農業用灌漑池を活用したニッポンバラタナゴの保全
概要
ニッポンバラタナゴRhodeus ocellatus kurumeusは,コイ目コイ科タナゴ亜科バラタナゴ属に分類される日本固有亜種であり,現在では大阪府,奈良県及び香川県,九州の一部の水系にしか生息しない。かつて瀬戸内平野では広く見られたが,別亜種であるタイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatusとの競合ならびに交雑,浚渫・コンクリート護岸への形状変更などの生息地の改変,ため池改修,ブラックバス・ブルーギルの移入魚による捕食により,瀬戸内地方では,大阪府と香川県,岡山県の山麓部などのわずかなため池で見られるのみとなった(河村,2003)。外部形態が酷似しているタイリクバラタナゴとの判別は,腹ビレの前縁,側線鱗である程度可能である。タイリクバラタナゴは腹ビレ前縁に白線が見られるのに対し,ニッポンバラタナゴでは白線が見られない。
ニッポンバラタナゴは,生きたドブガイのえらの中へ産卵し,卵と仔魚期はドブガイによって保護される。一方ドブガイは幼生(グロキディウム)時期にヨシノボリなどの底生魚のヒレやえらに寄生することで繁殖できる。したがって,ニッポンバラタナゴを保護するためには,産卵母貝となるドブガイやグロキディウムの宿主となるヨシノボリ類が繁殖できる水環境の保全が求められる。
香川県レッドデータブック(2004)で,ニッポンバラタナゴは絶滅危惧種ⅠA類に指定された。これまでニッポンバラタナゴの分布池,その遺伝的形質,減少した原因などが調べられてきた。その結果,オオクチバスやブルーギルの違法放流による移入の可能性が高く,本種を絶滅させる要因が多い,保全するべき個体群が認められている。
本研究では農業用灌漑池を保全池として活用した各池における生物相,並びに再生産の状況を記録することを目的とする。2003年から香川淡水魚研究会により農業用灌漑池にて保全が図られているニッポンバラタナゴについて調査を行った。