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術後胆管良性狭窄の内視鏡治療

佐藤, 達也 東京大学 DOI:10.15083/0002002379

2021.10.13

概要

肝臓で生成された胆汁の消化管への排泄経路が胆管であり、胆管が閉塞すると胆汁鬱滞から黄疸や胆管炎が生じる。無治療では肝不全や敗血症などの重篤な病態に進展するため、適切な胆道ドレナージが必要な病態である。悪性腫瘍以外の良性疾患による胆道閉塞を「良性胆管狭窄(Benign biliary stricture)」と呼ぶ。良性胆管狭窄の原因疾患は多岐にわたるが、本研究が対象とする術後胆管良性狭窄には、胆嚢摘出術後胆管狭窄、生体肝移植(Living donor liver transplantation, LDLT)後胆管狭窄、胆管空腸吻合部狭窄(Hepaticojejunostomy anastomotic stricture, HJS)などが含まれる。中でも後二者は従来内視鏡治療が困難とされてきた。

 良性胆管狭窄に対する内視鏡的標準治療は、胆汁鬱滞の解除と狭窄部の拡張を目的に、拡張用バルーンによる狭窄部拡張とプラスチックステント(Plastic stent, PS)の複数本留置が行われる。PSの開存期間は3~6か月とされ、狭窄改善が得られるまでステント交換を繰り返し最終的にステントフリーを目指すが、狭窄が改善しない症例では年余にわたる内視鏡治療反復や経皮経肝胆道ドレナージ(Percutaneous transhepatic biliary drainage, PTBD)による長期外瘻ドレナージ、また再手術を余儀なくされることが問題である。

 研究①ではLDLT後胆管狭窄に対する当院の内視鏡治療成績を後ろ向きに検討した。LDLTではレシピエント胆管とドナー胆管を直接吻合する胆管-胆管吻合が多く行われるが、後期合併症として吻合部狭窄が16-32%に生じるとされる。LDLT後胆管狭窄では吻合胆管径が細いこと、狭窄部が複数にわたる場合があること、胆管が高度に屈曲していることが内視鏡治療を困難にしており、既報の狭窄改善率は20-100%、狭窄再発率は10-44%とされている。

 2003年8月から2016年4月までにLDLT後胆管狭窄に対してERCP(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography)を行った症例を対象とした。全例でまず狭窄部のバルーン拡張を行い、狭窄改善と判断した症例は一時的に経鼻胆管ドレナージを留置し、数日後に抜去して治療を終了した。狭窄改善が不十分と判断した症例は狭窄部にPSを留置し、狭窄が改善するまで定期的に交換した。PSの留置法は、ステント下端を十二指腸に出さず胆管内に位置させるInside stentとした。

 試験期間中に96例のLDLT後胆管狭窄症例にERCPを行った。男性が54%、年齢中央値57歳(範囲19-71歳)、LDLTの原因疾患は肝癌を伴わない肝硬変が54%、肝癌を伴う肝硬変が35.4%、劇症肝炎が4.2%であり、術前MELDスコアの平均値は16.1(標準偏差6.9)であった。グラフトの種類は右肝グラフトが56.3%、左肝グラフトが37.5%、右外側領域グラフトが6.3%、胆管吻合数は1個が58.3%、複数個が41.7%であった。LDLTから初回ERCPまでの期間は中央値7.2か月(範囲1.7-108.6か月)であった。

 96例中84例(87.5%)で内視鏡治療に成功し、内視鏡治療全体の狭窄改善率は44.8%、フォローアップ期間は中央値90.9か月(範囲1.1-160.7か月)であった。

 治療の詳細について検討すると、初回ERCP時にバルーン拡張を73例に施行し、初回バルーン拡張による狭窄改善率は52.1%であった。経過観察中の狭窄再発率は57.9%、再発までの期間中央値は14.4か月(95%信頼区間3.6か月-Not Available)であり、バルーン拡張単独での狭窄改善率は26.0%であった。初回バルーン拡張による狭窄改善後の累積再発率は6か月で37.1%、1年で42.5%、2年で60.7%であった。65例にPSを留置し、フォローアップ期間中の狭窄改善率は38.5%、狭窄改善までのステント留置期間は中央値34.5か月(範囲2.5-109.5か月)であった。狭窄再発は1例で再発までの期間は43.1か月であった。ステント開存率は3か月で91.9%、6か月で87.4%、12か月で81.6%であった。ロジスティック回帰分析の多変量解析による狭窄改善に関連する因子はBile duct kinking(オッズ比: 0.34; 95%信頼区間: 0.13-0.90; P=0.03)であった。LDLT後胆管狭窄に対する内視鏡治療成績は既報と同等であるが、治療に長期間を要し、約半数の症例が内視鏡治療不応の難治例であった。

 研究②ではHJSに対する当院の内視鏡治療成績を後ろ向きに検討した。胆管空腸吻合術は胆管切除を伴う外科手術において標準的な胆道再建術式であり、後期合併症としてHJSが3-13%に生じるとされる。同術式はRoux-en-Y(R-Y)法やBillroth-II(B-II)法などの腸管再建術を伴うため通常の十二指腸内視鏡によるERCPは困難であり、従来はPTBDまたは再手術が行われてきた。近年、深部小腸まで挿入可能なバルーン内視鏡が開発され、HJSに対してダブルバルーン内視鏡を用いたERCP(Double-balloon endoscope-assisted ERCP, DB-ERCP)による治療が行われるようになってきた。既報の狭窄改善率は70-100%、狭窄再発率は50-71%とされている。

 2008年5月から2018年2月までにHJSに対してDB-ERCPを行った症例を対象とした。全例でまず狭窄部のバルーン拡張を行い、狭窄改善と判断した症例はステントフリーで治療を終了した。狭窄改善が得られなかった症例ではPSを1本または複数本留置し、原則として3か月毎に定期交換を行い、狭窄が改善するまで反復した。

 試験期間中に114例のHJSに対してDB-ERCPを行った。男性が59%、年齢中央値は69歳(範囲22-85歳)であった。胆管空腸吻合術を施行した原疾患は術中胆管損傷、IPMNなどの良性疾患が47.4%、膵癌、胆管癌などの悪性疾患が52.6%であった。手術術式は膵頭十二指腸切除術が49.1%、肝外胆管切除術が32.5%、肝移植術が9.6%、肝切除術が8.8%であり、腸管再建術式はR-Y法が78.9%、B-II法が21.1%であった。手術から初回DB-ERCPまでの期間は中央値30か月(範囲2-557か月)であった。

 DB-ERCPの手技成功率は90.4%であり、内視鏡治療全体の狭窄改善率は68.6%、フォローアップ期間は中央値30.9か月(範囲1-118.5か月)であった。

 治療の詳細について検討すると、初回DB-ERCP時にバルーン拡張を89例に施行し、初回バルーン拡張による狭窄改善率は71.9%であった。経過観察中の狭窄再発率は34.4%、再発までの期間中央値は3.4か月(範囲1-36.2か月)であり、バルーン拡張単独での狭窄改善率は58.4%であった。初回バルーン拡張による狭窄改善後の累積再発率は3か月で13.6%、6か月で26.3%、1年で33.7%であった。38例にPSを留置し、フォローアップ期間中の狭窄改善率は47.4%、狭窄改善までのステント留置期間は中央値5.6か月(範囲1-29.6か月)であった。狭窄再発率は10%であり、再発までの期間は10.2か月であった。ロジスティック回帰分析の多変量解析による狭窄改善に関連する因子は、手術からDB-ERCPまでの期間が12か月以上(オッズ比: 4.74; 95%信頼区間: 1.09-20.7; P=0.039)、瘢痕様所見(オッズ比: 4.89; 95%信頼区間: 1.18-20.3; P=0.029)であった。HJSに対する内視鏡治療成績は既報と同様に比較的良好であったが、約30%の症例が難治例であった。

 研究③では、研究①・②で明らかになった従来治療の難治例を対象に、被覆型金属ステント(Covered metallic stent, CMS)の治療成績を検討した。悪性胆道閉塞に対する内視鏡治療においては大口径(8-10mm)で自己拡張力を有するCMSが保険適用となっており、より長いステント開存期間が証明され広く臨床で使用されている。良性胆管狭窄に対してCMSを使用することで狭窄改善率の向上が見込まれるが、2016年5月時点で本邦の薬事承認を有する良性胆管狭窄に使用可能なCMSは存在しなかった。そこで、従来治療に不応の良性胆管狭窄症例に対するCMS治療の有効性・安全性を前向きに検討する単施設非対照探索的臨床研究を行った。なお本研究は東京大学医学部(旧)特定臨床研究倫理委員会の承認を得ている(P2016004、UMIN-CTR: 000022164)。

 6か月以上の従来治療で狭窄改善が得られない難治性良性胆管狭窄症例を本研究の対象とした。CMSは韓国Taewoong社製「Niti-S Kaffes stent」を使用した。ERCPまたはDB-ERCPで胆管狭窄部にCMSを留置し、90日間の短期留置ののちにステントを抜去して狭窄改善の有無を評価した。主要評価項目はステント抜去時の狭窄改善率とし、副次的評価項目は総狭窄改善率、狭窄再発率と再発までの期間、ステント抜去成功率、有害事象の頻度とその種類とした。本研究は2018年5月に全症例のステント抜去および主要評価項目の検討を終了しており、本論文では2018年10月までに集積されたデータをもとに短期治療成績の検討を行った。

 試験期間中に30例の良性胆管狭窄症例を登録した。男性が63.3%、年齢中央値は63歳(範囲28-81歳)であった。良性胆管狭窄の種類は、LDLT後胆管狭窄が13例、HJSが12例、胆摘後胆管狭窄が2例、肝切除後胆管狭窄が1例、慢性膵炎による胆管狭窄が2例であった。初回治療から登録までの期間は中央値25.5か月(範囲6.1-114.3か月)であった。前観察期間の胆管炎で登録後中止となった1例を除き、29例でCMSの留置に成功した。28例が予定留置期間を完遂し、ステント留置期間は中央値91日(範囲65-98日)であった。

 主要評価項目であるCMS抜去時の狭窄改善率は96.6%(90%信頼区間: 84.7-99.8%)であり、そのうちLDLT後胆管狭窄12例の狭窄改善率は91.7%、HJS12例の狭窄改善率は100%であった。ステント抜去成功率は100%、フォローアップ期間は中央値13.1か月(範囲4.5-22.0か月)で、狭窄再発率は7.1%であった。狭窄改善後の吻合部開存率は6か月で100%、1年で96.2%であった。有害事象は、胆管炎4例、DB-ERCP症例の微小消化管穿孔1例でありいずれも保存的に改善した。難治性良性胆管狭窄に対するCMS治療で有効かつ安全な短期治療成績を得ることができた。

 術後胆管良性狭窄、特にLDLT後胆管狭窄、HJSに対する内視鏡治療は、手技成功率が高くこれらの病態に対する第一選択の治療手技となりうる。バルーン拡張とPS留置による従来治療には一定数の難治例が存在し、これらの症例にはCMS短期留置による治療が有効である可能性が示唆された。さらなる有効性の検証にはランダム化比較試験が必要である。

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