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大学・研究所にある論文を検索できる 「バキュロウイルスの感染拡大を支える分子基盤の研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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バキュロウイルスの感染拡大を支える分子基盤の研究

疋田, 弘之 東京大学 DOI:10.15083/0002006865

2023.03.24

概要

審 査 の















疋田

弘之

バキュロウイルスは昆虫を宿主とする大型の二本鎖 DNA ウイルスであり、そのゲノム中
には 100 を超える遺伝子をコードする。バキュロウイルスはウイルス粒子を包埋体と呼ば
れるタンパク質の結晶構造中に封入し、環境中のストレスから自身を保護する。この包埋
体は宿主昆虫に食下されると、中腸のアルカリ性環境下で溶解し、中に含まれていたウイ
ルス粒子が中腸円筒細胞へ侵入する。チョウ目昆虫に感染するアルファバキュロウイルス
は、宿主の全身に感染を拡げ、包埋体を産生する。また、感染末期には宿主の行動を操作
し、水平方向の行動活性の増加(Enhanced locomotory activity: ELA)
、および上方への走
性の強化(Climbing behavior: CB)を惹起する。さらに、ウイルスがコードするプロテア
ーゼやキチナーゼの働きにより宿主の虫体が溶解する。このようにバキュロウイルスは宿
主を巧みに操作することで、効率的に感染を拡大している。
近年の研究から、バキュロウイルスによる宿主行動操作の実現には宿主個体内における感
染進行の最適化が重要であることが理解されつつある。これらの研究では、遺伝子欠損ウ
イルスと宿主幼虫を用いた行動アッセイにより、遺伝子が行動活性や致死時間に及ぼす影
響を調査している。しかし、従来用いられてきた感染幼虫の行動解析手法は、データの解
像度の問題で感染幼虫における行動異常と感染進行の対応を解析することが困難であった。
また、昆虫個体におけるウイルス遺伝子機能を介した感染動態制御については詳細な研究
が行われていなかった。本研究では、カイコとそれを宿主とするカイコ核多角体病ウイル
ス(Bombyx mori nucleopolyhedrovirus, BmNPV)を用いて、多方面からのアプローチに
よりこれらの課題の解決を試みたものである。
第 1 章では、タイムラプスカメラを用いた感染幼虫の行動観察法を新たに開発し、実際に
その方法を用いることで、行動操作に関わると考えられてきた BmNPV の Bm96 の性状を
詳細に解析することに成功した。その結果、Bm96 欠損株感染幼虫では、観察期間における
総移動距離が野生株感染幼虫と比べて有意に小さかったが、行動操作に関しては正常に惹
起されていることが示された。本章の結果は、長期の行動観察を解析することによって、
ウイルスの行動操作関連遺伝子の詳細な特徴付けできることを示すものである。

第 2 章では、第 1 章の方法をさらに改良することによって、より詳細にウイルス感染カイ
コの行動を解析することに成功した。その結果、感染幼虫では行動の速度と持続時間が増
大することで、非感染幼虫よりも長い移動距離を示すこと、および感染の末期に行動パタ
ーンが大きく変化し、感染幼虫に特異的な行動を示すことが明らかになった。このパター
ンの変化は、これまで ELA から CB への移行ポイントとして考えられてきた変化と同一で
ある可能性があり、感染進行と行動変化の時間的関係を示すことができた大きな成果であ
ると言える。
第 3 章では、組織トロピズムや行動制御に関わる BmNPV の Bm8 遺伝子の機能解析を行
うことで、Bm8 が細胞レベルでウイルス増殖を抑制する機能を持つことを示した。一方、
近傍の遺伝子とのシンテニーを考慮することによって、Bm8 ホモログが従来考えられてい
たよりも広範なバキュロウイルスに存在すること、および Bm8 ホモログの一つ(ld127)
が Bm8 と同様、ウイルス遺伝子を抑制する機能を持つことが明らかになった。
第 4 章では、野生株と Bm8 欠損ウイルスに感染したカイコ中部糸腺をモデルとして、組織
トロピズム異常と宿主応答との関係を調査した。トランスクリプトーム解析の結果、組織
トロピズム異常によりウイルス感染が進んだ中部糸腺では、宿主遺伝子の組織特異的な発
現プロファイルが、主にマスターとなる転写因子群の発現低下により撹乱されていること
が示された。
以上を要するに、本博士論文は、カイコと BmNPV を利用して、バキュロウイルスが引き起
こす行動異常、およびその際の感染動態制御に関する重要な未解決問題にアプローチした
ものである。特に、タイムラプスカメラを用いた長時間高解像度の行動解析により、バキ
ュロウイルス感染がもたらす行動異常のパターン変化を正確に捉えることに成功し、行動
操作関連ウイルス遺伝子をクラス分けできるようになった点は特筆に値する。さらに、個
体感染において重要な働きをはたす Bm8 について、その機能を細胞レベルで解析するとと
もに、系統的に遠いバキュロウイルスにおいてもその機能が保存されている可能性を示し
た。このように、本論文はウイルス学や昆虫学において、学術上、応用上、重要な知見を
明らかにしたものであり、審査委員一同は、博士(農学)の学位論文として価値があるものと
認めた。

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