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高齢者進行膵癌に対する化学療法の有効性と安全性の検討

中村, 知香 東京大学 DOI:10.15083/0002005032

2022.06.22

概要

我が国の65歳以上の人口は増加の一途をたどっており、平成29年には27.7%に達している。2050年までには全世界で60歳以上が2倍になり、80歳以上は4億人に及ぶと言われている。高齢化が進むにつれて、癌に罹患する高齢者も増加することが予想される。膵癌は年々増加傾向にあり、高齢者の割合も増加してきている。膵癌は早期発見が難しく、唯一の根治治療と言われている外科的切除の割合は20-30%と報告されている。切除不能膵癌に対する標準治療の第一選択は化学療法である。長らく切除不能膵癌化学療法の第一選択薬剤は世界的にGemcitabine(GEM)とされており、GEMと他薬剤の併用療法による臨床試験がいくつか行われてきたが、GEM単剤を上回る結果は得られなかった。本邦では、S-1が切除不能膵癌に対する治療として広く使用されており、GEM単剤療法に対するS-1療法の非劣性が証明されている。近年、遠隔転移のある膵癌に対し、FOLFIRINOX療法やGEM+nabPTX療法等の多剤併用療法の有効性が前向き試験で報告されている。本邦の膵癌診療ガイドラインでもPerfomance status(PS)や合併症を考慮した上で、これらの多剤併用療法が一次化学療法として推奨されている。しかし、他臓器障害や併存疾患を有する高齢者では、多剤併用療法により重篤な有害事象を生じることが予想されるため、臨床試験の対象外になることが多く、高齢者に対する治療のエビデンスは乏しい。これまでに高齢者膵癌に対する化学療法の有効性と安全性に対する後ろ向きの検討において、高齢であることが予後不良になるという報告はいくつかあるが、高齢者に対する多剤併用療法の有効性と安全性は明らかになっていない。化学療法導入の適応の指標の一つとして、Charlson Comorbidity Index(CCI)が報告されている。過去に当科では、膵癌化学療法において、CCIが有意な予後不良因子であったと報告している。しかし、当時は単剤療法がメインであり、現状に則した再評価が必要であると考えた。

高齢者においては、筋肉量の低下も問題の一つである。1989年にRosenbergが加齢による骨格筋減少を意味する言葉としてサルコペニアを提唱している。過去にはサルコペニアの有無と化学療法との関係性も報告されており、サルコペニアは予後不良因子の一つと言われている。

今回、高齢者の進行膵癌に対する多剤併用療法を含めた化学療法の有効性について年齢や併存疾患、サルコペニアとの関係を後ろ向きに検討し、高齢者膵癌に対する化学療法の有効性と安全性を評価した。

本研究は、後ろ向き研究であり、東京大学医学部附属病院において2006年1月から2017年12月までに切除不能膵癌と診断された559例を対象とした。75歳未満を非高齢群、75歳以上を高齢群に分類し、それぞれの群の生存期間を比較し、性別、Performance status、併存疾患、他臓器転移の有無、診断時のCA19-9値、Neutrophil/Lymphocyte ration(NLR)、Platelet/Lymphocyte ratio(PLR)、Modified Glasgow Prognostic Score(mGPS)、治療方法について比較検討した。サルコペニアについては、診断時に撮影したCTを用いて骨格筋面積をSlice-O-Maticソフト(version5.0; Tomo Vision, Montreal, Canada)を用いて測定し、身長の二乗で除することで標準化したskeletal muscle index(SMI)を用いて評価を行った。OS,PFSの生存期間はKaplan-Meier法で算出し、logrank検定で評価した。カテゴリー変数を比較するためにカイ二乗検定、フィッシャーの正確比検定を用いた。連続変数を比較するためにスチューデントのt検定、マン・ホイットニーのU検定を用いた。OSに対する予後因子の単変量・多変量解析は、Coxの比例ハザードモデルで検討し、患者背景及び腫瘍因子と治療法の統計学的な交互作用を検討した。すべての解析において、p値0.05未満を統計学的に有した。

研究期間中に559人が切除不能膵癌と診断され、450人(80.5%)が初回化学療法を導入している。内訳は、75歳未満が334人(74.2%)、75歳以上が116人(25.8%)であった。残りの109例はBest Supportive Care(BSC)の方針となった。BSCの理由としては、PS不良または急激な低下が最多の理由であった。化学療法群の全生存期間中央値は12.0ヶ月、BSC群の全生存期間中央値は2.9ヶ月であり、化学療法群の生存期間が、統計学的有意に長かった(p<0.01)。

化学療法群の年齢別の検討では、PS0の患者割合は非高齢群で有意に高かった(p=0.03)。また、CCI0の患者の割合は非高齢群で有意に高く(p=0.05)、高齢群の方が併存疾患が多い傾向を認めた。また、高齢群では非高齢群より単剤療法を選択する割合が高かった(p

化学療法群の治療別の検討では、多剤併用療法群の方が年齢が有意に低く(p<0.01)、PS良好、他臓器転移を有する症例の割合が多い傾向を認めた。単剤療法群、多剤併用療法群それぞれの全生存期間の中央値は8.9ヶ月、18.2ヶ月と多剤併用療法群の方が有意に生存期間が長い傾向にあった(p<0.01)。高齢者では多剤併用療法群でgrade3-4の貧血、食欲不振、下痢、口内炎を高頻度に認めた。

化学療法中止の理由は、非高齢群・高齢群共に病状の進行が最も多かった。また、二次治療導入率は非高齢群で25.5%、高齢群で11.2%と非高齢群の方が有意に高かった(p<0.01)。また、両群共に二次治療を行っていない群よりも二次治療を行った群の方が有意に生存期間が長い傾向にあった(p=0.02)。

化学療法群のレジメン別の検討では、GEM単剤が最も多く、多剤併用療法群では、単剤併用療法群と比較して年齢が低い傾向にあった。有害事象においては、Gemcitabine+S-1やFOLFIRINOX、Gemcitabine+nab-PTX療法でgrade3-4の好中球が多くみられた。

化学療法群の高齢者のサルコペニア別の検討では、全生存期間において非サルコペニア群がサルコペニア群と比較して長い傾向にあった(p=0.05)。また、高齢者のサルコペニア群では非サルコペニア群と比較してgrade3-4の血小板減少と食欲不振が多い傾向にあった。

全生存期間に対する単変量・多変量解析では、PS、CA19-9、NLR、mGPS、遠隔転移の有無、多剤併用療法施行は全生存期間に対する有意な予後因子であったが、高齢やCCI、サルコペニアは有意な予後因子ではなかった。高齢者では、遠隔転移の有無や多剤併用療法施行が有意な予後因子であった。年齢別のサブグループ解析では非高齢群のサブグループ解析において、NLR≥2.5、PLR≥150の症例において単剤療法より多剤併用療法の有効性が高いという交互作用を認めたが、CCI≥1やサルコペニアとの交互作用は認めなかった。一方、高齢群のサブグループ解析においては、NLR、PLRやCCI≥1との交互作用は認めなかったが、非サルコペニア群において特に多剤併用療法が有用であった。

今回我々は、切除不能進行膵癌559例を対象として、高齢者進行膵癌に対する化学療法の安全性と有効性についての検討を行った。高齢者の化学療法導入率は65.2%であり、内37.9%で多剤併用療法が導入されており、非高齢者と同等の治療成績が得られていた。今回の検討ではサルコペニアを有さない高齢者では、多剤併用療法の治療効果が期待できる可能性があり、高齢者の治療選択に有用な可能性が示唆された。これまで高齢者に対する多剤併用療法の安全性についていくつか報告があるが、多くは前向き臨床試験に登録された症例の後解析であることが多く、日常臨床で遭遇する併存疾患を有する高齢者は、臨床試験の登録基準に合致しない症例もあるため、高齢であるという理由のみでBSCとなることもある。今回の検討において、BSC群では高齢、PS不良の傾向を認めているが、併存疾患因子はあまり考慮されていないという結果であった。また、高齢者や併存疾患を有する患者では、化学療法による有害事象が増加することが懸念されるが、今回の検討では、多剤併用療法で好中球減少、貧血、食欲不振、下痢、口内炎を高頻度に認めていたが、有害事象による中止例は1例のみであり、治療関連死もみられず、適切なマネージメントにより高齢者に対しても安全に施行可能であった。

高齢者においては、サルコペニアに代表される筋肉量低下も問題の一つである。本検討では、高齢者、非高齢者共に診断時に70%以上がサルコペニアを有しているという結果であった。サルコペニア自体は有意な予後因子ではなかったが、高齢群におけるサブグループ解析では、多剤併用療法の有効性とサルコペニアの有無に交互作用を認めており、サルコペニアを有していない患者においては、多剤併用療法の有効性が期待できると考えられ、積極的に導入を検討すべきである。今後はサルコペニアの経時的な変化や判定基準の妥当性について更なる検討が必要であると考えられる。

本研究ではいくつかのlimitationがある。第一に単一施設の後ろ向きデザインである。第二にレジメン選択の際に選択基準が存在しておらず、主治医の判断により治療が選択されており、患者のセレクションバイアスが存在していると考えられる。第三に高齢者においてはCCIやサルコペニア等の指標では明らかにならない機能低下が存在し、これらの情報も加味した検討が今後必要である。

今回の検討の結果から、高齢者膵癌においても安全に化学療法が行われていたことが明らかになり、日常臨床における治療選択の判断がある程度妥当であることが示された。治療選択において、現状は主治医の主観的判断で行われているが、今後は化学療法の導入、多剤併用療法の選択に際して、客観的指標の導入が必要である。近年では今回検討した指標に加えて、高齢者における機能的状態の重要性が強調されているが、依然として十分なエビデンスは構築されていない。今後当科においても高齢者における適切な治療選択について検討を重ねる予定である。

今回の研究では、併存疾患やサルコペニアに関わらず、高齢者においても化学療法は安全に施行可能であり、適切な患者選択下での多剤併用療法は高齢者にも有効であった。今後の課題としては、治療選択における客観的な指標を明確にすることが挙げられる。

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