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大学・研究所にある論文を検索できる 「膝前十字靭帯解剖学的二重束再建術では、脛骨骨孔重複が生じるとpivot-shiftを十分に制動できない」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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膝前十字靭帯解剖学的二重束再建術では、脛骨骨孔重複が生じるとpivot-shiftを十分に制動できない

抽冬, 晃司 神戸大学

2022.09.25

概要

【目的】
膝前十字靭帯(ACL)解剖学的二重束再建術(DBACL再建術)は、元来二重束構造をもつACLの再建において解剖学的により近似させるため、従来から一重束で再建されていた手術方法を発展させたものであり、一般に良好な臨床成績が報告されている。Systematic reviewでは、DBACL再建術の方が一重束再建術(SBACL再建術)と比べて、優れた膝回旋安定性が得られるといわれている一方で、総合的な臨床成績に差はないとする報告が散見される。

DBACL再建術は、ACLの前内側線維束(AM bundle)、後外側線維束(PL bundle)という2つの線維束を各々に再建する方法であり、大腿骨、脛骨のACLの解剖学的付着部にAM bundle、PL bundleの骨孔を作成する。しかし、術中操作や術後の骨孔拡大により、骨孔が重複することがあり、脛骨側の骨孔重複は大腿骨側に比べて高い頻度で発生することが報告されている。骨孔重複をきたしても臨床成績や徒手的に計測した膝不安定性に差がないとする報告はあるが、脛骨側の骨孔重複が術後の膝回旋安定性に与える影響について定量的評価に基づいた詳細な検討は報告がない。当科では、電磁気センサーを用いて、膝回旋安定性の指標となるpivot-shiftの定量的評価を行っており、これまで数多くの報告を行っており、有用性を証明してきた。

そこで本研究の目的は、電磁気センサーを用いて、DBACL再建術後の脛骨骨孔重複がpivot-shiftおよび臨床成績に及ぼす影響について評価することとした。仮説は、脛骨骨孔重複が生じるとpivot-shiftが残存し、臨床成績が悪くなるとした。

【方法】
研究デザインと対象
2015年1月から2018年3月に神戸大学医学部付属病院で、片側ACL損傷患者に対して、自家ハムストリング腱を使用した初回DBACL再建術を施行した123例を対象とする前向き試験を行った。15歳から50歳の患者で、術後1年以上経過観察可能であった症例を対象とした。術前および術後約1年でのscrew抜釘の際に、電磁気センサーによる膝安定性の定量的評価を行い、なおかつ術前および術後1年で臨床評価が可能であった症例51例のうち、術後1年に膝関節単純CTを撮像できなかった8例、術後早期に再断裂をきたした2例、術後単純CTで大腿骨側に骨孔重複を認めた7例を除外した34例を対象とした。

ACL損傷は主に徒手検査で診断し、MRIで確認を行った。ACL再建前および術後約1年でのscrew抜釘前に、全身麻酔下に電磁気センサーシステムを用いてpivot-shiftを定量的に評価した。

骨孔重複は術後1年で撮像した膝関節単純CTを3次元的に評価し、関節面での骨孔重複の有無を評価した。骨孔重複があった群をC群、重複がない群をN群とした。C群は21例、N群は13例であった。

術式
患側のハムストリング腱(半腱様筋腱、薄筋腱)を移植用graftとして採取した後に、AM bundleとPL bundleの解剖学的付着部を関節鏡下に確認した。ACL解剖学的付着部の中央に脛骨、大腿骨とも骨孔を作成した。大腿骨側はout side in法もしくはtrans portal法で骨孔を作成し、脛骨側は、PL bundle、AM bundleの順にそれぞれ骨孔を作成した。大腿骨側はadjustable suspensory fixation deviceを用いて固定を行い、脛骨側はpost screwで固定を行った。半月板損傷の合併があれば、必要に応じて、半月板縫合や半月板切除術を行った。

後療法
患肢は術後1週間で1/2部分荷重、術後2週間で全荷重を行った。膝硬性装具は術後8週間装着し、ランニングは術後3か月から許可した。術後9か月で筋力が問題なければスポーツ復帰を許可した。

Pivot-shift testの定量的評価
Pivot-shiftの定量的評価は電磁気センサーシステムのJIMI神戸を使用した。2つのレシーバーを脛骨、大腿骨に装着し、7つのランドマークを設定することで、膝の6自由度の運動を精密に測定する。Pivot-shift testでの誘発されるPivot-shift(脛骨前方亜脱臼位からの後方整復)の際の脛骨の後方への加速度(tibial acceleration)(m/s2)を計測した。

単純CT撮像のプロトコルと画像解析方法
ACL再建術後、約1年で膝関節単純CTを撮像し、画像解析ソフト(Mimics,3-matic)で解析を行った。半自動的に大腿骨および脛骨の骨孔を抽出し、それぞれの骨孔中心が大腿骨、脛骨の関節面と交わる位置を骨孔位置と定め、計測した。また、AM bundle、PL bundleの骨孔が関節面で重複している場合は、骨孔重複ありと定めた。術後2週と術後1年での単純CTでの骨孔拡大に関しても計測を行った。

臨床評価方法
ACL再建術時及び再建術後1年の抜釘術時に全身麻酔下でpivot-shif ttestを行い、臨床的評価としてIKDCによる4段階評価(none(-)/glide(+)/clunk(++)/gross(+++))を行った。また、Lysholm knee score、IKDC subjective scoreによる主観的な膝機能評価を行った。

統計解析
C群、N群間のpivot-shiftの定量的評価および2つの主観的膝機能評価はindependent t検定(Student t-test)で比較検討した。また、pivot-shiftの臨床評価の検討に関しては、カイ2乗検定を用いて行った。有意水準はp<0.05とした。

【結果】
患者背景(性別、年齢、身長、体重、AM bundleとPL bundleの骨孔径の合計、半月板損傷の合併、手術待期期間、脛骨関節面の前後、内外の幅)には、両群間で有意差は認めなかった。また、術前のpivot-shiftの臨床評価、Lysholm score、IKDC subjective score、電磁気センサーでのpivot-shiftの脛骨後方加速度には、両群間で有意差は認めなかった。再建術後1年でのpivot-shiftの脛骨後方加速度による定量的評価は、N群でC群に比べて有意に低かった。(C群:1.0±0.6m/s2,N群:0.5±0.3m/s2,p<0.01)再建術後1年でのpivot-shiftの臨床評価および、Lysholm score、IKDC subjective scoreは両群間に有意差は認めなかった。また、再建術後1年での脛骨の骨孔位置および骨孔拡大率は両群間に有意差は認めなかった。

【考察】
本研究により、脛骨の骨孔重複を生じたACL再建膝では、骨孔重複がない例に比べ、pivot-shiftの脛骨後方加速度が大きいことが分かった。このことから脛骨骨孔重複は、膝の回旋不安定性に影響を与える可能性が示唆された。

過去の報告では、骨孔重複と徒手検査によるpivot-shiftの臨床評価についての検討はみられたが、徒手検査は検者の主観的な評価であり、ばらつきが多いことが知られており、本研究は初めてpivot-shiftの定量的評価を用いて骨孔重複による影響の有無を調査した。

本研究では、pivot-shiftの定量的評価のデバイスとして、電磁気センサーシステムを使用した。他にも様々なデバイスが使用可能であるが、我々は過去に、現状で一般使用が可能なiPadや加速度センサーによる定量的評価に比べ、電磁気センサーシステムが感度、特異度とも優れていることを報告しており、本研究でも電磁気センサーシステムを評価デバイスとして使用した。

脛骨骨孔重複はDBACL再建術では、しばしばみられる合併症であり、本研究では再建術後1年で62%にみられた。過去の報告では27-77%にみられたといわれており、本研究でも同等の結果であったが、骨孔重複がない群と比べて骨孔サイズや骨孔拡大に差はなく、手術手技が骨孔重複の重要な因子である可能性が考えられた。

Pivot-shift現象は、伸展位で膝関節に複合回旋ストレスを加えると生じる脛骨外側プラトーの大腿骨に対する前方への亜脱臼が、そこから屈曲していく際に、急激に後方へ自然整復される現象である。AM bundleは脛骨の前方移動を制動する役割を持ち、PL bundleは回旋安定性を保つ役割を持ち、それぞれ違う働きをしている。ACL再建膝で、脛骨骨孔重複が生じると、AM bundleの後壁がなくなるため、脛骨の前方亜脱臼量が多くなり、PL bundleの前壁がなくなるため、回旋安定性に影響を与え、結果的にpivot-shiftが残存してしまう可能性が示唆された。

また、本研究では、過去の報告と同様、脛骨骨孔重複は短期の臨床成績には影響を与えなかったが、サンプルサイズが小さいことが原因と考えられた。過去には、pivot-shiftが大きいと主観的な膝機能評価が悪く、長期的には変形性関節症の進行に寄与すると報告されている。このことから、脛骨骨孔重複が生じ、膝回旋不安定性が残存すると、長期的に膝関節の変性が進行し、臨床成績も悪化する可能性が考えられた。

本研究の限界としては、術後評価が、再建術後1年で行われていることである。ACL再建術後の臨床評価としては、2年での経過報告が一般的であることを考えると少々早いが、当院では、DBACL再建術後1年程度で脛骨のスクリューの抜釘と関節鏡手術を行うことが多く、その際にしか全身麻酔下でpivot-shiftの定量的評価が行えないことから、再建術後1年で評価を行った。今後は長期的なデータで、脛骨骨孔重複と臨床成績の関連を検討する必要がある。

本研究からは、DBACL再建時に骨孔重複を生じないようにすべきだが、既存の手術法による限界である可能性がある。今後は、脛骨骨孔を確実に分離することが可能となる手技やデバイスを開発する必要があり、それによりDBACL再建術はより良好な臨床成績を得られるようになると思われた。

【結語】
DBACL再建術後に脛骨骨孔重複が生じると、重複がない例に比べ、pivot-shiftの脛骨後方加速度が大きくなることが分かった。良好な膝回旋安定性を獲得するためには、DBACL再建術時に確実に分離した脛骨骨孔を作成することが望ましい。

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