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大学・研究所にある論文を検索できる 「UCoAlにおける遍歴電子強磁性の量子相転移の研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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UCoAlにおける遍歴電子強磁性の量子相転移の研究

前田 瑞穂 東北大学

2020.03.25

概要

物質の基本的な性質のひとつである磁性や電気伝導は、ともに電子によって担われる。電子の波動関数が空間的に広がっている場合は、隣接サイトの軌道と重なることで、電子は固体中を遍歴する。電子間の相関が強い系では、運動エネルギーが電子間クーロン力と競合する結果として多彩な物性が実現する。本研究では、このような強相関電子系における量子相転移現象を理解することを目的とする。

磁気秩序温度が絶対零度に落ち込む点は量子臨界点と呼ばれ、その近傍では非従来型超伝導など新奇物性がしばしば発現することから、物性探索をはじめとして精力的に研究が行われている。遍歴電子強磁性物質の場合は、絶対零度近傍で強磁性転移が一次相転移となりゼロ磁場では量子臨界点が現れない場合がある。一次の強磁性転移が絶対零度に落ち込む点(本論文では強磁性消失点と呼ぶ)は量子臨界点とは異なるものの、その近傍では強磁性と共存する超伝導やスピンゆらぎの理論に当てはまらない非フェルミ液体状態など興味深い物性が報告されており、強磁性消失点近傍の量子相転移現象の解明が望まれる。また、圧力下で強磁性が消失した常磁性基底状態からは、磁場誘起による磁気分極、すなわちメタ磁性が生じることが知られている。圧力下でメタ磁性が消失した点が遍歴強磁性物質における量子臨界点となると考えられているが、多くの場合到達に高圧および高磁場を要するため、量子臨界現象の理解は途上である。

UCoAl は常磁性の基底状態から磁場印加により一次のメタ磁性転移を示す金属磁性体である。数%の元素置換や数 GPa の静水圧印加によって、すなわち実験的に比較的容易に強磁性消失点と量子臨界点にそれぞれ到達可能と考えられる系である。本研究では、遍歴電子強磁性の強磁性消失点および量子臨界点近傍の電子物性を明らかにすることを目的として、元素置換系U(Co1−xOsx)Al における電気抵抗と極低温比熱、および UCoAl の圧力下電気輸送特性の研究を行った。

UCoAl の強磁性消失点近傍における非フェルミ液体状態
UCoAl の強磁性消失点に注目したマクロ物性はほとんど未解明であった。本研究では単結晶U(Co1−xOsx)Al を用い、はじめに磁化・交流帯磁率測定より温度-磁場-元素置換量相図を明らかにした。交流帯磁率の損失成分、すなわち磁気ヒステリシスを評価することにより、一次の強磁性転移およびメタ磁性の相転移点を明確に決定することができた。強磁性消失点および三重臨界点位置はそれぞれ x~0.004、0.007 と決定した。相図を決定した上で、強磁性消失点近傍の常磁性相において電気抵抗 ρ および比熱 C の非フェルミ液体的振る舞いを見出した。電気抵抗は ρ ∝Tn (n ≈ 3/2, T: 温度)の温度依存性を示し、比熱は通常の電子比熱と核比熱の和では表すことができない温度依存性であった。これらの電子物性はともにスピンゆらぎの理論にあてはまらないものであるため、この非フェルミ液体状態は連続相転移近傍で実現するような通常のスピンゆらぎでは説明できないものと考えられる。また、電気抵抗の温度依存性はUCoAl の圧力下においてフェルミ液体的な振る舞いに回復することから、上述の非フェルミ液体状態は強磁性消失点近傍に限られたものと言える。加えて、電気抵抗の A 係数の振る舞いからは、強磁性消失点近傍における磁気ゆらぎの発達が示唆される。以上より、上述の非フェルミ液体状態は一次の強磁性相転移近傍の磁気ゆらぎが原因である可能性がある。ρ ∝T 3/2 は MnSi, ZrZn2 といった他の遍歴電子強磁性物質の強磁性消失点近傍でもみられる振る舞いであり、遍歴強磁性物質に特有の物性である可能性が示唆される。

UCoAl の量子臨界点および静水圧下における量子相転移
過去の UCoAl の圧力実験では、二つの異なる相図が報告されている。一方は電気抵抗等の測定より 1.5 GPa を、もう一方は交流帯磁率測定より 2.9 GPa を量子臨界点とした。本研究では電気抵抗の測定が行われていなかった 2.4 GPa 以上に特に注目して電気輸送量測定を行い、量子臨界点位置の決定および圧力下の量子相転移を明らかにすることを目的とした。圧力発生にはピストンシリンダー型セルを用い、横磁気抵抗およびホール抵抗の測定を行った。はじめに電気抵抗の A 係数を評価し、絶対零度近傍では約 2.6 GPa で最大となることを示した。これは量子臨界点の存在を示唆するものであり、交流帯磁率による先行研究に近い結果となった。電気抵抗による先行研究との相違は、A 係数の温度依存性にあると考えた。一方で、1.5 GPa 近傍においても特徴的な物性変化を見出した。残留抵抗はメタ磁性に伴い顕著な増大を、ホール抵抗・磁気抵抗はともにフェルミ面の相転移を示唆する振る舞いを示す。また、フェルミ面の相転移が示唆される近傍では広い圧力範囲にわたって電気抵抗に ρ ∝T n (n ≈ 5/3) の非フェルミ液体の振る舞いがみられた。これは強磁性スピンゆらぎを示唆する温度依存性だが、フェルミ面の相転移と関連している可能性も考えられる。また、ゼロ磁場においても 1.5 GPa 近傍では A 係数と残留抵抗に異常がみられ、電子構造の変化が示唆される。以上のように、UCoAl は複数のメタ磁性転移あるいは量子相転移のメカニズムを内包する特異な物質である可能性があることが明らかとなった。

まとめ
UCoAl の強磁性消失点近傍において、スピンゆらぎの理論にあてはまらない非フェルミ液体状態を見出した。この振る舞いは強磁性消失点近傍における磁気ゆらぎが起源の、遍歴強磁性物質に普遍的な物性の可能性がある。また、電気抵抗の A 係数を評価することによりUCoAl の量子臨界点が 2.6 GPa 近傍に存在することを示した。さらに、UCoAl の圧力下相図は従来考えられてきたものより複雑であり、電子構造が複雑に変化していると考えられる。今後、強磁性消失点近傍の非フェルミ液体状態の起源および圧力下における電子構造の詳細の解明、遍歴強磁性物質一般における量子相転移のさらなる理解が望まれ る。

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