リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Interventional study by care bundle to reduce mechanical irritation for prevention of peripheral intravenous catheter failure」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Interventional study by care bundle to reduce mechanical irritation for prevention of peripheral intravenous catheter failure

高橋, 聡明 東京大学 DOI:10.15083/0002001417

2021.09.08

概要

緒言
末梢静脈カテーテル(PIVC: Peripheral intravenous catheter)は最も広く用いられている医療機器の1つである。しかし交換の予定が無いにも関わらず中途で抜去せざるを得ない症例は珍しくなく、本邦においても約 20-30%の予定外の抜去(Catheter failure) が発生している事が報告されている。Catheter failure は疼痛・発赤・腫脹などの症状や徴候を伴う静脈炎・血管外漏出の合併や、薬剤の滴下投与が不良となるなどの複合的な状態を示す事が多い。この Catheter failure は患者に疼痛などの症状をもたらし、治療中断、更に PIVC の再留置による人的物的コストの増加を起こす事が報告され、療養上の重要な問題となっている。

著者は修士論文の研究として、Catheter failure の原因の探索を臨床研究にて行った。非侵襲的に皮下をリアルタイムに観察できる超音波検査(US: Ultrasonography)を用いて、Catheter failure 時における皮下組織、血管、カテーテルの観察を行った。その結果、Catheter failure の原因はPIVC の血管外へのカテーテルの逸脱ではなく、血管内血栓やそれに伴う周辺組織浮腫である事が観察された。更に血栓形成や浮腫のリスク因子を分析するとCatheter failure には、PIVC 留置が1 度目の穿刺で成功していない事が関連していた。そこで 2 度目以降で留置が成功した場合の、穿刺時の肢位及び US 画像による血管内のPIVC の位置の実態を質的に分析した。血管内の PIVC の位置が血管の上方、つまり皮膚側に先端が確認され、 PIVC が血管壁に断続的な刺激を加えている事が示唆された。この結果から PIVC の位置異常による機械 的刺激に着目した。更にCatheter failure のリスク因子を探索すると、PIVC 外径の3.3 倍以上の血管径であるとCatheter failure を起こし難いことが示された。更に別の研究では PIVC の素材はテフロンより、体熱に反応して柔軟性を増すポリウレタンが Catheter failure を起こし難い事が示された。以上より、これらの3 つの機械的刺激のポイントへ介入することがCatheter failure の予防の為に重要だと捉えた。

近年、複数の項目を束ねて介入項目とするケアバンドルと言うコンセプトが提唱されている。臨床で実施されるケアは連続した複数の動作で成り立っており、1 つの項目の改善では効果を得難いため、複数の項目を同時に改善する必要がある為である。本研究でもこのコンセプトを導入し、上記の 3 つのポイント全てを介入項目とした。具体的には1) 穿刺前に US を用いて血管を観察して血管の選定を補助し (Pre-scan)、2) 穿刺後に US を用いてPIVC の位置の確認・調整を行い(Post-scan)、3) PIVC 素材としてポリウレタンを用いる事をケアバンドルとした。

しかし、看護師がベッドサイドでより簡便に、末梢静脈や留置された PIVC の観察をするには、従来のラップトップ型 US では躯体が大きく、ユーザビリティに欠けていた。新しく開発されたタブレット型の US の有用性を検証する研究を、先行して行う必要がある。

本研究の目的はCatheter failure を予防する為の 3 つの項目を含むケアバンドル介入方法の確立と、その評価を行う事である。この目的を達成するために、第 1 章:タブレット型 US による血管アセスメント方法の信頼性妥当性の検証を行い、次に、第 2 章:機械的刺激を低減するケアバンドル介入による Catheter failure の予防効果の検証を行った。

第 1 章:末梢静脈カテーテル使用時の静脈アセスメントを目的としたタブレット型超音波検査装置の信頼性妥当性の検証

背景
タブレット型 US は、従来のラップトップ型よりも軽量で持ち運びが容易である。SonoSite®iViz®は、簡単に片手でディスプレイを携行出来る為、特にユーザビリティが高い。しかし、静脈および皮下組織アセスメントの信頼性妥当性は未だ不明である。この研究の目的は、PIVC 部位選択のための血管径、深さ、PIVC 先端位置の評価ツールとしてのタブレット型 US の妥当性、信頼性を検証する事とした。

方法
東京大学医学部附属病院にて 2017 年 1 月から 2 月に横断的観察研究を行った。包含基準は対象となる 2 病棟に入院中の患者に使用されるPIVC とした。基準関連妥当性としてすでに先行研究で用いられているラップトップ型 US を基準として、ピアソンの相関係数 (r) を算出した。検者内信頼性は訓練を受けた看護師と超音波検査士の 2 人の評価者が同一の画像を最低 3 日間の期間をあけてそれぞれ血管径、深さ、PIVC 先端位置の評価を行い、級内相関係数(ICC)を算出した。検者間信頼性では訓練を受けた看護師と超音波検査士の 2 人の評価者が同一の画像を評価し、ICC を算出した。また PIVC 先端位置は同様に基準関連妥当性、検者内信頼性、検者間信頼性、についてそれぞれκ係数を用いて検証した。

結果
26 本の PIVC を分析対象とした。血管径と深さの基準関連妥当性 (r) では、超音波検査士で血管径について 0.82 (p < 0.01) と深さ0.82 (p < 0.01) であった。検者内信頼性は超音波検査士でICC (95%CI) で 0.89 (0.76-0.95) と 0.96 (0.91 -0.98) であった。 看護師では、0.93 (0.84 -0.97)と 0.95 (0.88 -0.98) であった。検者間信頼性は血管径 0.96 (0.95 -0.99) と深さ 0.94 (0.86 -0.97) であった。看護師では血管径 0.95 (p < 0.01)、深さ 0.93 (p < 0.01) であった。PIVC 先端位置は全ての項目でκ係数が0.8 以上であり、基準関連妥当性または検者間、検者内信頼性で p < 0.01 を示した。

小括
タブレット型装置の妥当性と信頼性が示された。本研究の介入項目である Pre-scan (血管径、深さの測定)、Post-scan (PIVC の位置の判別) が十分に可能な機器であると判断された。

第 2 章:末梢静脈カテーテルのトラブル予防の為の機械的刺激を低減するケアバンドルによる介入研究

背景
PIVC 留置による血管への機械的刺激を低減することが、Catheter failure を低減させるというエビデンスを用い、Pre-scan、Post-scan、ポリウレタンカテーテルの使用を含むケアバンドルを確立し、そのケアバンドルによる介入が Catheter failure の発生を低減させるかを明らかにし、さらにバンドル介入に並存するリスク因子を分析する事を目的とした。

方法
2017 年 7 月から 11 月に、非ランダム化比較対照試験を実施した。介入項目であるケアバンドルによる効果のコンタミネーションを防ぐ目的で、PIVC 毎のランダム割付は実施せず、看護師の所属する病棟を割り付けコホートとした (介入群 1 病棟、対照群 1 病棟) 。包含基準は対象となる 2 病棟に入院中の患者に使用される PIVC とし、除外基準は、がん化学療法を受ける患者及び認知能力の低い患者に使用されるカテーテルとした。

介入群では PIVC 留置時にPre-scan による血管選択、Post-scan によるカテーテル位置確認を実施し、ポリウレタン素材のカテーテルを使用する。超音波検査装置は調査者が使用し、ベッドサイドでリアルタイムに画像所見を看護師へ情報提供して、看護師が PIVC の留置と固定を行った。対照群は従来通りのケアを行った。

主アウトカムはCatheter failure とし、発生率、発生をイベントとした生存時間解析を行った。Catheter failure はカテーテルの計画外の抜去の全て、と定義した。データ収集は看護師からの報告またはカルテより行った。サロゲートアウトカムとして、血管径と PIVC が適切な位置に配置されたかを US にて確認した。

統計解析手法としては異なる性質を持つ可能性のあるランダム化されていない 2 群を比較する為、傾向スコアの逆確率による重み付け (IPW: Inverse probability Weighting) を行った。追加分析として、介入項目以外に Catheter failure に特に関与したリスク因子を探索する目的で、分析対象となった全症例を用いて階層的ロジスティック回帰分析を行った。更にケアバンドル内の分析として、介入群に割り付けられた全症例を用い、US を用いた介入項目と、PIVC の素材を各変数として階層的ロジスティック回帰分析を行った。本研究は東京大学医学部倫理審査委員会の承認を得て行った。

結果
介入群 160 人 183 本の PIVC、対照群 157 人 233 本の PIVC が分析対象となった。調整前の Catheter failure 発生率は対照群が 68 本 (29.2%)、介入群が 21 本 (11.1%) であった。人日法で発生率を比較すると介入群は 35.0/1000 days、対照群は89.5/1000 days であった。IPW 後も、有意に発生率に差があり (p < 0.01)、相対リスク減少は 60.1%であった。生存時間分析においてもLog-rank 検定にて有意差を認めた(p < 0.01)。サロゲートアウトカムとした選択された血管径は、介入群で有意に大きく (p < 0.01)、適切な PIVC 先端位置となった症例は介入群で有意に多かった (p < 0.01)。追加分析では介入項目以外に C 反応性蛋白(CRP)、手背への留置、高浸透圧薬剤の使用が Catheter failure に関連していた (p < 0.01)。またケアバンドル内の分析ではポリウレタンカテーテルの使用はCatheter failure の発生に関連せず (p = 0.78)、 US を用いた Pre-scan、Post-scan がCatheter failure の発生を低減させる事が示された (p < 0.01)。

考察
本研究では、ケアバンドル介入によって Catheter failure の発生率は大きく減少し、生存時間分析においても有意差がある事を示した。介入項目以外に Catheter failure に関連していた因子として高浸透圧薬剤の使用、高い CRP 値が抽出された。今後は、これらが Catheter failure に関与する機序を詳細に分析し、さらなる質の高いケアを考案していく必要がある。ケアバンドル内の分析では、ポリウレタンカテーテルの使用は Catheter failure の発生を軽減する傾向は示していたが有意ではなかった。これは Pre-scan、 Post-scan によってカテーテルが血管壁に与える機械的刺激を十分に低減出来ていた可能性があるが、ポリウレタンカテーテルの有効性を否定する結果ではない。

本研究の限界として、非ランダム化試験であり、盲検化も十分ではない事、調査者自身が Pre-scan、 Post-scan を実施した事が挙げられ、外挿性については留意する必要がある。今後、教育的アプローチの開発、高浸透圧薬剤などのリスク因子への対応など、より外挿性を高めるための臨床研究が求められる。

総括
本稿は看護領域における理工学的コンセプトに基づき、ここでは US 画像によるケアの可視化によって、臨床上の問題であるCatheter failure を防ぐ事を狙った介入研究である。修士課程からCatheter failureの原因解明の為の臨床調査、分析を段階的に実施し、解明されてきた結果に基づいて、予防を目指して看護実践への介入研究を実施した。看護師がベッドサイドにてCatheter failure を予防する為には、US を用いて血管の選択、カテーテル位置の確認・調整を行うなどの機械的刺激を低減するケアバンドルの実施が有効である事を示した。本研究は近年急速に広まりつつある看護学領域における理工学的アプローチを臨床で実践する為に、非常に重要な試金石となり得る。