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大学・研究所にある論文を検索できる 「農作物の凍霜害リスクを決定する気象条件」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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農作物の凍霜害リスクを決定する気象条件

澁谷 和樹 明治大学

2022.01.01

概要

1 問題意識と目的
 凍霜害は,地震や台風ように人命に関わる気象災害ではないが,農家が受ける経済的損失は非常に大きい.また近年,農業人口の減少に伴う農地の集積・大規模化が加速しており,労力とコストが非常にかかる防霜対策は,農家の大きな負担となり,適切に対策を講じることが困難となることが予想される.そのため,より適切な防霜対策を可能にする高精度な凍霜害予測システムが必要とされている.現在,気象台の霜注意報(最低気温の予報のみを指標)は,日本の多くの農家が防霜対策を講じる上で指針としている.しかし,霜注意報の適中率はこれまで検証されておらず,気温のみを指標とした予報では,低湿度によって霜が発生しないケースなどが考慮されていないために,発令回数が多くなりやすく,十分な精度ではないと考えられる.また,単に凍霜害の危険があるなしだけではなく,凍霜害のリスクがどの程度あるのか予測できなければ,適切な防霜対策の役に立たない.霜の形態(白霜・水霜)と凍結の仕方(植氷凍結・自発凍結)によって,作物の被害の程度が異なることが知られている.しかし,自然条件下で水霜と白霜を観測して,発生条件を特定した例はなく,凍結の仕方と霜の形態を同時に観測する手法も従来なかった.霜の形態と凍結の仕方を決定する気象条件を特定できれば,凍霜害リスクの程度を示す予測の開発へと繋がる.そこで本論文では,農作物の凍霜害のリスクを決定する気象条件について研究した.

2 構成及び各章の要約
 第1章では,水霜と白霜の発生条件を特定し,前白霜の存在を発見した.また,葉の自発凍結と植氷凍結を判別した.一般に水蒸気圧が6.1hPa(3重点)以下の非常に乾燥した日には,気温が下がると水蒸気からの氷に直接変化するため,液体状態(結露)を経ずに直接氷(霜)が発生すると考えられている.しかし,自然条件下では氷点下でも凍結しない過冷却状態の結露があるため,水蒸気圧が6.1hPaより低い条件でも水霜が発生した.そして,水蒸気圧が3.5hPa以下まで低下し,乾燥が強い条件だと過冷却状態の結露が存在せず,水蒸気から氷に直接変化する凝華によって白霜が発生した.水蒸気圧が3.5hPa以上では農作物の被害が少ない水霜が発生し,水蒸気圧が2.5hPa~3.5hPa程度では農作物の被害が大きい白霜が発生しやすいことがわかった.そして,水蒸気圧が2.5hPa以下と非常に乾燥していると霜は発生しなかった.
 また,水霜の場合,センサー温度が露点に達する前に氷点下に達することで,結露の発生前に白霜が発生することがあった.この結露が発生する前の白霜を前白霜と呼ぶことにした.水蒸気圧が6.1hPa以上である場合,センサー温度が氷点下以上の場合には結露のみが発生し,センサー温度が氷点下まで低下する場合でも氷点下に達する前にセンサー温度は露点に達するため,前白霜が発生することなく水霜が発生した.水蒸気圧が3.5hPa~6.1hPa程度であれば,センサー温度が氷点下に達した後にセンサー温度は露点に達するため,前白霜が発生した後に水霜が発生することがわかった.従来,地物(植物や岩石など)の温度が霜点に達すると地物に霜が発生し始めると考えられていたが,実際には放射冷却によって地物の温度が氷点下に達した時点で前白霜(白霜)の発生があり得ることがわかった.
 TDR(時間領域反射法)霜センサーの一部(検知部の面積約20%)をキャベツの葉に接触させて,霜の有無と葉の凍結を同時に観測した.その結果,葉の自発凍結と植氷凍結を判別可能であった.本観測のキャベツの葉は,凍結開始温度が-1.3℃程度と比較的高く,葉温が氷点下に達することで発生した白霜による植氷凍結で葉の凍結が起きた.観測できた白霜は,葉温が氷点下に達したとき(気温は氷点以上)に発生し始めており,霜の形態としては発生初期の白霜または前白霜と同じものであった.したがって,作物種や時期によって凍結開始温度が高い場合には,葉温が氷点下に達した時点で発生する白霜や前白霜によって植氷凍結が引き起こされることがわかった.前白霜の場合,その後,葉温が露点に達すると結露が発生するが,葉の凍結は継続するのかもしくは融解するのか今後特定する必要がある.霜の形態と凍結の仕方に関してはさらなる観測データの収集が不可欠であるが,白霜と水霜では,葉を凍結させるタイミングや葉の凍結時間が異なると考えられ,この違いが白霜と水霜では作物の被害の程度が異なる理由なのではないかと考えられた.

 第2章では,3地点の圃場において霜観測を行い,気象台の霜注意報の適中率を調べた.北海道池田町(2019-2021年),長野県伊那市(2020-2021年)と福島県飯館村(2021年)の霜注意報の適中率を算出したところ,3地点全体では0.0%~53.8%と大きなばらつきがあり,全体の平均適中率は28.0%であった.北海道池田町の適中率は全体的に低く,早霜期の方がより適中率が低かった.長野県伊那市の適中率は晩霜期で高く,福島県飯館村の適中率は晩霜期・早霜期の両方で高かった.このように,観測地点によって気象条件が異なることから,適中率にも地点による特性がみられた.霜が発生しなかった日の多くは,晩霜期では強風,早霜期では高気温であった.そのほかに,降雨によって霜が発生しなかった例もあったが,低湿度によって霜が発生しなかった日は全体で一度のみであった.発令基準が最低気温3℃以下の北海道池田町の適中率がもっとも低く,早霜期において霜が観測されなかった理由の多くが高気温であったことから,この発令基準の温度を下げる(最低気温2℃以下など)ことで,早霜期の適中率は上昇すると考えられる.しかし,現在の長野県伊那市と福島県飯館村の発令基準(最低気温2℃以下)を下げることは,捕捉率(霜が観測された日に霜注意報が発令されていた確率)の低下を引き起こすリスクが高いと考えられた.したがって,気温のみを指標として広範囲に対して発令される気象庁の霜注意報では,局所的な気象条件まで考慮することはできないため,高い適中率は期待できず,高くても50%程度が目安になると考えられた.

 第3章では,凍霜害リスクの変化に着目して,降雨や風との凍霜害リスクの関係や,送風法による茶の品質の変化,ヒートアイランド現象による凍霜害リスクの変化について調べた.1876-2018年までの東京管区気象台における初霜日と終霜日の前後5日間の降水率(日合計降水量が0mm以上あった日の確率)を調べた.霜日の2,3日前の降水率は月平均降水率に比べて,初霜日が3~15%高く,終霜日は17~19%高くなった.霜日の2,3日前の降雨率が高い理由としては,降雨による湿度の上昇や,降雨を伴う寒気の流入よる気温の低下が霜の発生を促進する可能性が考えられた.また,北海道池田町における観測では,降雨のある日は当然曇天であることが多く,夜間の放射冷却が弱く霜が発生しづらいが,急速な天候の回復といった天候の変化具合によっては,降雨のある日でも湿度の上昇や雨滴の凍結によって水霜(凍露)が発生する可能性があることが示唆された.しかし,降雨日には白霜は発生しづらいと考えられるため,凍霜害のリスクとしては低いと考えられた.
 白霜は,おおよそ風速1.5ms-1以下で気温が0℃から-7℃程度まで低下すると発生し,水霜はおおよそ風速2.0ms-1以下で気温が0℃から-5℃程度まで低下すると発生した.風があると,上空の比較的暖かい大気と放射冷却によって冷え込んだ地表面の大気が混合されて地上の気温が昇温するため,霜が発生しづらくなる.水霜と白霜の発生を決定する条件は水蒸気圧であり,白霜の発生する水蒸気圧の条件は水霜の水蒸気圧の条件より低いため,霜点に達するにはより大きな気温の低下が必要となる.そのため,白霜はわずかな風速による気温の上昇によっても発生しづらくなると考えられる.したがって,風が風速2.0ms-1以下とわずかでも強いと水霜が発生しやすく,凍霜害のリスクは小さくなることがわかった.そして,風が風速1.5ms-1以下と弱いほど白霜が発生しやすく,凍霜害のリスクは高まることがわかった.
 送風法による風速と湿度の変化と茶の品質の関係について,生産者がどのように認識しているのか,明らかにすることを目的にアンケート調査した.送風法は現在最も普及している防霜対策であるが,他の防霜対策と比較して送風法は「茶の品質が低下する」という回答がもっとも多く,送風法が茶の品質に影響を与えている可能性があることが生産者のなかである程度認識されていることがわかった.しかし「わからない」という回答も多かった.被害を最低限に抑えて収量を確保するために実施している現行の防霜対策では,生産者も品質への影響まで十分に把握できていないので,凍霜害のリスクを確実に下げつつ,高品質を維持できる防霜対策が求められる.
 50年前に比べて都市部では,ヒートアイランド現象による気温の上昇によって,大都市ほど霜が発生しづらくなった.また,雲量の多い地点では,霜雪の初終日の逆転も起きており,霜は雪よりも発生しづらくなった.さらに,ヒートアイランド現象は霜の形態にも影響を与えていることもわかった.初霜日・終霜日の発生時期が真冬寄りに移動することで初霜日・終霜日の水蒸気圧が低下した結果,初霜日・終霜日に農作物の被害が大きくなる白霜が発生する確率が,東京では100年前に比べて初霜日が20%・終霜日が30%上昇した.このように,気象条件(風、降雨、雲量)の変化と大きな気候変動(温暖化とヒートアイランド現象)によって凍霜害リスクは変化した.適切な防霜対策を講じるためには,凍霜害リスクの変化を常に捉えていく必要がある.また,凍霜害のリスクを下げることに加えて,農作物の品質を考慮した防霜対策を実施できれば,作物の価値の向上が期待できる.そのためには,凍霜害リスクの変化を多面的に研究していく必要がある.

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