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大学・研究所にある論文を検索できる 「次世代固形がん治療法の確立を志向した腫瘍血管傷害型CAR-T細胞の創薬化研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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次世代固形がん治療法の確立を志向した腫瘍血管傷害型CAR-T細胞の創薬化研究

藤原, 健人 大阪大学 DOI:10.18910/82185

2021.03.24

概要

キメラ抗原受容体 (CAR) は、一本鎖抗体 (scFv) などの抗原結合分子とT 細胞活性化分子を融合させた人工の膜型受容体であり、T 細胞上に発現させることで任意の抗原 (細胞) に対するT細胞の殺細胞活性を誘導する。これまでに、CD19を標的とするCAR発現T 細胞 (CAR-T細胞) を用いた養子免疫療法が、既存の治療法に抵抗性の難治性・再発性B細胞性腫瘍に対して優れた治療効果を示し、本療法が細胞医薬の特性を活かした持続的かつ強力な抗腫瘍効果を発揮できる新規がん免疫療法であることを実証してきた。近年では、様々ながん種・がん抗原に対する本療法の応用が期待されている一方で、現在開発中のCAR-T 細胞医薬は致命的な副作用を高頻度に発症することや固形がんに対する有効性が乏しいことなどの問題を抱えていることも明らかとなり、本療法の有効性や安全性を増強できるアプローチの開発が望まれている。CAR-T 細胞療法において認められる副作用は、CAR-T 細胞が正常細胞を傷害するオンターゲット毒性とCAR-T 細胞の活性化に伴い分泌される炎症性サイトカインを介したオフターゲット毒性に分けられる。これらは、CAR-T 細胞の標的抗原として理想とされる、がん細胞特異的な膜抗原の選択肢が乏しく、CAR-T 細胞が標的とする抗原のほとんどが正常細胞上にも微量に発現していることや、既存のCAR-T 細胞は標的抗原に対する反応性が高く、また抗原認識に伴って早急な細胞増殖と大量の炎症性サイトカイン分泌を発揮することに起因する。したがって、高い有効性と安全性を兼ね備えたCAR-T 細胞医薬の創出に向けては、CAR-T 細胞の機能調節やがん細胞指向性の向上が必要であると考えられた。そこで申請者は、CAR-T 細胞機能を規定するCAR 構造についての構造活性連関情報の収集と腫瘍血管内皮細胞増殖因子受容体2 (VEGFR2) を標的としたCAR-T細胞の有効性・安全性評価を推進することにより、難治性固形がんに対する腫瘍血管傷害型CAR-T細胞の創薬化を目指した。

CARは細胞外側から抗原認識領域 (ARD)、ヒンジ領域 (HD)、膜貫通領域 (TMD)、細胞内シグナル伝達領域 (STD) の4領域で構成され、CAR-T 細胞の機能はこれらCAR コンポーネントの構造やT 細胞膜上の発現強度に依存すると想定される。しかしながら、これまでのCAR-T 細胞療法研究では、研究者それぞれが自身の経験に基づいて独自のCAR 構造体を開発してきたため、CAR コンポーネントの構造とCAR-T細胞機能の連関を明らかにするCAR 構造活性相関解析は十分に進められておらず、CAR-T 細胞機能を最適化しうるCAR 構造設計に関する情報は未だ乏しいのが現状である。そこで本研究では、マウスT細胞より迅速かつ効率的にCAR-T細胞を作出できるレトロウイルスベクターを用いた遺伝子導入プロトコルを確立し、42種類の各種CAR 構造改変体を用いたCAR 構造活性相関解析を実施することで、各CARコンポーネントの構造がCAR の発現や活性に与える影響を精査し、CAR の構造設計において考慮すべき要因について考察した。ARD 改変CAR を用いた解析からは、ハイブリドーマ法あるいはファージディスプレイ法により単離した抗原への結合親和性や特異性に優れるscFv の全てが、CAR のARD として機能的に発現させられるとは限らないことが明らかとなり、ARD に用いるscFvの構造安定性がCARの発現効率や抗原認識特性に影響を与えることを見出した。また、構造安定性の低いscFvをCAR へと組み込む場合には、抗体可変領域のCDR-graftingがCARの膜発現効率を改善する方法の一つとなることを示した。HD改変CAR およびHD/TMD改変CAR を用いた解析からは、HD がその構造 (長さや柔軟性)あるいはHD を介した複合体形成によりCARの発現効率やシグナル入力閾値 (効率) を規定すること、TMDが細胞膜上のCAR 発現安定性あるいはCAR の細胞局在を規定することを明らかにした。一連の解析よりCAR-T 細胞の機能強度はHD/TMDに規定されるCAR発現強度とHDに規定されるCARシグナル入力効率に影響を受けたことから、HD/TMDの設計は、標的抗原の分布やがん細胞と正常細胞における抗原発現強度の差を考慮して、適切なCAR の膜発現強度とシグナル入力効率を示す構造 ( アミノ酸配列) を選択する必要があると考えられた。STD 改変CAR を用いた解析からは、CD3 -STD のみを有する第一世代CAR に対して、CD3 -STD と各種共刺激分子由来STD を有する第二世代CAR で認められたサイトカイン分泌能の亢進は追加した共刺激分子由来STDのシグナル入力に依存することを明らかにした。また、第二世代CAR の細胞傷害活性は共刺激分子由来STD の種類や追加位置に影響を受けたことから、STD 追加に伴うCAR細胞内構造の変化がCD3 -STD のシグナル入力効率に影響を与えることが示唆された。したがって、第二世代CAR のSTD設計時には共刺激分子由来STDのシグナル特性のみならず、CAR細胞内構造変化に基づくCD3 -STDのシグナル入 力効率の変化についても考慮する必要があると考えられた。

固形がんに対するCAR-T 細胞療法を成功させるためには、CAR の構造改変によるCAR-T 細胞の最適化に合わせて、投与CAR-T 細胞の腫瘍組織への送達効率を改善する必要がある。血中へ投与したCAR-T 細胞がコンタクトしやすい血液系がんとは異なり、CAR-T 細胞が固形がん細胞を認識し排除するためには、血管壁を通過し、腫瘍組織へと浸潤しなければならない。しかしながら、既存のCAR-T 細胞の腫瘍局所への送達効率は乏しく、また一部のCAR-T 細胞が腫瘍組織内へと浸潤したとしても腫瘍内の免疫抑制環境によってエフェクター機能を強力に抑制されてしまうことから、これまでに開発されてきた固形がん細胞の表面抗原を標的としたCAR-T 細胞は明確な治療効果を示せていない。

これまでに申請者らのグループでは、腫瘍血管内皮細胞に高発現するVEGFR2を標的としたCAR-T細胞を開発し、各種担癌マウスモデルにおいて、VEGFR2への標的化が投与CAR-T細胞の腫瘍組織への送達性向上と腫瘍退縮効果を同時に達成できる汎用性・利便性に優れたアプローチであることを報告してきた。そこで本研究では、遺伝毒性リスクが極めて低く、また予期しない副作用の発症リスクを回避・低減できる可能性が見込まれる、CAR mRNAのエレクトロポレーション (mRNA-EP) 法を臨床研究用のCAR-T細胞作製方法として選択し、抗VEGFR2 CAR-T細胞の有効性や安全性を検証するためのFirst in human試験実施に向けた臨床研究用CAR-T細胞の規格決定ならびに適応症例選択に関する基礎情報を収集した。mRNA-EP 法により作製したCAR-T 細胞の機能を解析したところ、T 細胞膜上におけるCAR 発現期間 (= 作用発現期間) は一過性であったものの、担癌マウスに対して、mRNA導入CAR-T細胞の複数回投与はウイルスベクター遺伝子導入法で作製したCAR-T細胞の単回投与に匹敵する強力な抗腫瘍活性を発揮した。また、mRNA導入ヒトCAR-T 細胞の機能および表現型解析により、mRNA-EP 法がT 細胞の機能や生存率に影響を与えることなく、全てのT細胞を機能的なCAR-T細胞へと一時的に改変できる手法であることを確認した。臨床研究用のCAR-T細胞を選定するために、抗CD19 CARコンストラクトを参考に3種類の抗VEGFR2 CARを構築し、それらをコードしたmRNA導入ヒト CAR-T 細胞の機能を解析したところ、 CD28-HD/TMD/STD および CD3 -STD を有する CAR コンストラクトがヒトVEGFR2 発現細胞に対して最も優れた細胞傷害活性誘導能を示した。当該 CAR コンストラクトを臨床研究用 CARmRNAプロトタイプとして選出し、さらにコンストラクト内に組み込まれていた研究用タグ配列の除去やCAR mRNAの5’-Cap構造の改変を進めることで、mRNA導入CAR-T細胞におけるCAR の免疫原性の低下やCAR発現強度・安定性の向上を達成した。作製したヒトCAR-T 細胞は凍結保存し輸送することで、高い機能性を保持した状態で患者に投与できると期待したが、凍結融解の操作はT細胞のエフェクター機能を著しく減弱させた。そこで、T細胞機能を喪失させることなく患者のもとへと輸送できる温度条件を検討したところ、4 C環境下での輸送によってCAR-T細胞の生存率やCAR発現強度、殺細胞傷害活性が保持されたことから、作製したmRNA 導入CAR-T細胞医薬は4 C環境下で患者へと輸送することに決定した。

固形がんのなかでも、軟部組織より発生する肉腫は希少かつ多様性を有しており、治療選択肢が乏しいことから、高いアンメットメディカルニーズが残されている。一方、上皮性がん同様に肉腫においても腫瘍の増大に伴う組織内への血管新生誘導が認められることから、腫瘍血管の傷害を作用モードとする抗VEGFR2 CAR-T細胞療法は、多様性に富んだ肉腫に対して一様に効果を発揮できるポテンシャルを秘めている。そこで申請者は、抗VEGFR2 CAR-T細胞療法の肉腫への奏効可能性やヒトに対する安全性についての基礎情報を収集するべく、抗VEGFR2 CARと同一エピトープを認識する抗体を作製し、肉腫患者あるいは上皮性がん患者由来の腫瘍組織および正常組織を用いた免疫組織染色解析を実施した。凍結肉腫組織および正常組織標本におけるヒトVEGFR2発現解析から、抗VEGFR2 CAR-T細胞は7割以上の肉腫患者に対して広範に抗腫瘍効果を発揮できる可能性が見込まれ、さらに筋肉・脂肪・皮膚正常組織に対してはオンターゲット毒性を示さないことが示唆された。

以上より、本研究ではCAR-T 細胞機能に影響を与える各種CAR コンポーネントの構造活性連関を評価し、CAR-T 細胞の最適化に向けたCAR の構造改変に関する基盤情報を集積した。本成果を基盤としたさらなるCAR 構造活性相関解析の推進が、高い有効性と安全性を兼ね備えた新たなCAR-T 細胞医薬の開発に繋がることを確信している。また本研究では、肉腫患者に対する抗VEGFR2 CAR-T細胞を用いたFirst in human試験実施の準備を進めた。申請者ら独自の腫瘍血管型CAR-T 細胞療法が肉腫患者に福音をもたらすことを願うとともに、本療法を基軸とした集学的治療戦略が難治性固形がんに対する奏効率の向上に大きく貢献できるものと期待している。

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