を形成するMTSEA-biotinを用いることでタンパク質の構造や環境変化を検出する方法である。その結果TMD3の複数の残基で標識が確認され(図2A)、標識残基の多くがヘリックスモデル上で片面に並んだ(図2B)。これらの結果はTMD3が活性中心ポアを形成することを示唆している。

2.TMD3の膜内領域の決定
引き続き、TMD3の膜内領域の特定を試みた。膜内領域の特定を行ったのは、TMD3の細胞質側と内腔側の境界を知ることで、今後のTMD3の構造や機能解析を細胞質側と内腔側両方から網羅的に行うことを考えたからである。まずTMD3細胞質側の境界残基を特定する為、各種singleCysPS1Mtをstableに過剰発現するDKO細胞のmicrosome画分を用いたSCAMを行った。Microsome画分はright-side-outとinside-outの両配向性が混合する為、intact cellとは異なり通常はaccess不可能な細胞質側親水性環境に面するcysteineも標識することが可能になる。その結果、K160Cから大幅な標識の減少が確認された(図3A)。実際K160CはCys(-)に比して多少のラベルが確認されており、構造的には部分的に細胞膜内に埋もれていると考えられ、K160がTMD3細胞質側末端残基であるとされる(図3B)。

続いて引き続きTMD3の内腔側の境界残基の特定も行った。ここでは3種類のMTS試薬(MTSES、MTSET、MTSTEAE)を用いた。これらのMTS試薬はMTSEA-biotin同様Cys残基に結合するため標的アミノ酸のbiotin標識に対して競合するが、化合物の大きさや電荷によって狭い親水性環境には入り込めず、膜外領域の残基のラベルのみを競合減弱させることが可能である。特にMTS-TEAEはその嵩高さから細胞膜外領域の親水性環境に位置するCys基のみに反応し、結合するとされている。この標識競合実験の結果、G183Cのラベルが3種のMTS試薬全てによって減弱されることが確認された(図4A)。即ち、G183からTMD3の内腔領域が始まり、その直前のL182が内腔側境界に位置するアミノ酸であることが判明した(図4B)。以上の結果より、TMD3の膜内配列はK160からL182までであることが明らかとなった。

3.PS1のTMD3周りの活性中心ポアは酵素活性によって変動する
酵素学的解析から、γ-secretase活性が部分的に抑制されるとAβ42の産生量が上昇し、活性化するとAβ42の産生量が低下することが示されている。これらの活性変化とTMD3周囲の活性中心ポアの相関関係に迫る為、Aβ42産生変動時に引き起こされる活性中心ポアの変化をSCAMで解明した。まずAβ42産生比率を増加させるFAD変異(P117L、M139V、F177L、E184D)をPS1に導入し、TMD3周辺の親水性の変動をSCAMにて解析した。その結果、TMD3の細胞質側F177残基のラベルが特に強く減弱することが共通の現象として確認された(図5A、B)。一方、Aβ42産生を減少させる人工遺伝子変異として見出したV236Sや、γ-secretase modulatorであるST1120を用いた結果、いずれもL166CとF177C両方のラベルの著しい増強が認められた(図5A、C)。即ち、γ-secretase活性化時にはTMD3周囲の活性中心ポアの拡張を通じてAβ42の更なる切断が促進されることが考えられ、特にAβ42の産生が減少する時にはTMD3周囲の活性中心ポアが全体的に増加することが示唆された。

4.TMD3の細胞質側の構造変化がγ-secretase活性を制御する
これまでの検討で、Aβ42産生の変動とTMD3の面する活性中心ポアの関係性を明らかにした。しかしながら、SCAMで用いたMTSEA-biotinは水分子の存在下でcysteineのthiol基と反応することから、標識率増加は正確には活性中心ポアの増大ではなく水分子の存在量の増加、及び親水性の増強を反映しているに過ぎない。そこで本研究では続いてAβ42の産生を制御するTMD3の構造変化そのものに焦点を当て、検討した。ここでは、クロスリンカー存在下のγ-secretase活性の変化を測定した。クロスリンカーは2つのCys基を架橋させ、これらCys基が存在するドメイン間の位置関係を固定することができる。本研究ではTMD7に位置する活性中心D385に近いL383とI387と選択し、それぞれL166とF177と架橋させた。クロスリンカーは、L383-L383間とF177-I387間の距離を最短距離で結べるCupper-Phenanthroline(Cu-PNT)触媒もしくはクロスリンカーM8Mを用いた。それぞれの残基間を最短距離で結ぶと残基間で拡大する構造変化が阻害される。その為、仮に標的残基間の拡大がAβ42産生減少に重要なものであれば、その動きを阻害した場合に化合物等によるAβ42産生減少効果が無くなるだろうと考えた。本検討ではAβ42産生を減少させるγ secretase modulatorであるE2012を用い、in vitro再構成系で産生したAβを測定した。その結果、L166とL383をCu-PNTで直接架橋させた場合にE2012のAβ42減弱効果が無くなることを見出した(図5)。すなわち、L166とL383の間の距離を固定した場合にγ-secretase活性は上昇しなくなることが明らかとなり、γ-secretase活性はTMD3の細胞質側の構造変化によって制御を受けていることが示唆された。

【総括】
本研究で、AD発症の契機となる毒性種Aβ42の産生制御はその切断を担うγ-secretaseのPS1の構造変化を伴っていることを明らかにした。特に、PS1のTMD3が面する活性中心ポアが拡大し、TMD3と活性中心の距離が増大することによってγ-secretase活性の亢進とAβ42産生の低下が引き起こされることが明らかとなった(図7)。近年、クライオ電子顕微鏡によってγ-secretaseと基質の複合体の構造が解かれ、TMD3の細胞質側が、基質の切断部位近傍に位置していることが明らかとなっている。一般的に基質となる膜貫通領域は脂質二重膜中ではαヘリックス構造をとり安定であるため、加水分解を受けるメカニズムは不明であった。しかしγ-secretaseによる切断時に活性中心ポアに取り込まれている基質の切断部位周辺のαヘリックス構造は解かれているとされており、このプロセスにTMD3が関与していることが推測される。今後は生化学的手法やシミュレーション等を合わせて複合的に解析し、TMD3の構造変化や切断部位付近の親水性環境の変化が酵素活性やAβ42切断効率を制御する詳細なメカニズムについて検討を進め、ゆくゆくはTMD3を標的とするより強力なAD治療薬の創出に貢献したい。

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参考文献

Cai T, Morishima K, Takagi-Niidome S, Tominaga A, Tomita T: Conformational dynamics of transmembrane domain 3 of presenilin 1 is associated with the trimming activity of γ-secretase. J Neurosci. 39(43), 8600-8610, 2019

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