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大学・研究所にある論文を検索できる 「岩手県種市産後期白亜紀珪化木郡の系統分類及び古環境の推定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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岩手県種市産後期白亜紀珪化木郡の系統分類及び古環境の推定

平岡 克翔 中央大学

2022.09.22

概要

【緒言】
白亜紀(1億4500万年前~6500万年前)は、全体として裸子植物が多様化と繁栄をつづけた時代であるが、最初期までに出現した被子植物が急速に多様化して分布を拡大し、現在の陸上生態系の基盤が形成された地球生物史における変革期である。当時の日本は、多様なシダ植物や裸子植物が優占していたと考えられており、古花粉分析から湿潤な気候であったと推測されている(梅津2008)。さらに、前期白亜紀バレミアン世以降は被子植物が侵入し、急速に植物相と地域植生が変化した(西田とルグラン2017)。各地域の植生を化石資料に基づいて明らかにすることは日本列島に現在見られる植物相と多様な植生の起源を解明するために重要である。

材化石は、木本植物の茎や枝が保存されたもので、特に種子植物の材は物理的に強固で保存されやすい二次木部が主体で、世界的に豊富に産出する。二次木部には、樹木の成長過程が記録されており、その特徴から植物が生育していた古環境を読み取ることが期待できる(Falcon2005)。中でも成長輪の有無やその特徴は、古環境の解明に有用であるが、日本の白亜紀材についてはわずかな例があるのみであった(高橋と鈴木2003)。

日本の白亜紀植物化石は、北海道、岩手県、千葉県、兵庫県などから花粉、印象化石、鉱化化石など様々な保存形態のものが産出する(e.g.,三木1971,1972;梅津,他2007)。材化石も各地から産出するが、なかでも岩手県東部に分布する後期白亜紀種市層には、国内有数の白亜系材化石の産出地であり、種市層から珪化木が大量に埋蔵されている(Nishidaetal.1993)。

上部白亜系種市層(層厚135m)は、岩手県九戸郡洋野町付近に分布し、岩相に基づいて下部、中部、上部に区分されており、下位から順に、種市層から10km南に分布する久慈層群の玉川、国丹、沢山層に対比される(長浜と照井1992)。岩手県洋野町八木大浜沖の海底には、種市層中部の化石林の存在が報告されており、海岸から打ち上げられた転石として材化石が採集できる。この材化石群から木生シダのTempskyaの根茎や針葉樹材及び被子植物の材が報告されている(Nishida1986,2001;Nishidaetal.1993;舟山修論2015)。産出層は、久慈層群国丹層(後期白亜紀サントニアン期)と対比される。

本研究では、岩手県洋野町の種市層から産出した後期白亜紀サントニアン期の材化石の比較解剖と分類学的検討を行うとともに、当時の森林組成復元と、材の形態形質に基づく当時の古環境推定を試みた。

【試料・方法】
岩手県九戸郡洋野町八木大浜(40°23’N,141°43’E)で2014年,2015年に西田、杉山らが採集した珪化木300点及び、2018年に西田、平岡らが新たに採集した試料120点のうち保存良好な54点を研究に用いた。化石は、横断面のピール標本を作製し、一部は岩石薄片標本とし、その作成を林岩石鉱物特殊技術研究所に依頼した。標本は、双眼実体顕微鏡及び光学顕微鏡で観察と撮影を行うとともに成長輪幅などを計測した。

【結果】
2018年に採集した材のうち、薄片標本26点、及び舟山(2015)が用いたピール標本28点、Nishidaetal.(1993)が記載したピール標本10点の合計64点を同定または再同定した。標本はすべて針葉樹でヒノキ科Taxodioxylon2種11点、Oguraxylon3点、マツ科Piceoxylon2種6点、マキ科Podocarpoxylon2種21点、イチイ科Cephalotaxustype20点、Taxaceoxylon2点であった。

イチイ科のCephalotaxustypeやTaxaceoxylon、科不明のOguraxylonといった螺旋肥厚を持つ針葉樹材化石が、種市層産の珪化木から初めて確認された。また、それぞれの材化石の成長輪界を確認したところ不明瞭または欠如している材が約62%であった。

【考察】
これまでに種市層産針葉樹材化石としては、マツ科のPiceoxylon、ナンヨウスギ科のAgathoxylon、イチイ科のTaxaceoxylon、マキ科のPodocarpoxylon、ヒノキ科のTaxodioxylon、科不明のOguraxylonが知られていた。本研究で新たにイチイ科のTaxaceoxylonとCephalotaxustypeが確認された。同時代の北日本産出材化石と比較すると、種市層ではマキ科、イチイ科の比率が多く、その大部分で成長輪界が不明瞭であった。一方、北海道やサハリンではマツ科やスギ科が多産しマキ科、イチイ科はほとんど確認されていない。後期白亜紀の種市地域の植生は、北方の植生に比べ多様性に富んでいた可能性がある。一方で、本研究では発見できなかった被子植物材は全体として低比率で、未だ分布拡大の途上であったことが示唆される。

後期白亜紀の気温は現在に比べ温暖だったと推測されている(Takashimaetal.2006)。Wheeler&Baas(1991,1993)は、明瞭な成長輪界が存在する双子葉類の比率が、現在や第三紀のものに比べ白亜紀では、はるかに低いことを見出した。Poole(2000)はこの現象が、白亜紀が後の時代よりも気温が高かったことを反映している可能性があることを示唆している。北海道産の針葉樹材は明瞭な成長輪界を示すことから、温暖とされる後期白亜紀においても、北方では明瞭な季節変化の存在が示唆された(高橋と鈴木2005)。より南方に位置する種市層の堆積地域では成長輪界が不明瞭なものが多い。明瞭な成長輪界がある材の中にも成長輪幅が一定でなく、成長比に4倍以上の差が認められる部分が確認された。幅が特に広い成長輪の途中には、通常の晩材が存在し、少なくとも4回偽年輪のような構造を形成していた。不明瞭な成長輪界が多く見られることから、種市地域では年間を通じて温暖湿潤な気候が支配したと考えられるが、時に弱い成長阻害が起きることがあったとみられる。この成長阻害の原因としては、極端に小型の仮道管が見られることから不定期の乾燥などが考えられる。採集された全被子植物材も同様に成長輪界が不明瞭または欠如しており、水条件の良い生育環境が考えられ。また、針葉樹では成長輪界が明瞭なものが存在するため、被子植物に比べ内陸や屋根筋など乾燥や温度変化の影響を受けやすい生態が考えられる。

【結論】
本研究により種市層の材化石植物で新たにイチイ科が確認された。後期白亜紀の北日本と比較すると種市地域は、マキ科、イチイ科など北海道やサハリンではほとんど報告がない材化石を多産し、北日本の中でも針葉樹の多様性が高い植生であったと推測した。また、構成樹木の生育環境は、全体として温暖湿潤であるが、時に乾燥の影響を受けた可能性がある。

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