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大学・研究所にある論文を検索できる 「顆粒球系骨髄由来免疫抑制細胞と子宮内膜症進展の関係」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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顆粒球系骨髄由来免疫抑制細胞と子宮内膜症進展の関係

佐竹, 絵里奈 東京大学 DOI:10.15083/0002005097

2022.06.22

概要

子宮内膜症とは、本来は子宮内腔を裏打ちする子宮内膜に類似した組織が子宮外に発育する疾患である。主たる罹患部位は骨盤腹膜、卵巣であり、月経痛、不妊、癌化などを引き起こし、女性のQOLを著しく損ねる慢性疾患である。本症の病因病態に関して唯一明らかになっているのはエストロゲンに依存性のあるという点で、そのため現在のところ主な治療方法はホルモン療法に限られている。したがって、合併症や妊娠希望のためホルモン療法を行えない患者が少なくなく、本症の発症・進展に関わる因子として、ホルモン以外の因子の探求と新規治療の開発が待たれている。

本症の発症機序として、月経の際に子宮内膜の断片が月経血とともに経卵管的に逆流して腹腔内に生着、増殖し、子宮外に子宮内膜症病変を形成するという逆流説が広く受け入れられている。この異所性子宮内膜組織が増殖しながら腹腔内の炎症を引き起こし、月経痛や不妊症に進展すると考えられている。しかし月経血の逆流自体はほとんどの女性に起こるにも関わらず、子宮内膜症を発症する女性はその一部である。そこで、本症の発症には月経血の逆流だけでなく、腹腔内の子宮内膜組織の除去不全が病態に関与していると考えられてきた。このようななか、本症の病因病態に腹腔内免疫の抑制等、免疫学的な関与が注目されている。子宮内膜症では腹腔内の多くの免疫担当細胞の機能が障害されていることがわかってきており、たとえばマクロファージの子宮内膜細胞に対する貪食能、細胞傷害能や抗原提示能が低下しているという報告や、NK細胞の細胞傷害能の低下、またT細胞の機能障害により炎症性サイトカインや成長因子が増加しているという報告などが示されている。

一方、癌免疫の分野では、宿主の自然免疫および獲得免疫の両方を強力に抑制する、未熟な骨髄球系の細胞集団:MDSC(myeloid-derived suppressor cells)が注目されている。MDSCはT細胞、マクロファージなど様々な免疫担当細胞と相互作用して宿主の免疫を抑制する。MDSCの免疫抑制作用は、主にArginase1(Arg1)の分泌によって起こり、T細胞やNK細胞の機能を阻害する。またMDSCは免疫抑制能の他に、腫瘍内に浸潤してVEGFやMMP9を分泌し血管新生を促し、さらに腫瘍浸潤、premetastatic nicheの形成なども助長して腫瘍進展に加担している。MDSCには単球系のM(mononuclear)-MDSCと顆粒球系のPMN(polymorphonuclear)-MDSCの2つのサブタイプがある。表面マーカーによる分類では、マウスのM-MDSCはCD11b+Ly6G-Ly6C+、PMN-MDSCはCD11b+Ly6G+Ly6Clowと定義され、ヒトのM-MDSCはCD33+HLA-DRlow/-CD14+D15-、PMN-MDSCはCD33+HLA-DRlow/-CD14-CD15+と定義されることが多い。M-MDSCとPMN-MDSCのどちらが優勢かは病態によるが、多くの癌でPMN-MDSCのほうがMMDSCの割合よりも多いという報告が目立ち、また末梢血中のM-MDSCに比べPMNMDSCの割合が高く予後と相関するという報告もある。

子宮内膜症は良性疾患ではあるが、自律増殖、浸潤、癌化という悪性腫瘍に類似した性格があり、さらに上述のようにその発症や増悪機序に免疫抑制が寄与しているとの考え方から、私はMDSCの子宮内膜症における役割について明らかにしたいと考え本研究を行った。

まず、子宮内膜症患者の末梢血中および腹腔内貯留液中からMDSCをFACSを用いて同定したところ、いずれもPMN-MDSCがコントロールより多く検出され(末梢血:3.20(1.76–7.36)%vs1.63(1.31–2.86)%,p<0.05,腹腔内貯留液:7.82×10-1(1.74×10-1–4.80)%vs6.48×10-2(3.32×10-2–1.24×10-1)%,p<0.05,(中央値(四分位範囲),子宮内膜症群vsコントロール))、M-MDSCには有意差がなかった(末梢血:7.50(5.71–14.20)%vs7.06(4.01-9.08)%,p=0.100,腹腔内貯留液:25.1(15.6–30.2)%vs12.2(9.1–21.9)%,p=0.148)。

また、本症患者から摘出した子宮内膜症性卵巣嚢胞壁について、PMN-MDSCの特異的マーカーであるLOX1(lectin-type oxidized LDL (low density lipoprotein) receptor-1)と機能的マーカーであるMMP9もしくはArg1の二重免疫組織化学染色を行い、PMN-MDSCの検出を行ったところ、嚢胞壁内にLOX1/Arg1共陽性、LOX1/MMP9共陽性の顆粒球をそれぞれ複数認めた。

つぎに、子宮内膜症モデルマウスの末梢血中および腹腔内貯留液中よりMDSCの検出を試みた。モデルマウスは、前述の逆流説に基づき本症が発生すると仮定し、ドナーマウスの子宮を摘出して細切しレシピエントマウスに腹腔内注入(移植)することで作成した。既報より、モデルマウスの腹腔内MDSCが移植後3日目前後で最多となることを踏まえ、移植後3日目に腹腔内細胞を回収し、FACSでMDSCを検出した。PMN-MDSCの割合は5.02(2.95–7.57)%vs0.12(4.63×10-2–0.43)%,p<0.05、M-MDSCの割合は0.12(4.7×10-2–0.25)%vs0.28(0.20–0.50)%,p=0.112であり、モデルマウスの腹腔内ではPMN-MDSCのみが有意に多く存在することがわかった。移植直後の時期でこのような結果が得られたため、PMN-MDSCが子宮内膜症細胞のリクルートや生着など発症初期により強く関わっていると考え、以降はPMN-MDSCと本症との関連を調べた。

モデルマウスの腹腔内PMN-MDSCをFACSにより単離し、mRNAを抽出してPMNMDSCの機能因子の発現をみた。比較対照として、モデルマウスの末梢血からNeutrophil isolation kitを用いた磁気細胞分離により単離した好中球を用いた。モデルマウスの腹腔内PMN-MDSCでは、モデルマウスの末梢血好中球に比べ、Arg1、VEGF、MMP9がそれぞれ5.48±1.75倍、424±7.64倍、2.48±0.74倍高く発現していた(平均±SEM)。これよりPMN-MDSCのT細胞性免疫抑制や血管新生促進作用が示唆された。

さらに、モデルマウスのPMN-MDSCを枯渇化することで機能の検討を行った。既報では抗Gr-1抗体が用いられていたが、これはPMN-MDSCのみならずM-MDSCをも除去しうるため、ここではPMN-MDSCのマーカーでありM-MDSCには発現していないLy6Gに対する抗体をモデルマウスに投与し、PMN-MDSCの枯渇化を図った。モデルマウスに抗Ly6G抗体を2回投与し、移植後3日目に腹腔内貯留液、子宮内膜症様病変を採取したところ、腹腔内PMN-MDSCは抗Ly6G抗体によってあきらかに枯渇化され、M-MDSCには影響のないことが示された。一方、これらのマウスでは病変の構造や数・重量には有意差がなく、これは病変が形成されて間もないため表現型に表れにくかったことが考えられ、つぎに移植後6日目で評価した。抗Ly6G抗体を3回投与し、移植後6日目に検体を採取したところ、1病変の平均重量が抗体投与群で有意に重く(抗体投与群vsコントロール:59.8(31.1–118.0)mgvs20.5(13.4–34.4)mg,p<0.05)、1病変あたりの腺腔構造の平均数に有意差はなかった(0(0–3.2)個vs3.0(2.2–7.0)個,p=0.0918)。病変の腺腔構造の腺上皮細胞数に対するTUNEL陽性細胞の割合は、抗体投与群で高値であり(37.4(17.0–41.0)%vs1.08(0.384–11.0)%,p<0.05)、腺上皮細胞のKi67陽性細胞は減少した(42.1(41.4–42.6)%vs55.3(47.1–64.0)%,p<0.05)。すなわちPMN-MDSCを枯渇したモデルでは、子宮内膜症病巣上皮の細胞増殖抑制とアポトーシス促進が観察されたのに対し病変の縮小は観察されなかった。これは、PMN-MDSCが子宮内膜症上皮の細胞増殖や抗アポトーシスには関与するものの病巣全体の形成・増大に直接的影響を及ぼすほど強い関与はしていない可能性が挙げられる。また、評価方法(サンプル数、観察時期など)の最適化が不十分なためにその現象をとらえられなかった可能性も考えられた。

今回の研究で、子宮内膜症患者の末梢血中PMN-MDSCは健常者に比べ有意に多いこと、これが腹腔内貯留液中や本症病巣にも存在し、Arg1、MMP9やVEGFを発現していることが確かめられたことから、T細胞の機能抑制や血管新生に加担し、子宮内膜症の発症・進展に全身性にも局所的にも寄与している可能性が示された。

一方、子宮内膜症においてPMN-MDSCが局所ならびに末梢血で増加している機序は明らかになっていない。また、モデルマウスでのPMN-MDSC枯渇化により実際にT細胞などの機能が抑制されたかどうか、炎症反応が抑制されたかどうかも本研究では証明できていない。今後、子宮内膜症細胞あるいは他の免疫担当細胞とPMN-MDSCとのco-cultureを行って、宿主の免疫機能が抑制されているか、また炎症反応が助長されるか、検証したい。

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