Association of Femoral Rotation with Whole Body Alignment in Patients Who Underwent Total Hip Arthroplasty
概要
序論
高齢化社会に伴い変形性股関節症を発症する患者が増加し, 一般的な手術法である人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty, THA)の手術件数も年々増加している.THAは股関節痛の改善や股関節可動域の改善, 脚長の補正などを行うことで生活の質を改善することが可能である.近年では患者ごとに最適なインプラント設置を行うためにさまざまな工夫がされ, コンピューター支援技術が導入されて適切にインプラント設置することが可能となっている.しかしながらインプラント設置不良により脱臼, インピンジメント, 可動域制限など合併症のリスクが上がることが報告されている(Shon et al. 2005).これらの合併症を未然に防ぐためにはインプラントの相対的な位置関係を考慮することが重要と考えられ, 立位・坐位・臥位などの姿勢変化や術後の経時的変化による骨盤傾斜や大腿骨の回旋変化などに配慮する必要がある.THA後の脊椎・骨盤アライメントの変化が骨盤傾斜およびカップの機能的設置角に影響することは報告されているが, 大腿骨の回旋変化を考慮したステム設置角度についての検討は少なく, いまだ統一された見解が得られていない(Lembeck et al. 2005).本研究の目的の一つはTHA前後の大腿骨回旋変化を臥位および立位で調査し, 大腿骨の回旋変化を考慮したステム設置について考察することである.また, 股関節病変を呈する患者のなかには股関節痛のみならず膝痛を訴えるものが多く, 術後に膝痛が変化する症例があることから全身アライメント変化が膝痛に与える影響についても調査し考察した.
対象および方法
THA前後の大腿骨回旋変化を臥位および立位にて調査するため, 2014年から2016年にTHAを施行した396症例のうち片側変形性股関節症を有する患者でTHAを行った65例を対象とした(男性13例、女性52例、平均年齢62歳).立位における大腿骨回旋角は術前と術後3ヵ月時にEOSイメージングシステム(EOS Imaging Inc. Paris, France)を用いて評価し, 臥位における大腿骨回旋角は術前と術後1週時に撮影したCT(Siemens SOMATOM Definition AS, 1.5mm/slice, Germany)を用いて評価した.ステムとカップの設置角度はWidmerらのcombined anteversion techniqueを用い, 術前にCT画像データをOrthomap 3D Hip Navigation Software(Stryker, Kalamazoo, MI, USA)に取り込み作図した(Widmer et al.2004).術後大腿骨回旋角に影響を与える因子を調査するため, 股関節可動域と股関節機能判定はHarris Hip Score(HHS)を用いて測定し, 全身のアライメント変化を評価するために以下の項目についてEOSイメージングシステムを用いて術前後に測定した.下肢アライメントとして大腿骨回旋角(大腿骨後顆軸と両側上前腸骨棘を結んだ線の成す角度), 機能的下肢長(大腿骨頭中心から脛骨遠位端の距離), femoral offset(大腿骨軸から大腿骨頭中心の最短距離), 膝屈曲角(矢状面アライメントにおいて膝の屈曲角), ステム挿入角(術後のステム挿入軸と大腿骨後顆を結ぶ線との成す角から術前の大腿骨頚部前捻角を引いた角度)を, 骨盤アライメントとしてAPP(恥骨結節と上前腸骨棘の結んだ線と鉛直線の成す角度), SS(仙骨上縁と水平線の成す角度), PT(大腿骨頭中心と仙骨上縁中点を結んだ線と縁直線の成す角度)を, 脊椎アライメントとしてSVA(第7頚椎椎体中央と仙骨後上縁を通る鉛直線間の距離), T1/T12角(T1椎体上縁とT12椎体下縁の成す角度)、L1/S1角(L1椎体上縁とS1椎体下縁の成す角度)などを評価した.それぞれのパラメーターについて術前後の変化を評価したのち大腿骨回旋角と全身パラメーターについてそれぞれ相関分析を行い, 大腿骨回旋に影響を与える因子を特定するために重回帰分析を行った.
続いて, THA前後の全身アライメント変化が膝痛に与える影響について, 2014年から2019年に股関節疾患に対してTHAを施行した517股関節のうち, 変形性股関節症の診断でTHAを行った94股関節を対象とし調査した(男性21例、女性73例、平均年齢63歳).膝痛について術前および術後3ヵ月時にpain VASを用い, 変形性膝関節症の重症度についてはレントゲン画像を用いてKellgren-Laurence(K-L)分類で評価した.前述した全身パラメーターに加えて膝回旋をみるためにEOSイメージングシステムを用いて立位におけるfemorotibial rotation angle(大腿骨後顆軸と脛骨関節面の後方接線の成す角度)を, CTを用いて臥位におけるpatellar tilting angle(膝蓋骨内外側端を結ぶ線と大腿骨内顆外顆の最上端を結ぶ線との成す角度)をそれぞれ測定した.膝痛と全身パラメーターについて術前後の変化を評価したのち, 術前後の膝痛と全身パラメーターについてそれぞれ相関分析を行い, 術後の膝痛に影響を及ぼす術前の因子を特定するために重回帰分析を行った.
結果
THA前後の大腿骨回旋変化
立位大腿骨回旋角は-5.5°からTHA後-10.2°と有意に減少し(p<0.01), 臥位大腿骨回旋角は0.38°からTHA後-3.2°と有意に減少した(p<0.01).これはTHA後に大腿骨が内旋したことを表しており, 立位と臥位における変化量に有意差はなかった(立位4.7°, 臥位3.5°, p=0.43).術前, 立位において65症例中43例(66%)は内旋位を, 21例(32%)は外旋位を, 1例(1%)は中間位をとっており, 術後は49例(75%)で内旋位を, 15例(23%)で外旋位を1例(1%)で中間位をとっていた.術前後の変化量として, 10°以上変化したものが30例(46%), 20°以上変化したものが3例(5%)あった.術前後の立位大腿骨回旋角と全身パラメーターの相関関係をみると術前の立位大腿骨回旋角はSVA(r=0.388, p=0.001), 膝屈曲角(r=0.271, p=0.028)に相関し, 術後の立位大腿骨回旋角はSVA(r=0.309, p=0.006), 膝屈曲角(r=0.311, p=0.006), SS(r=-0.241, p=0.028), L1/S1(r=0.289, p=0.01), ステム挿入角(r=-0.268, p=0.016)に相関していた.大腿骨が大きく外旋する症例は前屈位で膝屈曲し腰椎後弯している症例が有意に多かった.術後の大腿骨回旋角を目的変数とし, 術前の大腿骨回旋角, BMI, 膝屈曲角を説明変数として重回帰分析を行ったところ術後大腿骨回旋角=-18.72+(0.460×術前大腿骨回旋角)+(0.071×SVA)という回帰式が得られた.
THA前後の全身アライメント変化が膝痛に与える影響
膝の回旋アライメントを表すfemorotibial rotation angleは術前-3.0°から術後2.8°と術後大腿骨が脛骨に対して5.8°内旋変化し(p<0.01), patellar tilting angleは術前17.9°から術後20.4°と術後膝蓋骨の内側開大を認めた(p<0.01).その他, SS, PT, 機能的下肢長, femoral offsetについても術後有意な変化を認めていた(p<0.05).患側膝のpain VASは術前27mmから術後9mmへと有意に改善していた(P<0.01).術前に患側膝痛を認めた症例は61例(65%), 膝痛を認めない症例は33例(35%)あり, 術前に患側膝痛を認めた61症例のうち術後に膝痛が無くなった症例は30例(50%), 膝痛が残存した症例は31例(50%)であった.膝痛が残存した症例のうち術後に膝痛が改善した症例は24例, 術前より膝痛が増悪した症例は6例, 変化しない症例は1例であった.また, K-L分類0-Ⅱの明らかな患側膝の変形を認めない症例が94症例中79例(84%)あり, それらの症例で術前に膝痛を認めたものは47例(59%)で平均pain VASは23mmであった.一方, K-L分類Ⅲ-Ⅳの患側膝の変形を認めた症例は94症例中15例(16%)あり, それらの症例で術前に膝痛を認めたものが14例(93%)で平均pain VASは48mmであった.術前に膝痛を認めた61症例について術前後の膝痛と全身アライメントの関係を調査したところ, 術前の膝pain VASは術前のfemorotibial rotation angleと相関関係(r=-0.236, p=0.035)にあり, 術後の膝pain VASは術前のSVA(r=0.280, p=0.015), 術前の膝pain VAS(r=0.236, p=0.033), K-L分類(r=0.242, p=0.030)とそれぞれ相関関係にあった.術後の膝痛を目的変数として重回帰分析を行ったところ術後膝pain VAS=9.547+0.126×術前SVAという回帰式が得られた.
考察
今回の研究を通じてTHA後の大腿骨回旋変化についていくつか新しいことが分かった.THA後, 臥位における大腿骨の内旋変化はいままでに報告されてきているが, 立位においても65症例中49例(75%)で大腿骨は内旋位をとることがわかった(Tezuka et al.2018).一方, 15症例(23%)において術後大腿骨は外旋位をとり, 大きく変化する症例もあることから, 一部の症例においては前方脱臼やインピンジメントについて考慮する必要があると考えられた.これまで患者背景や股関節機能などが術後の大腿骨回旋に影響を与えることが報告されているが, 全身アライメントとの関係については詳しく調査されてこなかった.今回, 脊椎・骨盤・下肢といった全身パラメーターと股関節との関係について調べたことで, 術前後ともに大腿骨回旋角はSVAや膝屈曲角と相関関係にあることがわかった(Tezuka et al.2018).大腿骨が外旋している症例では前傾姿勢で膝屈曲している症例が多く, 立位バランスを保つために大腿骨の回旋が関与していると考えられた.さらに, 重回帰分析を用いた術後の大腿骨回旋角の予測式からも術後の大腿骨回旋角には術前の大腿骨回旋角やSVAが影響を与えていることがわかった.近年, 全身アライメントの変化が脊椎・骨盤・下肢パラメーターや臨床スコアと相関することが報告されており, われわれの研究でもTHA後の大腿骨回旋変化が全身アライメントの影響を受けることがわかった(Ochi et al.2017).今回の研究より, 術前に大腿骨が外旋しSVAが大きい「前かがみ姿勢」の患者においては術後大腿骨外旋位をとることが多く, ステム前捻角をつけすぎると前方脱臼を起こすリスクが高くなるため注意を払う必要があるという結果が得られた.
続いて, THA前後の全身アライメント変化が膝痛に与える影響について調査した.THA患者に伴う膝痛をみると, 膝pain VASが術前27mmから術後9mmへと改善し, 術前に膝痛を認めていた61症例中30例(50%)で術後の膝痛が無くなった.片側THA後の膝痛の調査で, 術前55%に認めていた患側膝痛がTHA後3カ月時点で24%となり対側膝痛を有する頻度と差が無くなったという報告があり, われわれの結果でもTHA後に多くの症例で膝痛が改善することがわかった(Kahn et al.2004).また, 膝の回旋変化を示すfemorotibial rotation angleの有意な増加は, THA後に大腿骨が脛骨に対して内旋変化していることを示し, THA後に股関節の拘縮や筋緊張が改善して大腿骨が内旋変化したことが原因として考えた.そして, 大腿骨の回旋が影響していると考えられるpatellar tilting angleも術後開大傾向にあり, femorotibial rotation angleとpatellar tilting angleは相関関係にあった.THA術後7.3%の患者で膝前面痛を新たに認め, 術後のpatellar tilt angleの変化が膝前面痛に関与していたという報告もあるが, われわれの調査において膝痛が増悪した6症例においては膝の回旋変化と膝痛の関係について有意な関係性は認められなかった(Tokuhara et al.2011).THA後に膝痛が改善する症例や, 一部の症例で膝痛が出現することがあることから膝関節における関節症性変化ではない何らかの変化が膝痛に影響を及ぼしていると推察し, 術前に膝痛を認めた61症例について術前後の膝痛と全身アライメントの関係について評価した.術前の膝pain VASは術前のfemorotibial rotation angleと相関関係(r=-0.236, p=0.035)にあり, 術後の膝pain VASは術前のSVA(r=0.280, p=0.015), 術前の膝pain VAS(r=0.236, p=0.033), K-L分類(r=0.242, p=0.030)とそれぞれ相関関係にあった.健常人における先行研究では正常歩行時に股関節や膝関節の回旋運動が生じていることが報告されており, 変形性股関節症患者では股関節の回旋運動障害に連動し膝関節においても回旋運動が障害を生じていたことが考えられる(Uemura et al.2018).術前の膝痛とfemorotibial rotation angleの相関関係は膝痛が回旋運動障害の影響を強く受けていることを表しており, 術後に膝痛とfemorotibial rotationの相関関係が消失したのは回旋運動障害が改善されたことを示唆していると考えた.さらに, 術後の膝pain VASは術前のSVA, 術前の膝pain VAS, K-L分類とそれぞれ相関関係にあり, 術後に膝痛が残存する症例はもともと術前に強い膝痛を認めレントゲンで関節症性変化の強い症例であったと考えられる.さらに, 今回のわれわれの興味深い結果として膝痛と矢状面グローバルバランスとの関連が挙げられ, 術後の膝痛と術前のSVAが相関し, 重回帰分析では術前SVAが術後膝痛残存の予測因子となった.SVAの大きな「前かがみ姿勢」は高齢者の特徴的な姿勢であり, 先行研究でも変形性膝関節症を呈する患者は健常高齢者と比べて胸椎後弯が大きいことが報告されており, 前かがみ姿勢により膝への負荷が大きくなることが推察された(Glassman et al.2005; 前田ら2009).近年, 全身のアライメント変化が臨床スコアと深く関わりあっているという報告がみられ, 今回の研究でも全身のアライメント評価を行ったことで膝痛と全身アライメントの関係が評価できた(Diebo et al.2016).今回の結果より術後の膝痛を予測する因子としてSVAが挙げられ, 膝痛を有する患者では術前の全身アライメントの評価が必要であることが考えられた.本研究にはいくつかの限界があると考えられる.第一に本研究のフォローアップ期間は術後早期であり, 長期的に観察した際の大腿骨や膝関節の回旋変化や膝痛が不明であるという点.次に, すべての症例で外側アプローチであったため, 他のアプローチでは異なる大腿骨や膝関節の回旋変化が見られた可能性が考えられた.さらに今回は臥位と坐位の2つの姿勢のみで検討しており, 理想的には動作解析などによるさまざまな姿勢における調査が必要であった点が挙げられる.これらの点を踏まえたうえで今後は長期的なフォローアップを行うとともに, 症例数を増やすことでTHAが大腿骨の回旋に及ぼす影響や膝痛に与える根拠をさらに明らかにしていく必要があると考えられた.
結論
THA後に立位・臥位ともに大腿骨が内旋する症/例が多いことがわかり, 術後の大腿骨回旋変化は術前の大腿骨回旋位やSVAを用いて予測できることが示された.術前に大腿骨が外旋しSVAが大きい「前かがみ姿勢」の患者においては術後大腿骨外旋位をとることが多く, ステム前捻角をつけすぎるによる前方脱臼には注意を払う必要があると考えられた.
また, THA前後の膝痛について評価したところ, 術前に膝痛を有していた半数の症例で疼痛は無くなり, pain VASも27mmから9mmへとTHA後に多くの症例で膝痛が改善することがわかった.術後の大腿骨回旋変化に加えて術後の膝痛を予測する因子としてもSVAが挙げられ, SVAが大きい「前かがみ姿勢」の患者においては術後に膝痛が残存する傾向にあることがわかった.今回の研究を通じて, 術後の大腿骨回旋や膝痛の予測因子として全身アライメント評価が必要であることが示された.