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大学・研究所にある論文を検索できる 「ワルファリン内服患者のための低ビタミンK含有納豆の開発と臨床試験」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ワルファリン内服患者のための低ビタミンK含有納豆の開発と臨床試験

中嶋, 智美 筑波大学

2022.11.16

概要

目的:
 ワルファリンはビタミンK代謝に拮抗し、ビタミンK依存凝固因子の合成を阻害する経口抗凝固薬である。納豆は水溶性ビタミンK2を600-1000µg/100gと多量に含有しており、その主体はメナキノン-7(MK-7)である。150µg/日以上のビタミンK摂取はワルファリンの抗凝固効果に影響を及ぼす可能性が示されており、ワルファリンによる抗凝固療法中の患者は納豆の摂取が禁止されている。ワルファリン服用患者でも安全に摂取可能な低MK-7納豆を開発すること、および低MK-7納豆の安全性やワルファリン服用患者における許容量を確認することを目的とした。

対象と方法:
 市販の納豆に使われている納豆菌、Bacillus subtilis (natto) strain TTCC904-2を親株とし、紫外線に暴露し、従来の納豆菌の約44-62%のMK-7を含有するBacillussubtilis(natto)strainTTCC2051(低MK-7納豆菌)を同定した。発酵時間を従来の2/3へと短縮し、発酵前に煮豆にグルタミン酸を添加することで、納豆らしい糸引きと独特の風味を得られるようにした。外観、香り、風味、食感、糸引きの5項目の官能評価を行い、糸引きについては粘度の定量評価も行った。
 開発した低MK-7納豆を用いて健康ボランティアを対象とした摂食試験を行い、低MK-7納豆と通常納豆の摂取が血清MK-7値に与える影響を確認した。20歳から59歳までの健康なボランティア10名を対象とし、SampleL-10g(低MK-7納豆10g、MK-7=27µg/10g/日)、SampleS-10g(通常納豆10g、MK-7=119µg/10g/日)、SampleS-50g(通常納豆50g、MK-7=595µg/50g/日)の7日間連続摂食試験を行い、その前後で血清MK-7値、血清メナキノン-4(MK-4)値、血清ビタミンK1(PK)値を測定した。これらの測定は高性能液体クロマトグラフィーを用いて行った。定量限界はそれぞれ1.0ng/mL、0.06ng/mLおよび0.06ng/mLであり、それ未満の値は参考値として取り扱った。
 ボランティアを対象とした摂食試験の結果を用いて、ワルファリン服用患者に対する低MK-7納豆の安全性の確認および許容摂取量の検討のための臨床試験を計画した。20歳から69歳、かつ、臨床ガイドラインに基づき、必須とされていない理由でワルファリンを服用している患者10名を対象とし、SampleL-10g(低MK-7納豆10g、MK-7=22-23µg/10g/日)を7日間連続摂取した前後で血清MK-7値、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)を測定した。SampleL-10gの摂食試験後、安全性が確認され、試験継続が許可された者に対して、SampleL-20g(低MK-7納豆20g、MK-7=44-46µg/20g/日)を用いてさらに7日間の連続摂食試験を行い、同様に血清MK-7値、PT-INR値を測定した。

結果:
 低MK-7納豆菌を用いて作成した納豆は通常の納豆と比較して糸引きの粘度が低値であったが、短時間発酵であってもグルタミン酸を添加することにより粘度は倍増した。作成した低MK-7納豆は通常の納豆の19-24%に相当する220µg/100gまでMK-7含有量を低減した上で、官能評価や糸引きについても一定の満足が得られる評価となった。
 健康ボランティアを対象とした摂食試験には39.3±11.8歳の10名が参加し、うち5名が女性(50%)であった。通常納豆のSampleS-10gとSampleS-50gの摂取後の血清MK-7値は、参考値も含めてそれぞれ3.0±1.3ng/mLと13.7±5.9ng/mLであり、低MK-7納豆のSampleL-10g摂取後は1.5±0.7ng/mLとより低値を示していた。血性MK-4値はSampleS-10gを摂取した1例を除いて全例定量限界未満であり、血性PK値はSampleL-10g、SampleS-10g、いずれの摂取でも有意な変化を認めなかった。
 ワルファリン服用患者を対象とした臨床試験には35.2±13.6歳(20-54歳)10名が参加し、うち4名が女性(40%)であった。SampleL-10gの7日間の納豆摂取後、血清MK-7値が定量限界以上となったものは2例(1.6,2.7ng/mL)であり、PT-INRは摂取前1.72±0.33から摂取後1.61±0.32(p=0.46)と有意な変化を認めなかった。全10名が参加したSampleL-20gの試験では、摂取後に血清MK-7値が定量限界以上となったものは2例(1.3,1.7ng/mL)であり、PT-INRは摂取前1.52±0.34から摂取後1.44±0.28(p=0.59)と有意な変化を認めなかった。

考察:
 我々は納豆摂取が日常生活において大切な意味をもつ日本のワルファリン服用患者へ向けて、初めて低MK-7納豆を開発し、試験を行い報告することに成功した。治療中の食事制限にあたっては、代用食品や模造食品が推奨されることも多いが、納豆はその特徴的な風味と食感のため、容易に模造することができない。
 安全性の担保は最も重要な課題である。我々の低MK-7納豆のMK-7含有量は10gあたり22-27µg、20gあたり44-54µgである。これはゆでたブロッコリー10gや油で炒めたほうれん草10gと同等のビタミンK含有量であり、ワルファリン服用患者のビタミンK摂取許容量の150µg/日以下である。臨床試験の結果から、MK-7はおよそ44µg/日、7日間の連続摂取までであれば安全であることがわかった。PT-INRが短縮しなかったこと、他の食品の影響がないことから、この新開発の納豆は日常の食事に安全に追加することが可能であると考えられる。
 この納豆が広く受け入れられるために重要な2つ目の点は、納豆の独特な品質、とりわけ風味や食感を可能な限り維持することである。うまみや納豆に特徴的な糸引きを維持しながらMK-7含有量を減らすことは極めて難しい。風味や食感の点ではまだ改善の余地はあるものの、MK-7含有量を低値に保ちながら許容可能な糸引きと官能性を生み出すことができた。

結論:
 低MK-7納豆は1日1回最大20gの摂取であれば、PT-INR値に有意な変化をもたらすことなく、ワルファリン服用患者でも安全に摂取できる。長期の安全性や1日最大摂取許容量の確認のためにさらなる研究が必要ではあるが、納豆という文化的にも重要な食品に触れる機会が得られることで、ワルファリン服用患者の生活の質向上がもたらされるものと考える。

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