知的障害関連遺伝子CHAMP1欠損マウスにおける脳の発生及び行動解析
概要
Chromosome alignment maintaining phosphoprotein(CHAMP1, CAMP)は、分裂期において、動原 体と微小管の結合の維持に必要なタンパク質である。近年 CHAMP1 は知的障害(ID;Intellectual disability)に関連する遺伝子の 1 つであることが報告された。また、CHAMP1 がマウスの脳において高発 現していることを報告された。このことから、脳機能において CHAMP1 が重要な役割を担っている可能性 が示唆されたが、個体における CHAMP1 の機能は未だ不明である。CHAMP1 欠損がもたらす発達への影 響を解析するために、CHAMP1 欠損マウスを作製した。CHAMP1 ホモノックアウトマウス(CHAMP1-/- マウス)は生後直後に死亡し、出生時、野生型マウス(CHAMP1+/+マウス)よりわずかに小さかった。 CHAMP1 は脳全体で発現しており、神経細胞産生期である胎生期で高発現していた。CHAMP1-/-マウスの 脳では、解剖学的に大きな異常は認められなかったが、CHAMP1+/-マウス及び CHAMP1-/-マウスの大脳皮 質の脳室帯では分裂期細胞の数が増加していた。行動テストバッテリーでは、成体の CHAMP1 ヘテロノッ クアウトマウス(CHAMP1+/-マウス)は、T 迷路テストで軽度のワーキングメモリー障害、文脈的恐怖条件 付けテストで長期文脈記憶障害、Crawley の社会的相互作用テストで短期記憶障害を示した。また CHAMP1+/-マウスは、Porsolt 強制水泳テストで鬱様行動、プレパルスインヒビションテストにおいて CHAMP1+/-マウスは感覚・運動ゲーティングの異常を示した。しかしながら、CHAMP1+/-マウスは、オー プンフィールドテスト、明暗移動テスト、高架式十字架迷路テストにおいて、不安様行動を示さなかった。 次に、胎児の全脳、成体のマウスの大脳皮質及び海馬を用いて RNA-seq 解析を行った結果、成体 CHAMP1+/- マウスの大脳皮質において知的障害関連遺伝子の遺伝子発現が低下し、胎児 CHAMP1-/-マウスでは神経発 達に関する遺伝子発現の遅延が認められた。行動テストから示される記憶障害の表現型や RNA-seq 解析か ら知的障害遺伝子の遺伝子発現低下はCHAMP1 +/-マウスが知的障害のモデルマウスとなりうる記憶障害の 表現型と一致し、知的障害のメカニズムを解析するためのモデルになり得ることを示唆する。