Role of resection for extrahepatopulmonary metastases of colon cancer
概要
主論文の要旨
Role of resection for extrahepatopulmonary
metastases of colon cancer
結腸癌非肝肺転移に対する切除の役割
名古屋大学大学院医学系研究科
病態外科学講座
総合医学専攻
腫瘍外科学分野
(指導:江畑 智希
三品 拓也
教授)
【緒言】
大腸癌切除可能遠隔転移に対する外科的切除は、大腸癌治療ガイドラインにおいて
も推奨されているものの、対象の多くは肝転移・肺転移であり、それ以外の遠隔転移
(非肝肺転移)に対する外科的切除の有効性はいまだ明らかではない。一方、遠隔転移
切除例における周術期化学療法については、全生存率に対する上乗せ効果は示されて
いないものの、一般的に広く行われている。本研究では、結腸癌非肝肺転移切除症例
の長期成績を明らかにし、切除後予後不良因子と周術期化学療法の有効性を明らかに
することを目的とした。局所再発と腹膜播種との判別が困難な直腸癌症例は除外した。
【対象及び方法】
2009 年から 2018 年までに、当科で結腸癌非肝肺転移に対し治療を行った 107 例中、
根治切除を施行した 42 例を対象とした。非肝肺転移に対する手術適応についてはい
まだ議論があるが、我々の切除適応は腫瘍学的・技術的に安全に完全切除ができると
判断した症例とした。腹膜播種症例に対する cytoreductive surgery(CS)や腹腔内温熱化
学療法(HIPEC)は施行しなかった。
長期成績および予後因子を後方視的に解析した。主要評価項目は全生存と無再発生
存とし、生存日数は手術日を基準とした。
【結果】
全 42 例の転移部位の内訳は腹膜播種 31 例、遠隔リンパ節転移 10 例、卵巣転移 1
例、脾転移 1 例(腹膜播種併存)であり、原発部位は右側 25 例(59.5%)、左側 17 例
(40.5%)であった。術前化学療法は 22 例(52.4%)、術後補助化学療法は 8 例(19.0%)に
施行され、14 例(33.3%)は手術単独治療であった。腹膜播種症例では腫瘍切除が 10 例、
腸管合併切除が 19 例、骨盤内臓全摘が 2 例に施行された。遠隔リンパ節転移の部位は
大動脈周囲リンパ節が 8 例、肝十二指腸間膜リンパ節と骨盤内側方リンパ節がそれぞ
れ 1 例ずつであった。R0 切除は 36 例(85.7%)で達成された。
全症例における 5 年全生存率:58.6%、生存期間中央値:67.4 ヵ月、3 年無再発生存
率:33.8%であった(Figure)。単変量解析では R1 切除が無再発生存における予後不良
因子であった(p=0.02,HR: 3.07, 95% CI: 1.23-7.64)。全生存における単変量解析では、
年齢(75 歳以上)、Prognostic nutritional index(PCI)(40 以下)、周術期化学療法なしが予
後不良因子として抽出されたが、多変量解析では周術期化学療法なし(p=0.02, HR: 3.23,
95% CI: 1.19-8.78)のみが有意な予後不良因子として抽出された(Table)。
転移部位別の長期成績は、腹膜播種症例において生存期間中央値:67.4 ヵ月、5 年
全生存率:60.3%であり、遠隔リンパ節転移症例においてそれぞれ 74.1 ヵ月、58.3%で
あった。
【考察】
非肝肺転移は比較的全身性疾患として捉えられ、一般的には切除適応とされず全身
-1-
化学療法で治療されている。本検討における 5 年全生存率 58.6%という長期成績は既
存の肝転移切除あるいは肺転移切除症例の報告と比較しても遜色ない結果であった。
大腸癌腹膜播種症例に対する HIPEC の適応はいまだ定まっていない。近年の RCT
である PRODIGE-7 trial では CS に加えた HIPEC の有効性は示されなかった。また、
本研究と同様に比較的軽症な腹膜播種を対象とした CS と HIPEC の治療成績の報告で
は 5 年全生存率:54.7%と本研究における腹膜播種症例の成績(5 年全生存率:60.3%)
と同等であった。軽度腹膜播種症例に対しては HIPEC や CS は不要かもしれない。
周術期化学療法については肝転移切除や肺転移切除症例において明らかに全生存
率を延長させた前向き試験の報告はなく、有効性・適応にはいまだ議論がある。いく
つかの報告では腫瘍量が多い症例における周術期化学療法の重要性が示唆されている
一方、孤発性の肝転移では化学療法投与の利点はほとんど無いとする報告も認める。
本検討において、非肝肺転移切除症例では周術期化学療法なし(手術単独群)は予後不
良因子であった。これは肝転移・肺転移と比較し非肝肺転移がより全身性疾患である
ことを示唆しているのかもしれない。本研究では術前化学療法は 52%に施行されてい
たのに対し、術後補助化学療法が施行されたのは 14%のみであった。術後補助化学療
法は手術合併症の影響を受けやすく、実際、本研究においても術後合併症症例におい
て術後補助化学療法が施行された症例は認めなかった。確実に周術期化学療法を投与
するためには術前投与が望ましいのかもしれない。
【結論】
一般的に予後不良と考えられる結腸癌非肝肺転移症例のなかで、当科における切除
症例の予後は 5 年全生存率 58.6%と比較的良好であったが、R1 切除率 14%や 3 年無再
発生存率 34%という成績は満足な結果ではない。手術単独治療では不良な転帰となる
可能性があり、非肝肺転移の患者に対しては確実に全身化学療法を投与できる術前投
与が良い選択肢となり得る。
-2-
-3-
Figure 全症例(n=42)における生存曲線.
(a) 非肝肺転移切除後の 5 年全生存率:58.6%.(b) 根治切除後 5 年無再発生存率:27.3%.
-4-