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書き出し

姉妹関係にある外来種と固有種の可塑的・遺伝的形質の種間比較による侵略機構の解明

中野(小西), 繭 信州大学

2021.03.01

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

元 年

6 月 24 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(C)(一般)
研究期間: 2015 ∼ 2018
課題番号: 15K00565
研究課題名(和文)姉妹関係にある外来種と固有種の可塑的・遺伝的形質の種間比較による侵略機構の解明

研究課題名(英文)Elucidation of aggression mechanism focusing on interspecies differences in
plasticity and genetic traits of sister species of alien species and endemic
species
研究代表者
中野 繭(小西)(Nakano, Mayu)
信州大学・理学部・日本学術振興会特別研究員

研究者番号:00432170
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

3,700,000 円

研究成果の概要(和文):本研究の種間比較の結果は、いずれも東日本全域で起きているシナイモツゴからモツ
ゴへの種の置換を支持した。すなわち、1)モツゴはシナイモツゴが利用しない産卵基質をも利用して着実に子
孫を増やすこと、2)スニーキングという代替戦略はシナイモツゴよりもモツゴで起こりやすく、シナイモツゴ
はモツゴからの一方的な繁殖干渉を受けること、3)モツゴはシナイモツゴよりも流水環境における遊泳能力が
優れており、かつ、シナイモツゴはモツゴよりも止水環境に適応していること、および、4)モツゴは国内外の
系統に由来する個体による著しい遺伝的撹乱を受けており、一方、シナイモツゴの遺伝的多様性は極めて低いこ
と、が強く示唆された。
研究成果の学術的意義や社会的意義
種の置き換わりが、在来種のみならず、在来生態系を構成する様々な生物に影響を及ぼす可能性についてはあま
り言及されることはない。ニッチの類似性は置き換わりを促す重要な要因の一つと考えられるが、種間比較によ
って浮き彫りになる種間差もまた急速な定着を可能とさせる要因となりうる。今後は、侵入した種が在来種の役
割を包括的に代替するわけではなく、在来生態系を改変しながら分布拡大していることも念頭に起きながら、希
少種シナイモツゴの保全や外来種モツゴの防除といった生物多様性の保全の研究に取り組む必要があると考えら
れる。
研究成果の概要(英文):The results of interspecies comparison obtained in this study supported the
replacement of species from Pseudorasbora pumila to P. parva, which occur in all eastern Japan. It
has been strongly suggested that 1) P. parva steadily increase the number of offspring by using the
spawning substrate which is not used by P. pumila, and 2) sneaking as alternative tactics is more
likely to occur in P. parva than P. pumila, and P. pumila is one-sided reproductive interference
from P. parva, 3) P. parva has better swimming ability in running water environment than P. pumila,
and P. pumila would adapt to standing water environment more than P. parva, and 4) P. parva is
suffered significant genetic assimilation between domestic and foreign strains, and the genetic
diversity of P. pumila has been extremely low.

研究分野: 保全生態学
キーワード: 淡水魚 種間競争 代替繁殖戦術 遊泳能力 止水適応 遺伝的撹乱 モツゴ属魚類



式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)

1.研究開始当初の背景
進化的背景を無視した生き物の運搬が頻繁に行われるようになり、種が置き換わる現象は
我々の身近なところで頻繁に起きている。
ある生物が同じ栄養段階の生物と置き換わる現象は、
古くは Darwin(1859)の『種の起源』にも登場する。 種の置換は、似たような種がただ単に
置き換わるだけの現象ではなく、人為的介入によって、在来種が絶滅し、外来種が蔓延する現
象である。種の置換メカニズムの解明は、外来種の防除と在来生態系の保全のために有用な情
報を提供するに違いない。
共通の資源を利用する特性を有する 2 種が接触すると競争が起こり、その勝敗は種間差とい
う相違点によって普遍的に決定されるため、一方向への置き換わりが生じる。しかし、その種
間差が必ずしも種間競争の直接的な要因でなくとも、種の置き換わりを促す重要なメカニズム
となり得る。しかし、直接的・間接的な種間競争、ならびに、外因的・内因的要因を識別する
ことはとても難解な作業である。
モツゴ属魚類は、東アジア原産の小型コイ科魚類であり、モツゴ Pseudorasbora parva は中
国大陸と西日本に分布し、シナイモツゴ P. pumila は東日本のみに分布する日本固有種である。
両種は自然環境下で交雑するほど近縁である。モツゴはコイ等の種苗に混入し、わずか数十年
のうちに国内外来種として日本全国に定着した。また欧州を中心に国際的にも警戒される侵略
的外来種となっている。一方、シナイモツゴは絶滅危惧 IA に指定されており、シナイモツゴ
個体群にモツゴが侵入するとわずか数年でモツゴのみの個体群に置き換わることが観察されて
いる。なぜ姉妹種シナイモツゴの生息する東日本において、モツゴは速やかに分布拡大するこ
とができたのだろうか。
2.研究の目的
種の置換の過程で、モツゴがシナイモツゴのペアに割り
込み放精(スニーキング)し、交雑が生じるが、その逆方
向の交雑は起こらないことが分子行動学的実験により示唆
されている(小西・高田、2013)
。また、2 種を比較すると、
モツゴには攪乱環境に適したパイオニア r 戦略種、シナイ
には安定した止水環境に局所適応した K 戦略種の特徴が浮
かび上がる(図 1)
。本研究では、
(1)モツゴにあってシナ
イモツゴにない可塑的な繁殖戦略(スニーキング行動)の
生理学的検証、
(2)シナイモツゴの止水適応に関する行動
学的検証、
(3)遺伝的多様性の種間比較によって、シナイ
モツゴからモツゴへの種の置換を誘起する種間差を明らか
にすることを試みた。

図 1 モツゴとシナイモツゴの形質比較

3.研究の方法
(1)水槽実験による繁殖オスの縄張り行動の観察、生殖腺投資量(GSI)の測定、および、精
子観察を行い、種間で比較した。仮説「スニーキング戦略を有するモツゴは、スニーキング戦
略を有さないシナイモツゴと比較して精子競争が激しい」を検証した(小山、2018)

(2)モツゴとシナイモツゴの低酸素耐性と遊泳能力を比較した。低酸素実験では、供試魚を
投入した小型水槽の水面をラップで覆い、鼻あげが観察された時点での水の溶存酸素量を測定
した。遊泳行動実験では、1)楕円形の卓上水流装置(流速一定)を用いた遊泳行動の観察、2)
密閉式回流水槽を用いた臨界遊泳速度(Ucrit)
、酸素消費量(MO2)
、尾鰭の振動数・振幅の測
定、3)遊泳能力に影響すると考えられる鰭と体型の形態解析を行った(三村、2017、2019)

(3)長野県、および、奈良県の 11 地点から採集されたモツゴ 176 個体、ならびに長野県、お
よび、新潟県の 16 地点から採集されたシナイモツゴ 128 個体を用いて、mtDNA の cytb 遺伝
子の PCRーRFLP 解析、および、マイクロサテライト DNA 解析(モツゴ:15 座、シナイモ
ツゴ:17 座)を行った(一ノ瀬、2016;佐藤、2019)

4.研究成果
(1)オスの繁殖戦略の種間比較
水槽実験の結果、モツゴ(N = 9)は縄張り基質の全体を幅広く利用したのに対し、シナイモ
ツゴ(N = 6)は基質の低位置を集中的に利用しており、モツゴはシナイモツゴと比較して、
潜在的ななわばり形成場所が広いことが示唆された。
生殖腺投資の指標である GSI の測定の結果、モツゴ(2個体群)においてのみ小型雄の GSI
が中∼大型雄より非常に高いというスニーカーに特徴的な生殖腺投資戦略が認められた。さら
に、モツゴ(N = 15、平均 582×10⁴個/µL)はシナイモツゴ(N = 4、121×10⁴
個/µL)よりも
精子濃度が有意に高いことが明らかになった。精子運動時間に有意な種間差は認められなかっ
た。
(2)低酸素耐性と遊泳能力の種間比較

低酸素実験の結果、鼻あげ時の水の溶存酸素量は、シナイモツゴ(N = 7)とモツゴ(N = 38)
の間に有意な差は認められず、シナイモツゴにおける低酸素耐性は検出されなかった。
卓上水流装置を用いた遊泳実験では、シナイモツゴ(N = 38)は定位置で泳ぐ傾向がみられ
た一方で、モツゴ(N = 24)は上下流両方向に頻繁に、かつ長距離移動する行動が観察され、
2 種は流水に対する行動応答が異なることが明らかとなった。
密閉式回流水槽の行動実験の結果、シナイモツゴはモツゴと比較して Ucrit(モツゴ、シナ
イ: 11.7、9.4 BL/s)
、MO2(1259、739 mg/kg/h)
、および、振動数(581,、431 回/分)が有意
に低く、振幅(7.8、13.2 %BL)が大きくなった。また形態解析の結果、モツゴはシナイモツ
ゴと比較して、尾柄が細く、胴体の前方が高く、三日月型に近い尾鰭を有しており、長時間遊
泳可能で巡航遊泳に好適な特徴を持つことが示された。さらにモツゴは、長い尾鰭と背鰭を持
ち、捕食者回避に有効な非定常遊泳に長ける特徴も有していた。
(3)遺伝的多様性の種間比較
mtDNA ハプロタイプ解析の結果、西日本系統、大陸系統、および、関東・東海系統の遺伝的
に異質な3系統が混合するモツゴ集団が検出された。一方、シナイモツゴは全地点を通して単
一ハプロタイプに固定している上、全2ハプロタイプしか検出されなかった。マイクロサテラ
イト解析の結果、モツゴの遺伝的多様性(アリル多様度 A :2.600〜7.533、ヘテロ接合度 He:
0.301〜0.601)はシナイモツゴ(A:1.000〜1.664、He:0.000〜0.239)よりも高く、シナイ
モツゴの多様性は極めて低かった。
(4)総合的考察
以上の結果より、シナイモツゴ個体群に侵入したモツゴは、スニーキングによってシナイモ
ツゴに繁殖干渉をしつつ、劣位雄であっても繁殖に参加でき、さらにシナイモツゴが利用しな
い産卵基質をも利用して着実に子孫を増やすことが出来ると考えられた。同時にシナイモツゴ
ではスニーキング戦略が起こりにくいことが支持された。また、モツゴはシナイモツゴよりも
流水環境における遊泳能力が優れており、シナイモツゴはモツゴよりも止水環境に適応してい
ることが強く示唆された。モツゴ集団は国内外に由来する個体によって遺伝的撹乱を受けてお
り、新規の遺伝的多様性を獲得していることが明らかとなった。以上の種間比較結果は、東日
本全域で起きているシナイモツゴからモツゴへの種の置き換わりを支持していた。
モツゴはシナイモツゴのニッチに侵入し、繁殖干渉を介しながら新天地において子孫を増や
し、急速に分布を拡大したものと予測される。また、シナイモツゴは閉鎖的な止水環境を好み、
生息地間の分断化の進んだ現代において、遺伝的多様性を喪失しやすい種特性を有しているの
かもしれない。
種が置き換わる現象において、それが在来生態系に及ぼす影響についてはほとんど言及され
ることはない。ニッチの類似性は置き換わりのきっかけとなりうるが、侵入した種が在来種の
役割を包括的に代替しているとは限らない。侵入先の生態系に新規の変化をもたらす可能性も
考慮しながら、希少種の保全や外来種の防除といった生物多様性の保全に取り組む必要がある
と考えられる。
<引用文献>
一ノ瀬有司、異なる起源を持つ個体の混合によるモツゴ個体群の遺伝的多様性への影響
信州大学理学部生物科学科生体生物学講座、学士学位論文、2016 年 3 月
小西繭,高田啓介、シナイモツゴからモツゴへー非対称な交雑と種の置き換わりー.
「見え
ない脅威"国内外来魚"ーどう守る地域の生物多様性」向井貴彦・淀太我監修・編
集.東海大学出版,pp51-65.2013 年 7 月
小山哲央、モツゴ Pseudorasbora parva とシナイモツゴ P. pumila における雄の繁殖戦略の
種間差による種の置換モデル、信州大学理学部生物科学科、学士学位論文、2018
年3月
三村詩織、モツゴとシナイモツゴの遊泳能力・低酸素耐性の比較、信州大学理学部生物科学
科、学士学位論文、2017 年 3 月
三村詩織、広域および局所分布を示すモツゴ属魚類2種にみられた遊泳能力の違い、信州大
学大学院総合理工学研究科理学専攻・理科学分野、修士学位論文、2019 年 3 月
佐藤孝昭、シナイモツゴ地域集団間における遺伝的多様性の比較、信州大学理学部理学科生
物学コース、学士学位論文、2019 年 3 月
5.主な発表論文等
〔学会発表〕
(計 4 件)
① 北原瑛斗、中野繭、高田啓介、シナイモツゴの MHC 遺伝子の多様性喪失はクリノストマム
感染の増加を引き起こすのか、日本生態学会第 66 回全国大会 (2019 年 3 月、神戸)
② 三村詩織、青木勇樹、鳥澤眞介、高田啓介、中野繭、広域および局所分布を示すモツゴ属
魚類2種にみられた遊泳能力の違い、日本生態学会第 66 回全国大会 (2019 年 3 月、神戸)
③ 北原瑛斗、中野繭、高田啓介、MHC 遺伝子の多様性の喪失は寄生虫感染を引き起こすか:
シナイモツゴのクリノストマム重度感染を例に、日本生態学会第 65 回全国大会 (2018 年

3 月、札幌)
④ 三村詩織、中野繭、高田啓介、生息地を拡大するモツゴと喪失するシナイモツゴの低酸素
耐性と水流耐性の比較、日本生態学会第 65 回全国大会 (2018 年 3 月、札幌)
〔その他〕
アウトリーチ
① 中野繭、里山の農業が絶滅危惧種を救う?!、H30 年度長野県学校農業クラブ連盟研修会、
長野県更級農業高等学校、2018 年 7 月
② 中野繭、
「生命をつなぐ∼シナイモツゴの研究から∼」
、長野市立信里小学校人権教育研
修会、2017 年 11 月
③ 中野繭、シナイモツゴ勉強会、信里地区子供プラザ、2017 年 7 月
④ 中野繭、
『信州学』里山再生の必要性と生物多様性の保全、長野県更級農業高校、2017
年1月
⑤ 小西繭、守ろう!地域の淡水魚〜シナイモツゴと共に生きるには〜、新潟市水族館マリ
ンピア日本海、新潟市、2015 年 10 月
⑥ 小西繭、里山の役割とその重要性についてーシナイモツゴを通じて考えるー、長野県更
級農業高等学校、2015 年 9 月
研究会
① 中野繭、それは本当に在来種?、
[水と光]の研究会、信州大学理学部、2018 年 6 月
② 中野繭、希少野生動物シナイモツゴ保全の取り組みと課題、信州自然講座、信州大学教
育学部、2017 年 12 月
③ 小西繭、シナイモツゴにおける吸虫類の感染拡大について、第 61 回信州生態研究会,
信州大学教育学部、2015 年 12 月
④ 小 西 繭 、 生 物 多 様性 の 主流 化 に 興 味 を 持 った 理 由、 ひ み ラ ボ 公 開 講座 , 氷見 市
2015 年 6 月
シンポジウム
① 小西繭、シナイモツゴ保全の現状と課題・全国の生息実態と課題 :繁栄と衰退の歴史
に学ぶ保全の方向性、シナイモツゴ発見 100 周年・大崎市政 10 周年記念共同シンポジ
ウム、大崎市、2016 年 11 月
② 小西繭、シナイモツゴはなぜ希少種になったのか―わずかな種間差が引き起こす絶滅の
メカニズム―、日本環境動物昆虫学会 市民公開シンポジウム、信州大学繊維学部、2016
年 11 月
③ 小西繭、北野聡、尾関雅章、高田啓介、長野県におけるシナイモツゴの保護、水辺の自
然再生共同シンポジウム,東京環境工科専門学校、2015 年 10 月
6.研究組織

※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等に
ついては、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。 ...

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