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大学・研究所にある論文を検索できる 「悪性大腸狭窄に対するステント留置術の有用性および腫瘍学的影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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悪性大腸狭窄に対するステント留置術の有用性および腫瘍学的影響

石橋, 嶺 東京大学 DOI:10.15083/0002002386

2021.10.13

概要

本研究の目的は大腸ステント留置術の腫瘍学的影響を評価することである。悪性腫瘍は本邦における死因の第一位の疾患であるが、多くの悪性腫瘍では外科手術や化学療法の発展により、罹患後の生命予後は延長してきている。大腸閉塞は原発性大腸癌以外にも他臓器悪性腫瘍の播種や浸潤など様々な疾患によりに引き起こされ、その治療として緊急の腸管減圧術を必要とする。通常、腸管減圧方法としては閉塞部の大腸切除や人工肛門造設など手術が行われるが、開腹しない治療として内視鏡的大腸ステント留置術が1991年に世界で初めて報告された。その後、医療機器の進歩や使用経験の蓄積により大腸ステント留置術の技術的・臨床的成功率は向上したが、本邦における本治療の導入は2012年と大幅に遅れた背景もあり、国内における多数の症例による報告は限られている現状である。また、技術的に留置術は成功しても臨床的に効果が得られないといった症例も経験され、ステント留置が臨床的不成功に終ってしまう原因に関する十分な検討が必要である。さらに、ステント留置術の長期成績やステントが腫瘍そのものに与える影響については十分な検証がされていない。それらを明らかにすることは、大腸ステント留置術の適応を判断するうえで非常に重要である。
 本研究においては、上記課題を明らかとすべく、第一章では悪性大腸狭窄に対するステント留置術の治療成績および臨床的失敗に関わるリスク因子を検討した。第二章では対象をstageⅡ、Ⅲの原発性大腸癌に限定し、大腸ステント留置後手術群と一期的切除群について、短期成績および長期予後(再発・予後)を比較して、術後再発に関連する危険因子を検討した。さらに、ステント留置術が腫瘍自体に与える影響を評価するため、留置前後の循環腫瘍細胞(circulating tumor cell: CTC)の数的変化について前向きに評価した。

第1章
目的: 悪性大腸閉塞に対するステント留置術の臨床的不成功に関わる因子を検討する。方法: 2007年3月から2017年2月に東京大学医学部附属病院で悪性大腸狭窄に対し、大腸ステント留置術が施行された173例のうち、複数の狭窄を認めなかった153例を対象に大腸ステント留置術の技術的・臨床的成功率を明らかにし、さらに臨床的不成功症例のリスク因子について解析した。本研究では1回の内視鏡手技でステントを全狭窄長に留置できることを技術的成功と定義し、留置後24時間以内に症状の改善及び画像的改善を得られたものを臨床的成功と定義した。技術的不成功症例も臨床的不成功に含めることとした。
結果: 対象は男性が85人(55.6%)であり、平均年齢は68.3歳でPS3以上のADLの低い患者は28.8%であった。閉塞の原因としては大腸癌が93例(60.8%)と最も多く、胃癌が32例(20.9%)、膵癌が14例(9.2%)と続いた。原発性大腸癌による内因性の閉塞が90例(58.8%)で、他臓器悪性腫瘍の浸潤や播種による外因性狭窄が63例(41.2%)であった。①内視鏡が通過しない、②狭窄の口側が見えない、③造影剤が肛門側から口側まで流れないのすべてを満たす完全狭窄は137例(89.5%)であり、平均狭窄長は5.3cmで5cm以上の狭窄の症例が85例(55.6%)であった。狭窄の部位は95例(62.1%)が左側結腸であった。治療成績は技術的成功が151例(98.7%)であり、臨床的成功は139例(90.9%)であった。狭窄スコアであるCROSSは術前には経口摂取できないCROSS≦1の症例が104例(68.0%)認められていたが、術後は全症例の中で12例(7.8%)を除き食事摂取が可能となっている。大腸ステント留置の臨床的失敗に関わる因子について単変量解析及び多変量解析を行い、左側の大腸狭窄、外因性狭窄、狭窄長≧5cmは臨床的不成功に関わる独立したリスク因子と示された。
結論: 悪性大腸狭窄に対する大腸ステント留置術の技術的・臨床的成功率は98.7%、90.9%と高く、臨床的不成功に関わるリスク因子として左側の大腸狭窄、外因性狭窄、狭窄長≧5cmの3つの因子が同定された。

第二章
目的: 閉塞性大腸癌に対するステント留置術の長期成績(再発・予後)を評価する。
方法: 2007年1月から2017年12月までに東京大学医学部附属病院でstageⅡおよびⅢの閉塞性大腸癌に対し、BTS目的に大腸ステント留置術を受けた患者(23例)または減圧術なしに一期的切除術を受けた患者(91例)の合計114例を解析対象とした。閉塞性大腸癌の定義は標準化を図るため、「通常径の内視鏡が通過しないこと」かつ「絶食または流動食摂取までに制限された患者」とした。
結果: 平均年齢は70.7歳と67.9歳で、男性は11例(47.8%)と54例(59.3%)と有意差を認めなかった。閉塞部位は双方ともにS状結腸が多く、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の差も認めなかった。病期および病理学的所見では一期的切除群でリンパ節転移が多い傾向があり、stageⅢを53例(58.2%)認めた。分化度、粘液産生成分、リンパ管侵襲、静脈侵襲、神経侵襲を評価したが、神経侵襲のみ一期的切除群で多くその他の所見では有意差を認めなかった。治療に関してはBTS群のステント留置術の技術的・臨床的成功率は100%と95.7%と良好であり、治療介入が必要な有害事象は認めなかった。大腸切除においては手術の質の評価(R0、切除リンパ節数)に差はなく、人工肛門造設率は一期的切除群でやや多い傾向ではあるが、有意差は認めなかった。手術に関わる合併症の人数はBTS群で4例(17.4%)、一期的切除群で23例(25.3%)であったが、有意差を認めなかった。胃管またはイレウス管挿入を必要とするようなイレウスや膿瘍形成・縫合不全・微小漏出、術後吻合部付近の穿孔などは一期的切除群では発生していたが、BTS群では認めなかった。絶食期間は一期的切除群で長い傾向にあったが、入院期間や栄養状態(アルブミン)に違いは認めなかった。再発率は差を認めなかったが、肝転移再発患者数はBTS群で有意に多い傾向があった(p=0.04)。長期成績(再発と長期予後)についてはBTS群の無再発率は、1年で64.1%、3年で64.1%、5年で64.1%であり、一期的切除群では、1年で84.7%、3年で69.2%、5年で69.2%であり、BTS群の生存率は、1年で100%、3年で87.8%、5年で81.9%であり、一期的切除群では、1年で97.6%、3年で90.0%、5年で88.3%であり有意差は認めなかった。再発に関わる因子としてはリンパ節転移と神経侵襲が同定され、ステント留置術はリスク因子ではないことが明らかとなった。肝転移再発に限定し単変量解析を行ったところ、リンパ節転移のみがリスク因子と同定された。
結論: stageⅡ、Ⅲの閉塞性大腸癌に対するBTS目的の大腸ステント留置術は良好な短期成績を示し、絶食期間が短縮できることが示された。長期成績では一期的切除群と比較しても無再発期間や生存期間に有意差を認めないことを明らかとした。有用な治療選択肢であることが示されたが、肝転移再発患者数が多かったこともあり、さらなる検討が必要である。

上記課題の検討のため、ステント留置前後のCirculating Tumor Cell(CTC)の数的変化を測定した。
方法: 2017年7月から2018年7月までに東京大学医学部附属病院で原発性大腸癌に対し、大腸ステント留置術を施行した患者8例を対象とした。CTCの捕捉はカスタムメイドの新規ポリマーCTCチップを用いて、5mlの末梢血中のCTCを抗EpCAM抗体で捕捉し、CTCをCK19とDAPIで染色し判定した。
結果: ステント留置前後のCTCの数は持続的な増加傾向は認めなかった。
結論: 症例数は少ないものの閉塞性大腸癌に対するステント留置術前後で持続的なCTC増加傾向はなく、ステント留置の機械的圧排による血液循環内へのCTCの持続的浸潤は起こっていない可能性がある。
以上より、本研究からは以下の4つを結論とし、それにより大腸ステント留置術の安全性と有用性に関する知見を付加できたが、今後も本治療を標準化していくためにさらなる症例の集積が必要と考える。
(1) 悪性大腸狭窄に対するステント留置術の技術的・臨床的成功率は98.7%と90.9%であり、臨床的失敗に関わる因子として左側の大腸狭窄、外因性の大腸狭窄、狭窄長が5cm以上の狭窄の3つの因子を同定した。
(2) stageⅡ、Ⅲの閉塞性大腸癌に対するステント留置術は無再発率と生存期間には影響を与えない。
(3) stageⅡ、Ⅲの閉塞性大腸癌の再発に関わる因子としてリンパ節転移の有無と病理学的な神経侵襲の有無を同定した。
(4) 原発性大腸癌に対するステント留置前後で末梢血中のCTC数の持続的増加は認めなかった。

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