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Development of Bond Forming Reactions Utilizing Reactivities of Hydrofluoroolefins (HFOs)

石橋, 雄一郎 筑波大学

2023.09.13

概要

有機化合物にフッ素置換基を導入すると、特異な性質を発現することが多い。このため含フッ素有機
化合物は、医薬、農薬、材料などの産業分野で幅広く利用されている。中でも、分子内に複数のフッ素
原子を持つ化合物は、疎水性、ミミック効果、耐薬品性や対候性などの特徴を持ち、各分野で様々な化
合物が既に実用化されているが、その合成法にはいまだに課題も多く残されている。 ...

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参考文献

Chapter 4 Conclusion

第1章

有機化合物にフッ素置換基を導入すると、特異な性質を発現することが多い。このため含フッ素有機

化合物は、医薬、農薬、材料などの産業分野で幅広く利用されている。中でも、分子内に複数のフッ素

原子を持つ化合物は、疎水性、ミミック効果、耐薬品性や対候性などの特徴を持ち、各分野で様々な化

合物が既に実用化されているが、その合成法にはいまだに課題も多く残されている。

近年、オゾン層破壊係数 (ODP) や地球温暖化係数 (GWP) の小さいハイドロフルオロオレフィン

(HFO) が注目を集め、その中でもトリ(ジ)フルオロメチル基を持つプロペン型 HFO は開発が精力的に

進められ、消火剤や冷媒、洗浄剤などの用途で実用化され始めている(Figure 1)。たとえば 2-ブロモ-3,3,3-

Figure 1 トリ(ジ)フルオロプロペン構造を持つ市販 HFO の例と HFO の構造上の特徴

トリフルオロプロペン (BTP, 1) は低 ODP、低 GWP の消火剤として使用されている。同様に、HFO1224yd(Z) (2)はターボ冷凍機の冷媒や発泡剤として、HFO-1233yd(Z) (3)は溶剤として最近開発され、工

業的に利用され始めている。これらの HFO を有機合成素子として考えると、その構造的特徴は興味深

い。すなわち、二重結合に加えてビニル位のフッ素、塩素、または臭素置換基はそれぞれ異なる反応性

を持ち、トリ(ジ)フルオロメチル基は医薬、農薬において生理活性を発現するための重要な部位となる。

このように優れた特徴を有しながら、これらのプロペン誘導体は有機合成への応用例が限られている。

本博士研究では、これらの入手容易なトリ(ジ)フルオロプロペン型 HFO に適切な変換を施すことで、有

用な含フッ素化合物へ誘導する新たな合成反応を開発した。すなわち、(i) アリル位 C–F 結合活性化に

よる 1,1-ジフルオロ-1-アルケンの合成 (第 2 章)と、(ii) ビニル位 C–F 結合活性化によるトリ(ジ)フルオ

ロメチル置換ヘテロ環化合物の構築 (第 3 章)を達成した。

第2章 アリル位 C–F 結合活性化: 2,2-ジフルオロビニルシランを経由する gem-ジフルオロアルケ

ンの合成 [1, 2]

gem-ジフルオロアルケンは、フッ素ポリマーの原料として、またジフルオロメチル基やジフルオロメ

チレン基を有する化合物の合成素子として、極めて有用な化合物である。こうした gem-ジフルオロアル

ケンの一般性の高い合成法として、当研究室では比較的安定なジフルオロビニルメタル種である gem-ジ

フルオロビニルホウ素や gem-ジフルオロビニルジルコニウムを鍵中間体とする合成反応を開発してき

た。私は、炭素とより強固な結合を形成するケイ素に注目し、さらに安定で取り扱い易い gem-ジフルオ

ロビニルシランを鍵中間体とする合成反応の開発を試みた。

アリル位にフッ素原子を持つトリフルオロメチルアルケンは、求核剤と SN2’ 型で反応が進行し、新

たなジフルオロアルケンを与えることが知られる(式 1) [a]。しかしながらこの反応は、適用可能な置換基

(R1)および求核剤

(Nu)が限定され、

合成可能なアルケ

ンの構造に制限が

あった。ここで、R1

としてシリル基を

選択すれば、シリ

ル基のα-アニオン安定化効果により SN2’ 型反応を促進し、より広範な求核剤の導入が可能になる。さ

らに、この反応により生成するビニルシランは求電子剤との反応性に富むため、ケイ素置換基を求電子

剤で置換することによって、さらなる変換が可能になる。すなわち、(トリフルオロメチル)ビニルシラ

ンの SN2' 型反応により gem-ジフルオロビニルシランを調製し、次いでシリル基を置換すれば、極性の

異なる二つの置換基を導入できる一般性の高い gem-ジフルオロアルケンの合成法になると考えた(式 2)。

私はまず、出発物質となる

(トリフルオロメチル)ビニ

ルシラン (4)の調製法の開

発に取り組み、ケイ素上に異

なる置換基を持つ 4 の合成

に成功した(Scheme 1)。検討

の結果、4 とその SN2’型反

応により得られる gem-ジ

Scheme 1

(トリフルオロメチル)ビニルシランの合成

フルオロビニルシランの安定性および反応性は、ケイ素上の置換基に大きな影響を受けることが分かっ

た。ジメチルフェニルシリル基を有する 4a は、HFO 1 から容易に得られ、空気中室温でも安定な上、

様々な炭素およびヘテロ元素求核剤による SN2' 型反応が進行して 5 を与えた。本研究では、gem-ジフ

ルオロビニルシランの単離に成功し、5 が空気中室温で安定なことを明らかにした。さらに、5 のケイ

素置換基を種々の官能基へ変換することを試みた。その結果、プロトン化およびブロモ化に成功し、さ

らに炭素-炭素結合形成反応であるアルデヒドへの求核付加が進行し、対応する gem-ジフルオロアリル

アルコールも合成できることを示した(Scheme 2)。

Scheme 2

第3章

HFO 1 を出発物質とする gem-ジフルオロアルケンの合成

ビニル位 C–F 結合活性化: -フルオロ--(トリ/ジフルオロメチル)スチレンの 5-endo-trig

環化による 2-(トリ/ジフルオロメチル)ベンゾヘテロールの合成 [3]

gem-ジフルオロアルケンに求核剤を作用させると、中間体のアニオン種を経由して SNV 反応が進行

し、フッ素置換基が求核剤で置換されたフルオロアルケンを与える(式 3)。当研究室では、本反応を分子

内反応に適用し、含フッ素ヘテロ環の構築法を開発している(式 4) [b]。しかしながら、SNV 反応により含

フッ素ヘテロ環化合物を合成した例は、gem-ジフルオロアルケンを出発物質とする上述の反応に限られ、

環上にフッ素置換基を有するヘテロ環お

よび炭素環化合物しか合成されていない。

前述の通り私は、多様な反応が期待でき

るハイドロフルオロオレフィン(HFO)を

利用し、環化前駆体内の適切な位置に求核

部位を配置することを考えた。これによ

り、フッ素置換基とトリ(ジ)フルオロメチル基がビニル位に置換したスチレンから、SNV 反応を経る分

子内環化を行い、トリ(ジ)フルオロメチル基を有するヘテロ環化合物の高効率合成を目指した。出発物

質として、市販され入手容易な HFO-1224yd(Z) (2)と HFO-1233yd(Z) (3)を選択した。この 2 化合物は、

他の HFO やポリマーの合成原料としての報告例がいくつかあるのみで、複雑な有機化合物への変換は

報告されていない。しかし、電子不足な二重結合、ビニル位のフッ素・塩素置換基が反応に利用可能な

上、生理活性の発現に重要なトリ(ジ)フルオロメチル基を持つことから、有望な化合物と期待した。

環化前駆体である -フルオロ--(ト Table 1

リフルオロメチル)スチレン (7)は、

環化前駆体の合成

HFO 2 とビニルボロン酸の鈴木-宮浦

カ ッ プ リ ン グ に よ り 調 製 し た (Table

1)。反応は化学選択的な C–Cl 結合の切

断を経て進行し、Z 体を立体特異的に

与えた。続く環構築においては、7 に

対して DMSO 中でリン酸カリウムを

作用させた場合に、フッ化物イオンの

脱離を伴う分子内 SNV 反応により 5-

Isolated yield. Yield determined by 19F NMR measurement using PhCF3 as an

internal standard is shown in parentheses.

endo-trig 環化が円滑に進行し、予期し Table 2

2-(トリフルオロメチル)ベンゾフランの合成

た 2-(トリフルオロメチル)ベンゾフラ

ン 8 を高収率で与えた (Table 2)。本手

法は、窒素や硫黄の求核部位を持つ環

化前駆体にも適用でき、トリフルオロ

メチル置換インドール 9 およびベンゾ

チオフェン 10 の合成も可能であった

(Figure 2)。このことから本合成法は、2

Isolated yield. Yield determined by 19F NMR measurement using PhCF3 as an

internal standard is shown in parentheses.

位にトリフルオロメチル基を持つ含酸

素、含硫黄、および含窒素ヘテロ五員環化合物を、市販の HFO 2

から 2 ステップで合成可能な、汎用性の高い手法だと言える。

続いて私は、類似の手法によってジフルオロメチル基を有す Figure 2

2-( ト リ フ ル オ ロ メ チ

るヘテロ環化合物の合成を目指した。HFO 3 から調製したジフ ル)インドール、ベンゾチオフェン

ルオロメチル基と窒素求核部位を持つ

スチレン 11 に対し、NaH を作用させる

ことで、2-(ジフルオロメチル)インドー

ル 12 を高収率で得ることに成功した

(Scheme 3)。さらに、3 から 2-(ジフルオ

ロメチル)ベンゾチオフェン 13 への変

換も達成した(Figure 3)。ジフルオロメ

チル基を持つヘテロ環化合物が医薬、

農薬の分野で注目される一方、その合

成法となるジフルオロメチル基の導入

法はトリフルオロメチル基に比べて限

定される。このため本手法は、ジフル

Scheme 3

N-トシル-(ジフルオロメチル)インドールの合成

オロメチル基を持つ多様なヘテロ環化

合物の合成法として有望である。

第4章

総括

本博士論文研究では、入手容易な HFO であるトリフルオロプロ

ペン誘導体を出発物質とし、各種置換 gem-ジフルオロアルケンおよ

びトリ(ジ)フルオロメチル置換ヘテロ環化合物の合成に成功した。

Figure 3

2-(ジフルオロメチル)

ベンゾチオフェン

2-ブロモ-3,3,3-トリフルオロプロペンを変換して得られる(トリフルオロメチル)ビニルシランを用いた

ジフルオロアルケンの合成では、フッ素置換基とケイ素置換基の相乗効果により、既知の(トリフルオロ

メチル)アルケンに比べてより広範な求核剤との反応を可能とし、かつケイ素置換基の変換によりさら

に官能基導入が行えることを明らかにした。HFO を用いる含フッ素ヘテロ環化合物の合成では、市販さ

れて入手容易でありながら、これまで有機合成に用いられてこなかった HFO-1224yd(Z)、HFO-1233yd(Z)

に着目し、分子内に求核性部位を導入することによって、これまで報告例のない基質による分子内 SNV

反応に成功し、医農薬で有望な 2 位にトリ(ジ)フルオロメチル基を持つヘテロ環の一般性の高い構築法

を開発した。

【発表論文】

[1] Ichikawa, J.; Ishibashi, Y.; Fukui, H. Tetrahedron Lett. 2003, 44, 707–710.

[2] Ichikawa, J.; Fukui, H.; Ishibashi, Y. J. Org. Chem. 2003, 68, 7800–7805.

[3] Ishibashi, Y.; Fujita, T.; Ichikawa, J. Org. Lett. 2022, 24, 9306-9310.

【参考論文】

[a] Bégué, J.; Bonnet-Delpon, D.; Rock, M. H. Tetrahedron Lett. 1995, 36, 5003-5006.

[b] Ichikawa, J.; Wada, Y.; Fujiwara, M.; Sakoda, K. Synthesis 2002, 1917–1936.

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