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大学・研究所にある論文を検索できる 「Differences in gaze behaviors between trainees and experts during endovascular therapy for cerebral aneurysms: a preliminary study using a cerebral aneurysm model」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Differences in gaze behaviors between trainees and experts during endovascular therapy for cerebral aneurysms: a preliminary study using a cerebral aneurysm model

大塚, 崇史 名古屋大学

2023.01.24

概要

【緒言】
脳動脈瘤に対するコイル塞栓術や急性脳梗塞に対する機械的血栓除去術の有用性が証明され、脳血管内治療件数が増加しており、より効率的に技術を習得するためのトレーニング方法の開発が求められている。視線解析技術は、スポーツや運転など様々な分野で活用されており、医学教育の分野でもその有効性が多く報告されている。脳血管内治療の術者には、透視画像から状況を認識する能力が求められる。熟練した術者がどこに注目しているかを知ることで、訓練医は、より効率的に技術を向上させることができる。本研究の目的は、脳動脈瘤モデルを用いて、コイル塞栓術における訓練医と指導医の視線行動の違いを検証することである。

【材料と方法】
本研究は、名古屋大学医学部附属病院の生命倫理審査委員会の承認を得て行った。本研究には、当院および関連施設の脳神経外科医 6 名(日本脳神経血管内治療学会専門医 3 名(被験者 4-6)、非専門医 3 名(被験者 1-3))が参加した。脳血管内治療術者としての経験症例数は、それぞれ 14、20、110、295、600、2000 例であった。被験者には、bi-plane X 線透視下に、シリコン製脳動脈瘤モデルにマイクロカテーテルを誘導し、離脱式コイルを留置するタスクを課した。脳動脈瘤モデルの内頚動脈に 6Fr のガイディングカテーテルが留置されており,被験者は、そこからマイクロカテーテルを、マイクロガイドワイヤーを用いて中大脳動脈瘤まで誘導し、離脱式コイル 1 本を留置した。術者はマイクロガイドワイヤーとコイルを、助手はマイクロカテーテルを操作し、術者は助手にマイクロカテーテルの操作を指示した。C アームと手術台は固定され、すべての実験が同じ透視画像の下で行われた。側方像は動脈瘤と 2 本の分枝血管の位置関係は側方像で分離した。正面像は down-the-barrel view とした(Fig.1A)。各被験者は術中にゴーグル型の視線解析装置(Pupil Core; Pupil Labs GmbH, Berlin, Germany)を装着した。視線解析装置には,眼球運動を記録するための近赤外線カメラと,被験者の前方の視野を記録するためのビデオカメラが搭載されており、注視点の座標が計算され、視野のビデオに投射される仕組みで、視線行動が記録された。マイクロカテーテル誘導では、誘導開始から動脈瘤への誘導終了までの時間を関心時間とし、各術者が正面像と側面像の間で注意を切り替えた頻度を算出した。コイル挿入では、コイル先端がマイクロカテーテル先端に到達した時点から、術者が動脈瘤へのコイル留置を完了するまでの時間を関心時間とした。関心領域は、正面像ネイティブ画像とロードマップ画像、側面像ネイティブ画像とロードマップ画像の 4 つの画像それぞれにおいて、動脈瘤とマイクロカテーテルの近位マーカーに設定した(Fig.1B)。視野角の約 1°以内に≧100ms 固定されたものを注視とし、手動で抽出した。抽出された注視は、上記 8 つの関心領域及びその他に割り当てた。1 分あたりの注視頻度と平均注視時間を算出した。また、ネイティブ画像とロードマップ画像、正面像と側面像、動脈瘤とマイクロカテーテル間での注視時間の比率を算出した。さらに、マイクロカテーテル押し引きの場面での注視点のヒートマップを作成した。各視線パラメーターと経験症例数との 関係をスピアマンの順位相関係数を用いて検定した。

【結果】
手技に要した平均時間は、マイクロカテーテル誘導が 141.8 秒、コイル塞栓が 270.9秒であった。マイクロカテーテル誘導中に正面像と側面像の間で注意を切り替える頻度は 1.8~15.4(回/分)であり、経験症例数との有意な関連は認めなかった。被験者 1 と被験者 3 の 2 人の訓練医は、注意の切り替え頻度が少ない傾向があった。コイル挿入において、経験症例数と視線パラメータとの有意な関連は認めなかったが、被験者 2を除くと、経験例数の増加に伴い、全体の注視頻度が増加し、平均注視時間が減少する傾向があった。非専門医 3 名とも、術者の時は助手の時に比べて注視頻度が減少し、平均注視時間が増加した(Table 1)。注視時間の比較では、ネイティブ画像とロードマップ画像では、被験者 6 を除き、ロードマップ画像をより注視されていた(ρ = 0.09)。正面像と側面像では、被験者 3 を除いて側面像の方がよく注視されていた(ρ=0.49)。動脈瘤とマイクロカテーテルでは、すべての被験者で動脈瘤の方が注視されていた。経験症例数が増えるにつれてマイクロカテーテルの注視時間が増加する傾向があった(ρ=0.71)(Fig.2)。被験者 6 が術者、被験者 1 が助手であった実験で示された、カテーテルを押す場面の 10 秒間の注視のヒートマップでは、最も経験の浅い被験者 1 の視線が動脈瘤の周辺に集中していたのに対し、経験豊富な被験者 6 の視線は動脈瘤だけでなく、マイクロカテーテルの周辺にも集中していた(Fig.3)。

【考察】
本研究では、コイル塞栓術における訓練医と熟練医の視線行動の違いが観察された。マイクロカテーテル誘導とコイル挿入のいずれにおいても、熟練医の方が視線を動かす頻度が多い傾向にあった。また、コイル挿入課題では、熟練医の方がマイクロカテーテルを長く見ている傾向が見られた。これらの結果から、視線行動が外科医の経験レベル、あるいはトレーニングによる技術レベルの向上の指標として利用できる可能性が示唆された。マイクロカテーテル誘導中、被験者 2 を除き、専門医は非専門医に比べ、正面像と側面像の間で注意を切り替える頻度が高い傾向にあった。脳血管は立体的な走行をしていて、更に本実験で使用したモデルでは複数の動脈瘤が配置されていた。安全にマイクロカテーテルを誘導するためには血管の屈曲部や途中の動脈瘤を、それぞれに適した画面で観察する必要があり、そのために専門医の方が注意を切り替える頻度が高くなったと考えられた。コイル挿入では、被験者 2 を除き、経験症例数が増えるにつれて注視頻度が増加し、平均注視時間が減少する傾向があった。コイル塞栓術は、挿入するコイルの形状、マイクロカテーテルの先端の位置、マイクロカテーテルのたわみなどの状況が刻々と変化する手技である。熟練医は視線を頻繁に動かすことで、これらの変化により早く気づくことができると考えられる。また、経験豊富な術者ほどマイクロカテーテルを長く見る傾向があった。これは、マイクロカテーテルの押し引きの場面ではさらに顕著であった。マイクロカテーテルが押されると、マイクロカテーテルの近位側がたわみ、先端が先進する。逆に、マイクロカテーテルを引くと、マイクロカテーテルの近位側のたわみが解消し、先端が下がる。熟練医は、カテーテルの先端だけでなく、マイクロカテーテルのたわみにも注意を払いながら、より繊細にマイクロカテーテルの先端位置を調整していたと考えられる。本研究にはいくつかの制限があった。本研究は、我々の機関および関連施設のみから選ばれたわずか 6 人の被験者が行った単一タスクにおける視線データに過ぎない。関心領域への視線の割り当てを手作業で行うため、空間的な誤差が生じた可能性がある。また、マイクロカテーテルの押し引きの場面は偶然に現れるものであり、再現することは困難である。

【結語】
視線解析は、脳血管内治療における術者トレーニングに有用であると考える。今回の結果を検証するためには、より多くの被験者と様々なタスクにおいて視線データを取得する必要がある。