Locomotor control and learning mechanism with visual information
概要
運動制御・学習の研究においては、主に到達動作を研究対象としてきた。しかし、リハビリテーションなど実際の運動学習場面で求められるのは日常的に行う歩行動作のような複雑な動作の学習である。そこで本研究では、到達動作の研究で用いられる視覚フィードバックを利用した運動学習パラダイムが、歩行動作という複雑な動作においても同様に有効であるのかを検証した。
本研究では、モーションキャプチャシステムで計測した実験参加者の動作をもとにヴァーチャリアリティ空間内に参加者と同じ動きを行うアバターを作成し、それをトレッドミル上で歩行動作を行う参加者前方に設置されたスクリーンへ視覚フィードバックとして提示した。このとき参加者はアバターを操作して、同じくスクリーン上に提示されたターゲットを踏みながら歩く課題を実施した。なお、アバターには視覚運動変換が与えられ、この変換へ適応することができるとこれまでより拡大した歩隔(足の横幅)での歩行動作を学習するよう設定されていた。その後、アバターがスクリーン上からアバターが取り去らわれると、被験者がターゲットを狙い続けている限りは拡大歩隔での歩行動作が想起される結果を得た。この結果は、歩行動作においても到達動作と同様に視覚フィードバックを用いた運動学習パラダイムを有効であることを示した。本研究ではさらに、到達動作を課題として強い学習効果の保持を示すと報告されているReward-based learningという学習パラダイムを歩行動作学習にも応用し、到達動作学習と同様の結果を得ることができた。
本研究は、これまで神経科学領域で到達動作を用いて明らかとなった運動制御・学習メカニズムが、冗長で複雑な歩行動作においても同様に観察されることを示した。これは、到達動作による研究成果のリハビリテーションへの応用を期待させるものである。