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大学・研究所にある論文を検索できる 「Dynamics in phytoplankton growth and grazing mortality in oligotrophic North Pacific and Eastern Indian Ocean」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Dynamics in phytoplankton growth and grazing mortality in oligotrophic North Pacific and Eastern Indian Ocean

江, 思宇 東京大学 DOI:10.15083/0002006881

2023.03.24

概要



























亜熱帯海洋生態系は、植物プランクトン生物量がきわめて低く安定しているため海の砂漠と
も呼ばれている。これは、栄養塩濃度が低いために植物プランクトンの増殖率が抑えられたなか
で、動物プランクトンの捕食による死亡率とバランスしているためであると考えられてきた。し
かしながら、人工衛星観測により時に植物プランクトンブルームが観察されることが明らかに
なり、増殖率と死亡率が何らかの要因で不平衡となることが示唆されている。しかし、従来の観
測の多くは限定的な海域での観測に止まり、広大な亜熱帯海域全域での実態は不明であった。本
論文は、北太平洋を横断する航海と東部インド洋を縦断する航海を実施して、貧栄養亜熱帯海域
における植物プランクトン増殖率と動物プランクトン捕食による死亡率を希釈法により実測し、
亜熱帯生態系低次生態系の動態とその変動機構を明らかにすることを目的に行われた。
北太平洋亜熱帯域の研究は、東西に北太平洋を横断する航海で行われた。HPLC を用いた色
素分析により、植物プランクトン分類群ごとの増殖率と死亡率を明らかにした。超高感度吸光分
析法により測定した硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニア塩濃度が、多くの点で検出限界である 2-4 nM
以下と窒素栄養塩が極めて低濃度であったにもかかわらず、植物プランクトン増殖速度は高い
値を示し、特に植物プランクトン群集中で優占する原核植物プランクトン Prochlorococcus は
1.0 d-1 を超すことが多かった。また、植物プランクトンの栄養塩律速状態を、現場栄養塩濃度に
おける増殖率と栄養塩添加時の増殖率の比で表される栄養塩制限インデックスにより調べたと
ころ、多くの場合 Prochlorococcus の栄養塩制限の程度は低いことが明らかになった。特に北太
平洋亜熱帯域中央部では増殖が栄養塩により律速されておらず、純増殖率(増殖率-被食死亡率)
も正の値を示し、Prochlorococcus が今後増加することを示唆した。そこで、人工衛星リモート
センシングによるクロロフィルデータを解析したところ、中央部では観測後に、0.14 mg m-3 と
約 2 倍に増加したことが明らかになった。Prochlorococcus は溶存有機窒素を利用できること、
航海中の観測により中央部で窒素固定速度が高かったことが示されていることから、衛星によ
り観測されたクロロフィルの増加は、窒素固定により供給された溶存有機窒素を

Prochlorococcus が利用して増殖したことによるものと推定された。
東部インド洋を南北に縦断する航海においても、色素による植物プランクトン分類群毎の増
殖率と死亡率を測定した。北太平洋亜熱帯と同様に、調査域全体で Prochlorococcus が優占し、
窒素栄養塩が枯渇していたが、クロロフィル濃度は赤道域で 0.22-0.30 mg m-3 と他の地点の 2-

3 倍の値を示した。しかし、赤道域での純増殖率は負の値を示し、高いクロロフィル濃度と矛盾
する結果が得られた。このクロロフィル濃度の高い赤道域では、栄養塩制限インデックスから、
植物プランクトン増殖が強い栄養塩律速を受けていることが明らかになった。また、フローサイ
トメトリーによる解析によっても、 Prochlorococcus および同じ原核植物プランクトンの

Synechococcus の炭素:クロロフィル比が他の観測点より高く、この地点の植物プランクトンが
栄養塩制限状態にあったことを示した。これらのことから、赤道域では、観測の前にモンスーン
移行期に赤道域に発生する強い西向きの流れである Wyrtki ジェットにより栄養塩が供給されて
植物プランクトンが増加し、観測は栄養塩が枯渇した後のブルーム衰退期を捉えたと推定した。
このことを確かめるために人工衛星による海面高度偏差を調べると、Wyrtki jet が観測の 1 か
月前に発生し、観測域に西部インド洋から海水を運んでいたことが明らかになった。また、クロ
ロフィルの増加が観測時期およびその前に赤道域に広くみられたこと、その後減少したことが
確認された。これらのことから、東インド洋では、海洋物理機構による栄養塩の供給により、植
物プランクトンが増加するが、供給された栄養塩が枯渇することにより、増殖率が低下し、動物
プランクトンの捕食により減少すると推定された。
植物プランクトンの成長は、栄養塩の取り込み効率が表面積:体積比と共に増加することから、
貧栄養海域においては、小型の植物プランクトンほど成長率が高いと期待される。しかしながら、
過去の研究では、この理論を支持する結果と反する結果が報告されている。そこで、東インド洋
の貧栄養塩環境において、希釈法を用いたサイズ別の増殖率、死亡率を測定した。その結果、大
型(>10 µm)の植物プランクトンの増殖率が他のサイズ(<1 µm, 1-3 µm, 3-10 µm)よりも有
意に低かった。また、栄養塩を添加しない場合には、サイズと共に増殖率が低下する傾向にあっ
た。そこで、過去に希釈法によって得られたサイズ別の増殖率と栄養塩濃度のデータベースを用
い、栄養塩濃度と増殖率の関係を Monad/Michaelis-Menten モデルを用いて解析したところ、
貧栄養環境では、わずかな栄養塩の変化が植物プランクトンサイズと増殖率の関係を変化させ
ることが明らかになり、過去の研究で示された様々な結果が、栄養塩環境の違いに起因していた
ことが示唆された。
本研究では、今まで研究例の少なかった外洋貧栄養海域での植物プランクトンの増殖率と死
亡率を広範な海域で実測し、また、衛星リモートセンシングを用いた植物プランクトン群集や海
洋物理環境の動態を把握することにより、植物プランクトン増殖と死亡のバランスが、窒素固定
や物理擾乱による無機栄養塩や溶存有機窒素の供給により崩れ、植物プランクトンが増加する
ことを明らかにした。また、この植物プランクトンの動態には、優占する植物プランクトンの

Prochlorococcus が重要な役割を果たしていることが明らかとなり、今後、貧栄養海域の食物網
動態や生元素循環のより良い理解のために、Prochlorococcus の生理および機能的役割の把握が
必要であることを示した。
以上のように、これらの研究成果は、地球上の広大な面積を占める貧栄養亜熱帯海域における
海洋生態系および生物地球科学研究の進展に寄与するものである。よって、審査委員一同は本論
文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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