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Factors and mechanisms of nitrate leaching from forest ecosystems: clarifying the regional and local aspects

Makino, Soyoka 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23617

2022.01.24

概要

窒素は森林の成長にとって重要な元素の一つだが、生物にとって不足しがちなため河川への流出は極めて少ない。しかし、農地や牧場、都市の近郊では肥料や家畜排泄物からの揮散、化石燃料の消費によって大気からの窒素沈着量が増加し、窒素飽和状態に至る森林も多く存在する。窒素飽和が進行すると土壌中で硝化が促進され、この過程で土壌が酸性化し、植物の多様性が低下する。同時に、土壌から硝酸が流出し始め、渓流水の硝酸濃度が高くなる。高濃度の硝酸は河川中の生物相にとって有害であり、赤潮やアオコの原因にもなることから、渓流水の硝酸濃度が高いことは憂慮すべき状態である。そこで本論文では、渓流水の硝酸濃度を規定する要因とメカニズムについて理解を深めることを目的とした。広域(複数県に及ぶ)スケールでは勾配の大きい気候等が、局地(林分)スケールでは各林分の特徴が渓流水硝酸濃度を規定すると予想されるため、広域的(第2章)・局地的(第3・4章)両側面からこれらの検討を行った。

第1章では、森林からの硝酸流出についての背景を述べ、渓流水硝酸濃度に影響を及ぼす要因について仮説を構築した。従来は、生態系に窒素が過剰に蓄積すると硝酸流出が起こると考えられてきた。しかし、広域・局地いずれのスケールにおいても、渓流水硝酸濃度は必ずしも窒素沈着量と対応しない。窒素沈着以外に渓流水硝酸濃度に影響を及ぼす要因としては、既往研究では、気候や地形、植生、土壌、地質、土地地用履歴の影響が指摘されている。よって、本研究では、「局地(林分)スケールでは、窒素沈着量や気候に関する要因は勾配が小さく、その他の要因のいずれかが渓流水硝酸濃度を規定する、広域(複数県に及ぶ)スケールでは、各森林の特徴は相殺され、窒素沈着量や気候要因といった、広域スケールで勾配が大きい要因が渓流水硝酸濃度を規定する」、という仮説をたてた。この仮説を、第2章から4章にかけて近畿地方の実測値データに基づいて検証し、これらの結果を第5章で総合的に評価する、という論文全体の構造を説明した。

第2章では、広域スケールにおいて渓流水硝酸濃度の規定要因とメカニズムを検討した。日本海側は、窒素沈着量が国内でも高い水準であるにもかかわらず、渓流水の硝酸濃度は比較的低く、硝酸流出が窒素沈着量と対応しない。そこで日本海側を含む近畿地方(28,914km2)を対象に、機械学習モデルの一つであるRandom Forest回帰分析を用いて渓流水硝酸濃度の規定要因を検討し、日本海側と近畿全域間で比較を行った。
近畿全域では、窒素沈着量は5.65から14.7kg-Nha-1year-1、降水量は1208から3607mmyear-1、年平均気温は7.30から16.5℃と勾配が大きく、特に休眠期の窒素沈着量や降水量は日本海側で近畿全域の2倍近い値であった。さらに、窒素沈着量や温量指数は渓流水硝酸濃度と正の相関を、降水量は負の相関を示した。これらの結果は、多雪地域である日本海側では積雪深も重要で、休眠期に多量に降下した窒素の多くが積雪中に留まって生態系に取り込まれずに融雪期に一気に流出したため、平水時の渓流水硝酸濃度は低下し、硝酸流出が窒素沈着量と対応しなかったと解釈される。すなわち、近畿全域では窒素沈着量だけでなく気候要因も重要であることを示す。


第3章では、局地(林分)スケールとして富山平野中央に位置する呉羽・射水丘陵を対象に、詳細な調査によって硝酸流出のメカニズムを明らかにした。先行研究によると、呉羽丘陵では、窒素沈着量は隣接する射水丘陵とほぼ同じであるにもかかわらず、渓流水の硝酸濃度は射水丘陵や富山県内の多くの森林より有意に高い。呉羽丘陵・射水丘陵間で森林生態系内の窒素現存量を比較したところ、土壌の窒素蓄積量には違いはなかったが、表層土壌(深さ0-10cm)の窒素無機化・硝化速度は呉羽丘陵の方が速く、硝酸態窒素の量も多かった。また、優占樹種の生葉の窒素濃度や、リターによる植物から林床への窒素還元量も呉羽丘陵の方が多かったことから、植物の窒素現存量は呉羽丘陵の方が多いと予測された。渓流水の硝酸濃度も呉羽丘陵の方が高かったため、窒素流出が多い状態は先行研究時(1998年-2001年)から継続していると示唆された。これらのことから、呉羽丘陵では植物の窒素現存量が多く、これが葉リターを介して表層土壌に供給されることで、土壌の窒素無機化・硝化速度を高め、系外への窒素流出を増加させるという、長期的な窒素飽和の状況が示唆された。

第4章では、呉羽・射水丘陵を対象に、土壌から渓流への硝酸流出を引き起こす要因について検討した。渓流水の硝酸濃度に影響する要因のうち、呉羽丘陵・射水丘陵間では地質のみ顕著に異なる。すなわち、呉羽丘陵では隆起した地層中に火山由来の母材を含む。この結果として、土壌にリンが吸着されてリンの可給性が低くなり、生態系のリン制限が強いことが多量の硝酸流出につながった可能性を仮説として検証した。しかし、土壌の可給態リン量を逐次抽出法によって細かく測定した結果は、植物が利用可能なリン(NaHCO3によって抽出された無機態リン)はむしろ呉羽丘陵で多かったため、火山由来の母材の影響は大きくないことが明らかになった。

第5章では、第2章から第4章の結果を総括し、硝酸流出の規定要因やメカニズムについて総合的に考察を行った。全体として、これらの結果は、硝酸流出は従来の概念とは異なり、植物や土壌微生物による窒素要求量を上回っていなくても動的に進行することを示す。また、広域スケールでは第1章で示した仮説が支持され、窒素沈着量だけでなく気候要因や地域によっては土壌型等も規定要因であると示唆された。局地スケールでの森林生態系からの硝酸塩流出の要因については未解明であり、更なる研究が必要だが、過去における外部由来の窒素の影響が長期間続くことが、新たな局地要因の可能性として示された。

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