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大学・研究所にある論文を検索できる 「分光イメージング装置を用いた歯肉の光学特性の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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分光イメージング装置を用いた歯肉の光学特性の解析

田宮, 紳吾 大阪大学

2022.03.24

概要

【緒言】
 歯冠補綴装置は,機能的であるだけでなく,隣接歯や歯肉の色調と調和していることが重要であり,天然歯に近似した光透過性,色調を有していることが必要である.さらに,より高度な審美歯科治療として,歯肉縁の左右対称性といった形態的改善に加え,歯周組織に対しても,光透過性や色調を考慮した治療が求められようになっている.これまで,歯肉の審美性については,単独インプラント補綴歯の周囲の歯肉に対し,Pink Esthetic Scoreとして歯間乳頭,辺縁歯肉の位置や形態,歯槽隆起および軟組織の色と質感で評価されているが,その評価は主観的である.一方,皮膚の健康に関し,「皮膚の透明感」は「入射光に対する透過光の比率」として定義されており,歯肉の質的評価に関しても,光学特性として評価することは有用であると考えられる.しかし,生体から歯肉を切除して計測した場合,血流や色調が失われ,歯肉本来の光学特性が計測できないといった問題が生じる.そこで,本研究では,空間分解分光法および,分光イメージング装置に着目した.本装置を用いることで,画像内の任意の領域における光学特性を,非侵襲かつ非接触で計測することが可能である.本研究では,分光イメージング装置を応用した試作の歯肉用光学特性計測装置の妥当性の検証,および,歯肉における光の反射および透過散乱を非侵襲的に計測し,算出した吸収係数および散乱係数を用いて,歯肉の光学的特徴を定量的に評価することを目的とした.

【材料と方法】
実験1:分光イメージング装置を用いた歯肉用光学特性計測装置の妥当性の検証
 計測には,本研究に利用できるように新たに試作した,分光イメージング装置を応用した歯肉用光学特性計測装置(オフィス・カラーサイエンス,以下試作装置)を用いた.試作装置は,分光イメージング装置,透過散乱計測用光源として光ファイバー製ライトガイド,および反射計測用光源として人工太陽照明灯を装備している.本実験では,反射計測および透過散乱計測に対する試作装置の妥当性を検証した.試料には歯肉の色調や透過性を考慮し,シリコーン系軟質裏装材ソフリライナースーパーソフト(トクヤマデンタル,以下SOF),シリコーン系ガム用模型材Esthetic Mask (Detax,以下EST),シリコーン系印象材エクザミックスファイン(ジーシー,以下EXA)を用い,50x50x3mmの板状試料を作製した.反射計測では,SOF,EST,EXAに対し人工太陽照明灯を45度で照射し,分光反射率を計測した.透過散乱計測では,ライトガイドの先端をSOF,EST表面に垂直に密着させた状態で照射し,試料内部での透過散乱光の分光放射輝度率を計測した.比較対象として分光測色計CM-36dG(コニカミノルタ)を用いて分光反射率および分光透過率を計測し,各試料における両装置の計測結果を比較した.

実験2:歯肉の光学特性の解析
実験2-1:反射光および透過散乱光の計測
 本実験は,大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:R2-E30).計測対象者として,喫煙歴や上顎前歯部の補綴歯科治療歴,軟組織に対する歯科的治療歴がない健康な男性15人(平均年齢25.1土4.2歳),女性15人(平均25.2士5.3歳)を選定した.計測中に対象者が動かないよう,水平位にて前後頭部,顎の三点を固定し,ソフト開口器で口唇を排除して計測を行った.反射計測時の光学幾何条件は実験1と同じ45度照射とし,参照白色校正板でのキャリブレーションを行った後,上顎左右側中切歯がCCD画像センサーの中心となるように装置を設置し,完全暗室下で3分間反射計測を行った.分光画像解析専用ソフトウェァImage View(オフィス・カラーサイエンス)を用いて,上顎右側中切歯歯肉の歯頸部,中央部,および根尖部の分光反射率およびL*a*b*値を算出し,領域別に男女間のL*a*b*値の差についてt検定を行った.加えて,計測領域の違いによる歯肉の分光反射率を比較するため,男女それぞれ420nm〜700nmの10nm毎の分光反射率に関して,一元配置分散分析およびBonferroni法を用いた多重比較検定を行った.有意水準は5%とした.透過散乱計測は,積分球によるCCD画像センサーのキャリブレーションを行った後,対象者の上顎左側中切歯の歯肉縁より3mm根尖側にライトガイドの先端を密着させ,完全暗室下で3分間計測した.Image Viewを用いて,分光画像上で,ライトガイド固定用ジグの端から10mmの線を引き,線上の分光情報をもとに分光放射輝度率を解析した.
実験2-2:光学定数の算出
 実験2-1で得られた透過散乱光の分光画像データを用いて,ライトガイド先端から歯肉内部を放射状に広がる光について,ライトガイド固定用ジグの端から法線を引き,法線上の300ピクセルの分光情報を取得した.ライトガイド固定用ジグの端から離れるにしたがって減少する分光放射輝度率の実測値と,光拡散方程式を用いた理論値の差が最小となるように,最小二乗法を用いたカーブフィッティングを行い,吸収係数μαおよび散乱係数μδを算出した.得られたμα,μδについて,波長別に男女間でt検定を行った.有意水準は5%とした.なお,係数の算出に際し,ポリオキシメチレン製の立方体試料および板状試料を計測し,分光放射輝度率の実測値に対する光拡散方程式の補正を行った.

【結果および考察】
実験1.分光イメージング装置を用いた歯肉用光学特性計測装置の妥当性の検証
 反射計測について,試作装置とCM-36dGにおける分光反射率の差は,SOFで1.9〜37.8%,ESTで0.7〜15.1%,EXAで1.2〜5.5であり,全ての試料で,長波長域になるにしたがい,その値の差は大きくなる傾向を認めた.透過散乱計測に関し,長波長域の600nm,650nm,700nmでは,SOF,ESTともにライトガイド固定用ジグの端から距離が離れるにしたがい,分光放射輝度率が減少していた.ライトガイド固定用ジグの端から10mm離れた部位での分光放射輝度率は,600nmでは,SOFで13.8%,ESTで2.3%,650nmでは,SOFで26.9%,ESTで4.7%,700nmでは,SOFで29.2%,ESTで7.6%であり,ESTの方が距離による減少量が大きかった.計測波長域において,CM-36dGではESTよりSOFの分光透過率が高く,試作装置と同じ傾向を示した.また,長波長域において,両計測装置の分光反射率の差は,透過性の高いSOF,EST,EXAの順に大きかった.これは,半透明体を計測した際,計測部の境界で光の減衰が生じるエッジロス効果の影響によるものと考えられた.シリコーン材料に含んだ顔料の色調により吸収係数と散乱係数の値が異なるが,試作装置でも材料の透明性の違いを計測することができ,歯肉の透明性を非侵襲的に計測することが可能であるものと考えられた.

実験2.歯肉の光学特性の解析
実験2-1:反射光および透過散乱光の計測
 反射計測について,L*a*b*値の男女間の比較では,歯頸部,中央部,根尖部のすべての領域において,a*b*値に有意差を認めなかった.L*値に関して,中央部では男性が54.7±4.2,女性が61.7±6.3,根尖部では男性が45.4±8.3,女性が52.1±7.2と,女性の方が有意に高かったが,歯頸部では男女間で有意差を認めなかった.歯頸部領域では粘膜下に歯根が存在するため,歯根表面で光の反射が生じ,男女間の歯肉の光学特性の差を認めなかったものと考えられた.計測波長域420nm~700nmの分光反射率に関し,男性では,歯頸部,中央部,根尖部の順に高かった.一方,女性は,歯頸部と中央部に有意差は認められず,根尖部は低い結果となった.透過散乱計測について,計測対象者の全ての計測結果において,580nm以上の長波長域では,分光放射輝度率の増加が認められた.透過散乱光の減衰に関して,600nm~700nmの波長では,ライトガイド固定用ジグの端から離れるにしたがい,分光放射輝度率が減少していた.男女の平均値の比較では,ライトガイド固定用ジグの端から離れた部位における分光放射輝度率は,女性の方が高かった.距離による減少量は女性の方が小さいため,女性の歯肉の方が男性より広範囲に光が伝播しやすいものと考えられた.
実験2-2:光学定数の算出
 光拡散方程式を用いることで,吸収係数および散乱係数を算出することができた.吸収係数について,460nm〜490nmの短波長域と,530nm,550nm,570nmの中波長域では,女性の方が有意に高かった.男女ともに580nmから吸収係数は減少し,600nm-640nmの長波長域では,男性の方が有意に高かった.散乱係数について,男女ともに長波長になるにしたがい高くなった.460nm〜590nmの波長域では,女性の方が有意に高かった.

【結論】
 歯肉の審美性を考慮した補綴歯科治療を行うため,生体に侵襲を与えることなく,歯肉の光学特性を取得する手法について研究を行った結果,分光イメージング装置を応用した歯肉用光学特性計測装置を用いることで,これまで未知であった歯肉の吸収係数および散乱係数を取得することが可能となり,歯肉の光学的特徴を定量的に評価することが可能となった.以上より,審美性を考慮した補綴歯科治療を行うために有用な,歯肉の質的評価に対する知見を与えるものと考えられた.

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