Homogeneous 2D and 3D alignment of cardiomyocyte in dilated cardiomyopathy revealed by intravital heart imaging
概要
〔目的(Purpose)〕
肥大型心筋症は錯綜配列を来すことが報告されているが、拡張型心筋症(DCM)における特徴的な心筋の配向性変化は知られていない。これは今までは心筋細胞の配列評価が生検サンプルの任意の方向にスライスされた断面で二次元的に評価されてきたことが一因であると考えられる。本研究は生体内イメージングを用いて、心筋細胞の配向性を三次元的に評価する方法を確立し、DCMに特徴的な心筋配向性の変化を明らかにすることを目的とした。
〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
まず、細胞膜を赤色蛍光色素で遺伝的に標識したmT/mGレポーターマウスを開胸し、カスタムメイドのスタビライ ザーを用いて拍動する心臓を二光子顕微鏡で観察した。観察は表面から100μm程度の深さまでを1μm毎に行い、取得した約100枚の二次元画像を三次元的に再構築した。得られた二次元画像の心筋細胞の角度を一つずつ計測し、そのヒストグラムを一つのグラフに重ね合わせた。この重ね合わせたグラフ上で心筋細胞の二次元的・三次元的な配向性と一つの層内での心筋細胞のねじれの定量化を行った。解析の結果、マウス心筋細胞は二次元的・三次元的にある程度のばらつきをもって配向しており、それぞれの心筋細胞がねじれて配置されていることが分かった。
次に、DCMモデルマウスを観察しコントロールマウスと比較したところ、DCMモデルマウスではコントロールマウスに比べて、二次元・三次元的に均一な配向性を有しており、心筋細胞のねじれが消失していることが分かった。二光子顕微鏡では表層の心筋細胞しか観察できず、心拡大により心外膜表面が受動的に伸展され、結果として配向性が均一になっている可能性も否定できなかったため、より心筋層全体を評価するベく組織透明化技術と Lightsheet顕微鏡を用いて観察した。その結果、DCMマウスでは全心筋層を通じて配向性が均一になっており、心内膜側も配向性が均一に変化していることが確認された。このことからDCMマウスで観察された配向性の均一化と心筋細胞のねじれの消失は受動的なものではなく心筋細胞の能動的な配列の再構築の結果であることが示唆された。
さらに、配向性の変化と収縮力低下の因果関係を調査するために、均一な配向性を持つプラットフォー厶とランダムな配向性をもつプラットフォームに心筋細胞を播種し収縮力を評価したところ、心筋細胞を二次元的に均一に配向性させると収縮力が増強することが分かった。このことから二次元での配向性の均一化は収縮力低下を補完する代償機構であることが示唆された。一方、先行文献では三次元的な配向性の均一化と心筋細胞のねじれの消失は収縮力の低下につながることが報告されており、心筋細胞が細胞レベルで収縮力低下を補うためのadaptiveな配列の均一化が、心臓全体としてはmaladaptiveな心機能低下をもたらしている可能性がある。我々はこの心筋細胞の配列変化を配向性リモデリングという新しい概念として提唱する。
〔総括(Conclusion)〕
二光子顕微鏡を用いて生体マウスの心筋配向性を三次元で評価する方法を確立した。その方法を用いてDCMマウスでは二次元にも、三次元的にも心筋細胞の配向性が均一に変化する「配向性リモデリング」が起こっていることを明らかにした。今後配向性変化のメカニズムを追究することが、新規心不全治療ターゲット開発に繫がると期待される。