[研究トピックス]修士論文概要 : 多波長分光観測による太陽大気における振動のエネルギー輸送(修士論文)
概要
多波長分光観測による太陽大気における振動のエネルギー輸送
(修士論文)
太陽大気には内側から光球、彩層、コロナと温度の異なる構造が存在し、上層の方が温
度が高くなっているため、上層へとエネルギーを運ぶ何らかのメカニズムがあると考えられ
る。本研究では彩層での損失を補うフラックス供給のメカニズムとして波動説に注目し、光
球で形成される複数の吸収線から速度変動と温度変動を求め、それらの位相差とパワー
スペクトル密度からエネルギーフラックスを計算した。
観測は 2021 年 9 月 24 日に京都大学飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡の水平分光器
をもちいて行った。太陽中心付近の黒点を含む静穏領域をスリットスキャンすることで空間
2 次元情報と波長情報を取得した。観測波長領域に含まれる光球で形成された 13 本の吸
収線それぞれから形成高度とエネルギーフラックスの関係を調べた。吸収線の中心波長の
変動から速度変動を求め、連続光強度に対する中心強度の変動と、LTE モデルから得ら
れた強度の温度依存性の値から温度変動を計算した。
図 1 は光球中部で形成された吸収線から得られた静穏領域での速度と温度の位相差と
エネルギーフラックス密度のグラフである。周期 5 分付近では位相差が 90 度より小さくなっ
ておりエネルギーフラックス密度は下向きに、また、周期 3 分から 150 秒の間で位相差が
90 度よりも大きくなりエネルギーフラックス密度は上向きに転じていることが分かった。また、
図 2 からエネルギーフラックスは高度によらず上を向いているが、彩層での放射損失よりも
約 1 桁小さいものであり、音波による加熱では彩層加熱に必要なエネルギーフラックスを供
給することは出来ないことが分かった。
図 3 上図は周波数に対する速度変化と温
度変化の位相差。濃い部分ほどデータが集
中しており、赤いプロットが平均値。下図は周
波数に対するエネルギーフラックス密度
図 4 静穏領域で形成された吸収線から
得られたエネルギーフラックス。 ...