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大学・研究所にある論文を検索できる 「物体位置認識記憶に相関する海馬および脳梁膨大後部皮質の神経活動の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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物体位置認識記憶に相関する海馬および脳梁膨大後部皮質の神経活動の解析

岩嵜, 諭嗣 東京大学 DOI:10.15083/0002002516

2021.10.15

概要

動物は、環境内の物体やその位置について学習することで環境に適応している。なかでも、「どこに」「何があるか」という物体の位置に関する物体位置認識記憶は、脳の重要な機能であるエピソード記憶や空間ナビゲーションを支える要素の一つである。物体位置認識記憶を担う脳領域として、海馬や脳梁膨大後部皮質 (RSC: Retrosplenial cortex) が示唆されている。実際に、海馬や RSC の損傷患者や動物モデルでは、物体位置に関する記憶能力が低下している。しかしながら、これまで物体位置認識記憶の神経基盤に関する研究は、領域全体の損傷実験やfMRI (核磁気共鳴画像法) を用いた脳血流量変化の観察にとどまっており、個々の神経細胞が物体位置認識記憶の過程においてどのような活動をしているのかは知られていない。そこで本研究では、神経活動の電気生理学的記録が可能な齧歯目を用いて、物体位置認識記憶に相関する海馬および RSC の神経活動を見出すことを目的とした。

物体位置認識記憶の神経基盤を解析するにあたり、本研究では細胞集団の同期的な神経活動を反映する局所場電位 (LFP; local field potential) に着目した。LFP は記憶をはじめとする様々な脳機能に相関した活動を示すことが知られており、シータ波 (6-9 Hz) は走行時やレム睡眠時に主に発生し、記憶の獲得に関わっていることが知られている。また、ガンマ波 (60-90 Hz) は知覚や注意などの高次認知機能に相関した活動を示す。さらに、海馬において睡眠時や無動覚醒時に生じる sharp-wave ripple (SWR; 150-250 Hz) は記憶の固定化に関わることが知られている。

そこで本研究では、マウス海馬および RSC からの同時記録が可能な電極セットを独自に設計し、物体位置学習課題を遂行中の海馬および RSC の LFP を記録した。物体位置学習課題は、同一の物体が 2 箇所に置かれた環境中をマウスに探索させることで、物体とその位置の関係性について学習させる行動課題である。物体への探索行動の前後での LFP を解析した結果、マウスが物体に近づいて探索行動を行う直前に、海馬において局所場電位のベータ帯域 (23–30 Hz) 強度が一過的な増大する、ベータ振動が発生することを見出した。過去の報告から、海馬のベータ波は環境や物体に対する新奇性に応答して生じることが示唆されているが、海馬ベータ波に関する報告はシータ波やガンマ波、SWR と比較して乏しい。そこで本研究では、このベータ波に特に着目して、その詳しい性質および記憶との相関に迫った。

次に、物体探索に伴うベータ振動の時間変化に着目して解析した。探索イベントの開始タイミングに基づいて個々の探索イベントを分類すると、セッション開始 1 分後から 2 分後に起こった探索イベントにおいてベータ強度が最も高く、それから時間経過に伴って減弱していくことがわかった。したがって、物体探索直前に生じるベータ振動は、物体の新奇性やマウスの物体に対する興味を反映していることが示唆された。

次に、RSC の LFP においても同様に物体探索直前でのベータ強度を解析した。すると、海馬だけでなく RSC においても物体探索直前にベータ強度が増大することが明らかとなった。そこで次に、探索直前の海馬-RSC 間のベータ帯域コヒーレンスについて解析すると、探索直前には海馬および RSC のベータ帯域コヒーレンスも増大することが明らかとなった。以上の結果から、物体探索直前には海馬および RSC それぞれの領域においてベータ強度が増大するほか、双方のベータ波が協調的な活動を示すようになることが明らかとなった。

次に、ベータ振動を支える発火活動について解析した。ベータ波の位相に依存した個々の神経細胞の発火タイミングを調べると、海馬 CA1 野において、個々の神経細胞の発火タイミングはベータ波の直後に有意な偏りが見られた。一方、RSC においては有意な偏りは見られなかった。以上の結果から、これまで見られたベータ振動は海馬の細胞集団の同期的な発火活動を反映していることが示唆された。

最後に、行動課題の成績とベータ振動の関係性を検証した。行動課題の成績に基づいて好成績のセッションと低成績のセッションに分類すると、好成績のセッションでは学習時に有意に強い海馬ベータ振動を示すことが明らかとなった。この結果から、海馬における局所的なベータ振動が、物体の位置に関する記憶の獲得を促進していることが示唆された。

本研究では、自由行動下マウス海馬および RSC から神経活動を同時記録し、物体位置認識記憶に相関する海馬および RSC の神経活動を解析した。その結果、物体位置に関する記憶の学習時には、従来記憶との関わりが広く知られてきたシータ波ではなく、ベータ波の強度が増大することを見出した。さらに、このベータ波は学習時の探索時により増大したうえ、学習成績の優れた群においてより大きな強度変化が見られた。これらの結果から、海馬における局所的なベータ振動は、物体の位置に関する記憶の獲得を促進していると考えられる。

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