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大学・研究所にある論文を検索できる 「β2アドレナリン受容体が複数のシグナルを活性化する動的構造基盤の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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β2アドレナリン受容体が複数のシグナルを活性化する動的構造基盤の解明

夏目, 芽依 東京大学 DOI:10.15083/0002005176

2022.06.22

概要

【背景】
 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は作動薬の結合に伴い、Gタンパク質およびアレスチンを活性化する。活性化されたGタンパク質とアレスチンはそれぞれ別々の生理応答を誘起するため、GPCRが両分子を共に活性化することは重要である。GPCRによるGタンパク質やアレスチンの活性化は、GPCRの立体構造中に存在する、PIFモチーフ、DRYモチーフ、Y5.58、NPxxYモチーフといったマイクロスイッチによって支配されている。一方で、GPCRによるGタンパク質やアレスチンの活性化は、GPCRのリガンドや点変異によって選択的に変調を受けることが分かっている。例えば、分子系統解析を用いて見出された、β2アドレナリン受容体(β2AR)のL1243.43S変異体(右上にBallesteros-Weinstein numberingを示す)は、野生型と同等以上のGタンパク質活性を保持する一方で、アレスチン活性が選択的に低下する(図1)1。選択的なシグナル伝達が可能であることは、GPCRがGタンパク質を活性化する構造メカニズムが、アレスチンを活性化するメカニズムと異なっていることを示唆している。本研究では、作動薬結合状態のβ2ARのマイクロスイッチの構造を解析することで、β2ARがGタンパク質とアレスチンを共に活性化する構造基盤を明らかにすることを目的とした。

【方法・結果】
1. 各マイクロスイッチの構造を検出するNMRプローブの選出、帰属
 作動薬結合状態のGPCRには構造多型が存在し、その構造多型が活性に関与していることが示唆されている。そこで本研究では、原子分解能での動的構造情報を取得できる溶液NMR法を用いて、マイクロスイッチの動的構造を解析することにした。まずは、それぞれのマイクロスイッチの構造を反映する可能性が高い残基を選出した。M822.53の側鎖メチル基由来のシグナルの化学シフトは、PIFモチーフの構造変化に伴い変化することが示されている2。また、Y1323.51、Y2195.58、Y3267.53はそれぞれDRYモチーフ、Y5.58、NPxxYモチーフを構成する残基である。以上の理由から、これらの4残基をNMRプローブとして用いることにした。
 以上の4残基のNMRシグナルを感度良く検出するために、β2ARのメチオニン側鎖メチル基とチロシン主鎖アミド基を、残基内プロトンを重水素化した条件で選択的に標識することにした。[2H,15N]-チロシンと[αβγ-2H,methyl-13C]-メチオニンを1L培養あたり100mg、150mg添加することで、共に80~90%程度標識したβ2ARを発現した。精製したβ2ARの、逆作動薬結合状態と作動薬結合状態について、メチオニン側鎖メチル基(図2A)を観測対象とした1H-13CHMQCスペクトルと、チロシン主鎖アミド基(図2B)を観測対象とした1H-15NTROSYスペクトルを測定した。測定したスペクトルのうち、PIFモチーフの構造を反映するM822.53の側鎖メチル基由来のシグナルを、先行研究2との比較から帰属した(図2C)。逆作動薬結合状態のY1323.51、Y2195.58、Y3267.53由来のシグナルを、それぞれY1323.51F、Y2195.58F、Y3267.53F変異体のNMRスペクトルと野生型のスペクトルを比較することで帰属した(図2D左)。
 一方で、作動薬結合状態では、チロシンとメチオニンの残基内プロトンのみを重水素化した方法では3残基ともシグナルを検出できなかった。そこで、標識方法を変更することによってシグナル強度を上昇させることにした。α-ヘリックスに存在するアミノ酸のアミドプロトンにとって、1残基前のアミノ酸のプロトンとの双極子間相互作用は主要な緩和源となる。よって、目的の残基の1残基前のアミノ酸を重水素化することで、目的の残基のシグナル強度を選択的に上昇させることができると考えた。まず、Y2195.58のNMRシグナルを検出するために、Y2195.58の1残基前のアミノ酸であるバリンを重水素化した試料のNMRスペクトルを測定した。その結果、バリンを重水素化していない試料では検出していなかったシグナルを、バリンの重水素化に伴い新たに1個検出した(図3)。バリンを重水素化した条件のY2195.58F変異体を用いた解析により、このシグナルがY2195.58由来であることが示された(図2D右)。同様の方法でY3267.53も検出し、帰属した(図2D右)。Y1323.51についても同様の解析を行ったが、強度の上昇したシグナルはなかった。よって、Y1323.51は検出が困難であると判断した。

2. 作動薬結合状態のβ2ARの各マイクロスイッチの構造の解析
 作動薬結合状態のβ2ARのPIFモチーフは、先行研究2の通り、M822.53の化学シフトから、オン状態を取ると判断した。一方で、作動薬結合状態のβ2ARのDRYモチーフのY1323.51、Y5.58のY2195.58、NPxxYモチーフのY3267.53由来のシグナルはいずれも、逆作動薬結合状態のシグナルよりも広幅になっていた。この結果は、作動薬結合状態のβ2ARでは、DRYモチーフやY5.58、NPxxYモチーフに構造多型が存在することを示唆している。

3. アレスチン活性が低下した変異体の各マイクロスイッチの構造の解析
 アレスチン活性が低下したL1243.43S変異体と野生型の活性の違いが、マイクロスイッチの構造の違いにより引き起こされるのかを明らかにするために、L1243.43S変異体の作動薬結合状態の各プローブ由来のシグナルを、野生型の作動薬結合状態のシグナルと比較した。その結果、L1243.43S変異体のPIFモチーフの構造を反映するM822.53由来のシグナルは、野生型と同様にオン状態の化学シフトを示した(図4A)。よって、作動薬結合状態のPIFモチーフの構造は、L1243.43S変異の影響を受けないと判断した。また、L1243.43S変異体のNPxxYモチーフのY3267.53由来のシグナルは検出限界未満まで広幅化した(図4D)。よって、作動薬結合状態のL1243.43S変異体のNPxxYモチーフには構造多型が存在すると判断した。一方で、L1243.43S変異体のDRYモチーフのY1323.51とY5.58のY2195.58由来のシグナルは、先鋭化に伴い野生型よりもシグナル強度が上昇した(図4B,C)。この結果は、L1243.43S変異に伴って、DRYモチーフとY5.58では、作動薬結合状態の野生型で存在していた構造多型が抑制されていることを示唆している。
 L1243.43S変異に伴って構造変化が引き起こされる要因について明らかにするために、ロイシンを、グリシン、またはメチオニンへ置換した変異体の作動薬結合状態について解析した。その結果、Y1323.51とY2195.58由来のシグナルはいずれも、L1243.43G変異体で、L1243.43S変異体と同様の化学シフトを示した一方で、L1243.43M変異体では、作動薬結合状態の野生型と同様の化学シフトを示した(図4)。今回解析したアミノ酸の側鎖の体積は、メチオニンがロイシンと同程度であるのに対し、グリシンはセリンと同様にロイシンよりも小さい。よって、L1243.43の側鎖の体積を小さくすることによって、DRYモチーフとY5.58の構造多型が抑制されたと結論した。

【考察】
 本研究により、β2ARのL1243.43の側鎖の体積を小さくするとDRYモチーフとY5.58の構造多型が抑制されることが分かった。このことは、L1243.43のかさ高い側鎖がDRYモチーフとY5.58の構造多型に関与することを示唆している。また本研究により、作動薬結合状態の野生型ではDRYモチーフとY5.58の構造多型が存在するのに対し、アレスチン活性が低下した変異体ではその構造多型が抑制されることが分かった。この結果は、作動薬結合状態の野生型では、DRYモチーフとY5.58の構造多型が、Gタンパク質とアレスチンを共に活性化するのに必要であることを示唆している。以上のことから、作動薬結合状態のβ2ARでは、L1243.43のかさ高い側鎖に構造多型が存在することで、DRYモチーフとY5.58へ構造多型が伝搬したと考えた。このような構造多型の伝搬によって、作動薬結合状態のβ2ARでは、DRYモチーフとY5.58の構造のアンサンブルの中に、Gタンパク質やアレスチンが認識できる別々の構造を取るようになったことで、複数のシグナルを活性化するという構造基盤を提唱する(図5)。

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参考文献

1. Picard et al, ACS Pharmacol. Transl. Sci. (2019), 2. Kofuku et al., Nat. Commun. (2012)

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