リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「骨髄由来細胞特異的Fli1欠失マウスにおける血管形成異常および創傷治癒についての検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

骨髄由来細胞特異的Fli1欠失マウスにおける血管形成異常および創傷治癒についての検討

福井, 夕輝 東京大学 DOI:10.15083/0002005111

2022.06.22

概要

全身性強皮症は、自己免疫の異常に伴い皮膚および内臓諸臓器において血管障害と線維化が生じる膠原病である。その病因についてはいまだ明らかとされていないが、疾患感受性および重症度を規定する遺伝因子と、環境因子の相互が複雑に影響し合うことで発症する多因子疾患であると考えられている。E26 transformation-specific(ETS)転写因子ファミリーに属する転写因子Fli1は強皮症皮膚線維芽細胞においてエピジェネティック制御により発現が制御されており、全身性強皮症の病態に重要な影響を与える可能性が示されている。Fli1の発現低下は皮膚線維芽細胞においてⅠ型コラーゲンの発現を亢進し、血管内皮細胞、表皮細胞、マクロファージにおいても強皮症特有の形質変化を誘導することが判明している。骨髄細胞、血管内皮細胞、表皮角化細胞、脂肪細胞、B細胞においてFli1を特異的に欠損したマウスを作製することにより自己免疫、炎症、血管障害、皮膚線維化、間質性肺疾患などの全身性強皮症の病態が再現されることから、これらのマウスの病態解析が強皮症の病態理解と治療開発の一助となることが期待されている。

全身性強皮症においてQOLを著しく損ねる症状の一つとして手指潰瘍が挙げられる。10年間の前向き追跡調査にて58%の全身性強皮症患者が手指潰瘍を発症し、そのうち30%が壊疽に至るとの報告がある。手指潰瘍発症の主な契機として指尖潰瘍では末梢循環障害、手指関節伸側の潰瘍については皮膚硬化部位の微小な外傷から潰瘍形成に至り、血管障害に伴う創傷治癒の遅延から難治性の潰瘍に発展すると考えられている。

全身性強皮症における血管構造の異常は患者のほぼ全てに生じ、大きく破壊性血管障害と増殖性閉塞性血管障害に分けられる。破壊性血管障害は毛細血管の進行性の喪失を特徴とし、組織の低酸素化や皮膚線維芽細胞の活性化につながる。一方、増殖性閉塞性血管障害は血管内皮細胞および血管周皮細胞、血管平滑筋細胞を含む血管構成細胞の増殖を特徴とし、線維増殖性変化を伴う細動脈および小動脈の閉塞をもたらすことで最終的に肺動脈性肺高血圧症、手指潰瘍、強皮症腎クリーゼ発症の直接的な要因となる。

血管損傷後における新生血管の形成および血管リモデリングは、骨髄由来の血管内皮前駆細胞が関与する脈管形成、傷害部位に隣接する成熟した血管内皮細胞が関与する血管新生の2種類の機序により制御されるが、全身性強皮症においては脈管形成、血管新生の両者共に障害が見られる。血管障害の進行に伴う血管構成細胞の機能的変化は血管内皮機能障害、凝固線溶系の障害、可溶性因子と細胞接着分子の異常な発現を引き起こし、病的な炎症を誘導する。さらに炎症により線維芽細胞が活性化されるのと同時に、線維芽細胞自体にTGF-のオートクラインによるシグナル伝達やToll-likereceptor4の発現亢進など全身性強皮症固有のメカニズムが加わることで、最終的に真皮線維芽細胞の恒常的活性化に繋がる。したがって全身性強皮症における血管障害は、炎症および免疫異常と線維芽細胞の活性化を結び付ける重要な因子になり得ると考えられる。全身性強皮症における難治性手指潰瘍に対し血管障害に起因する創傷治癒の遅延が大きな要因となることから、全身性強皮症の血管障害を再現するモデルマウスを用いた病態解析はその病態把握や今後の治療開発などに役立つ可能性が高いと考えられる。

全身性強皮症の血管障害を再現するモデルマウスの一つとしてCre-loxP系を用いて単球、成熟マクロファージ、顆粒球などの骨髄細胞に発現するリゾチーム2遺伝子(Lyz2)発現細胞特異的Fli1欠失マウス(Fli1McKOマウス)が作製された。同マウスは全身性強皮症の病態に類似する免疫異常、線維化のみならず動脈狭窄、毛細血管消失、血管透過性亢進などの血管障害を再現し、今までに全身性強皮症における血管障害の構造的および機能的異常を再現することが示されている。本研究においてはFli1McKOマウスを用いて創傷治癒の評価および血管障害を中心とした病態についての検討を行った。

Fli1McKOマウスでは肉芽組織や瘢痕組織の血管構造の減少を伴う肉芽形成期以降を中心とした創傷治癒の遅延が生じており、血管新生のプロセスについてex vivo retinal explant culture assayでは異常が見られなかったことから脈管形成を中心とした血管新生障害が生じている可能性が示された。さらにin vivo Matrigel plug assayを用いてFli1McKOマウスにおける新生血管の構造について確認を行ったところ、血管壁を構成する層が薄くコントロールマウスと比較して不整に拡張した血管構造が確認され、血管壁を中心に血管平滑筋細胞および血管周皮細胞のマーカーである-SMA、PDGFRの発現低下が見られた。PDGFRは血管周皮細胞において新しく形成された血管を裏打ちするとともに血管内皮細胞の分化や増殖を制御し、血管内皮細胞とギャップ結合などによって接着することで血管の構造的安定化に寄与する主要な因子とされることから、同マーカーの発現低下によりFli1McKOマウスにおいて周皮細胞の機能異常もしくは減少から血管壁の機能不全に陥ることで血管が不安定化するpericyte lossの状態が生じている可能性が示された。

血管周皮細胞は血管平滑筋細胞と同様に主に間葉系幹細胞を起源としている。さらに間葉系幹細胞は血管内皮細胞への分化能力を有しており、毛細血管の形成において間葉系幹細胞が血管を形成する血管内皮細胞の役割と血管を安定化させる血管周皮細胞の役割の両方を果たすことで毛細血管の安定化に寄与しているとの報告がある。

この事実を踏まえ、Fli1McKOマウスにおける骨髄由来間葉系幹細胞のフェノタイプについて検討を行ったところ、全身性強皮症の場合と同様にTGF-に過剰に反応して遊走能、増殖能、コラーゲン産生能の亢進が確認された。Fli1McKOマウスの骨髄由来間葉系幹細胞ではTGF-typeⅠ受容体、TGF-typeⅡ受容体のmRNAにおける発現が亢進していたことからTGF-受容体の過剰発現が示唆され、さらにTGF-の活性化因子であるintegrinvのサブユニットにおけるmRNAの発現が亢進していたことから、TGF-のオートクラインループが形成されている可能性が示された。

TGF-の誘導によりマウスの肺微小血管内皮細胞やヒト線維芽細胞における筋線維芽細胞への分化、増殖を促進する因子としてendothelin-1が知られており、Fli1McKOマウスの骨髄由来間葉系幹細胞においてTGF-刺激下でendothelin-1の発現が亢進していることを確認した。endothelin-1は血管内皮細胞から産生分泌される強力な血管収縮ペプチドとして機能する一方でI型およびIII型コラーゲンの合成刺激、matrix metalloproteinaseの産生阻害、上皮間葉転換の促進やサイトカインの発現誘導を含む複数の線維化促進活性を有しており、全身性強皮症患者の線維芽細胞においてはendothelin-1もオートクラインループを形成することで線維化に影響を与えると考えられている。またendothelin-1は線維芽細胞においてc-Abl/PKC/Fli1経路を活性化し、Fli1の発現量とプロモーター結合能の低下をもたらすとの報告もある。

Endothelin受容体拮抗薬ボセンタンは肺動脈性肺高血圧症や全身性強皮症手指潰瘍の発症予防に対して有用性が示されている。ボセンタンはendothelin-1の受容体結合を阻害するのみならず、強皮症皮膚線維芽細胞において転写因子Fli1の発現およびDNA結合能を亢進させることで強力な抗線維化作用を示す。血管内皮細胞では転写因子Fli1の転写活性を回復させ、血管内皮細胞特異的Fli1欠失マウスにおける全身性強皮症に類似した血管の機能異常を修復する作用があることが明らかとされている。上流に存在する転写因子Fli1やTGF-の調節を行うことは、その機能が多面的であることから重篤な有害事象を生じるリスクが高いと考えられるが、ボセンタンはendothelin特異的に比較的安全に全身性強皮症に伴う形質変化を抑えることを可能としている。

本研究においてFli1McKOマウスの骨髄由来間葉系幹細胞がTGF-の刺激を受けることでendothelin-1の発現を亢進させ、ボセンタンの投与によりTGF-刺激下での骨髄由来間葉系幹細胞の細胞遊走能、増殖能の亢進を有意に抑制したことから、活性化を生じたTGF-の下流においてendothelin-1が骨髄由来間葉系幹細胞の形質変化による内皮間葉転換の活性化や血管の新生障害を伴う創傷治癒遅延の発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。さらにbasic fibroblast growth factor(bFGF)製剤であるトラフェルミンをボセンタンと併用したところ、Fli1McKOマウスにおいてボセンタン、トラフェルミン併用群は他群と比較して有意に創傷治癒日数の早期化が得られた。ボセンタン、トラフェルミン併用群では瘢痕部位の血管構造も明らかに増加していた。したがって全身性強皮症における難治性手指潰瘍の予防薬としてガイドライン上最も推奨されるボセンタンの使用方法について、トラフェルミンと併用することで予防のみならず創傷治癒の早期改善に繋がる可能性が示され、実臨床においてもこれらの薬剤を併用することにより全身性強皮症患者の皮膚潰瘍の早期改善に繋がる可能性が示唆された。特にヒトの創傷部位において実験を目的とした検体の採取は困難であることから、Fli1McKOマウスを用いた創傷の評価は全身性強皮症における創傷治癒の病態解析の一助になると考えられた。また本マウスで見られた脈管形成の異常は全身性強皮症の病態と類似しており、今後全身性強皮症において更なる病態解明や新規薬剤開発に役立つことが期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る