機能性高分子合成を指向した遷移金属錯体触媒の開発
概要
令和 4 年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
機能性高分子合成を指向した遷移金属錯体触媒の開発
Development of Transition Metal Catalysts for Synthesis of Functional Polymers
相模中央化学研究所
脇岡 正幸
研究成果概要
ポ リ (3- ヘ キ シ ル チ オ フ ェ ン )(P3HT) に 代 表 さ れ る ポ リ (3- ア ル キ ル チ オ フ ェ
ン)(P3AT)は、高い電荷移動度とさまざまな有機溶媒に対して高い溶解性を示すことか
ら、次世代有機電子デバイスの半導体材料として大きな注目を集めている。P3AT の特
性は、チオフェン骨格の頭尾(HT)規則性に強く依存し、一般的に頭尾規則性が高いほ
ど優れた特性を示すことが知られている。また、P3AT の分子量については、最適値が
デバイスによって異なることが報告されている。これまで、頭尾規則性と分子量を制御
した P3AT の合成は、ニッケル触媒を用いたクロスカップリングを基盤とする重縮合に
より合成されてきた。しかし、モノマーとして有機金属試薬を用いるため、官能基許容
性や原子効率の点で問題を残している。本研究では、有機金属試薬が不要な直接的アリ
ール化重合(DArP)により、頭尾規則性 P3AT の分子量を制御する手法を開発した。
分子量制御の鍵は、直接的アリール化に対して高い反応性を有する 2-フェニルチアゾ
ール(2)を末端修飾剤として使用することにある(下図)。2-ブロモ-3-ヘキシルチオフェ
ン(1)を 2 ([1]0/[2]0 = 10–80)、Herrmann 触媒、P(2-Me2NC6H4)3(L1)の存在下で反応させ
ると、
2-フェニルチアゾール-5-イル基で末端が修飾された頭尾規則性 P3HT(P3HT-2; HT
= 99%)が得られた。生成ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1 と 2 の仕込み比に応じて直
線的に増加し、1 分子の 2 から 1 分子のポリマー鎖が形成すると仮定した計算値とよく
一致した(下図)。すなわち、1 と 2 の仕込み比を変えることにより、P3HT の分子量を
制御できることがわかった。さらに、2 を末端修飾剤として用いる DArP により、ポリ
(3-ブチルチオフェン)やポリ(3-オクチルチオフェン)などの P3AT についても分子量を制
御できることがわかった。
20000
C6H13
N
H
S
1
Br + H
S
2
[1]0/[2]0 = 10–80
C6H13
H
S
S
n
P3HT-2
Ph
N
Ph
Herrmann cat. (1 mol%)
L1 (2 mol%)
: MnGPC
: MnNMR
15000
Cs2CO3 (1 equiv)
NaOAc (0.5 equiv)
THF, 125 °C, 48 h
Mn 10000
(Ar = o-tolyl) Me
Ar2
P
O O
Pd
2
Herrmann catalyst
Calcd
5000
P
3
Me2N
L1
0
0
20
40
60
[1]0/[2]0
80
100
発表論文(謝辞なし)
Wakioka, M.; Xu, K.; Taketani, T.; Ozawa, F. Polym. J. 2023, in press (DOI:
10.1038/s41428-022-00707-y). ...