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大学・研究所にある論文を検索できる 「歯肉縁下にフィニッシュラインを有する支台歯に対する新規光学印象法」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

歯肉縁下にフィニッシュラインを有する支台歯に対する新規光学印象法

西山, 貴浩 大阪大学

2021.03.24

概要

緒言
デジタルデンティストリーの普及とともに,補綴歯科治療ではCAD/CAMを用いた歯冠補綴装置が広く用いられるようになり,現在では,印象採得に口腔内スキャナーを用いた光学印象が行われるようになってきている.これまでの研究では,光学印象は,従来のシリコーンゴム印象法と同等の100μm以下の精度で印象が可能であると報告されている.しかし,歯列全体や可動粘膜部においては光学印象の精度が不足していること,歯列全体の固定性補綴装置を作製するのに十分な精度が担保されていないとされている.加えて,審美歯冠補綴治療においては,フィニッシュラインを歯肉縁下に設定することが多く,支台歯周囲の歯周組織が印象の障害となる.そのため,口腔内スキャナーで歯肉縁下の領域を光学印象することは困難とされている.そこで,テンポラリークラウンの内面に常温重合レジンを填入し,支台歯に圧接することでフィニッシュライン形態を印記し,調整を行うという作業工程に着目した.すなわち,圧接したテンポラリークラウンを用い,簡便にフィニッシュラインおよび支台歯全体を精度高く光学印象するための新規光学印象法を開発することを目的とした.まず口腔内スキャナーの計測可能領域について分析し,次いで,テンポラリークラウンのマージンから支台歯のフィニッシュラインを再現可能な新規印象法および使用材料の検討と比較,さらに,新規光学印象法によって作製した歯冠補綴装置の適合性を評価した.

材料と方法
実験1.口腔内スキャナーの計測可能領域の分析
実験に使用する計測用模型として,CADソフトウェア(Geomagic Free form Plus,3DSystems)を用いてフィニッシュラインの位置を歯肉縁上0.25mmから歯肉縁下1.0mmまで,0.25mm刻みで,計6種の歯型と,歯肉圧排幅として支台歯の周囲に間隙を0.0mm,0.25mm, 0.5mm計3種の歯列模型を設計し,三次元積層造形装置(Objet Eden 260VS Dental Advantage, Stratasys)で積層造形した.フィニッシュラインの位置6通り×歯肉圧排幅3通り計18通りの組み合わせが可能な副歯型式模型を口腔内スキャナー(TRIOS3,3Shape)で光学印象した.さらに,比較対照として,三次元形状計測器(SWING,DOF)を用いて6種の歯型を計測し,STLデータを取得した.口腔内スキャナーで取得した副歯型式模型のSTLデータと,比較対照として三次元形状計測器で計測した歯型のSTLデータを,リバースエンジニアリングソフトウェア(ezScan,Solutionix)に取り込んだ後,支台歯のフィニッシュラインより上部の三次元データを用い,反復最接近点法(iterative closest point法,以下ICP法)により位置合わせを行なった.そして,口腔内スキャナーで印象採得した支台歯データと,比較対照として三次元形状計測器で計測したデータにおける,フィニッシュライン近傍の表面偏差分布をカラーマッピング画像により評価した.

実験2.新規光学印象法で作成した支台歯データの再現性の評価
本実験では,フィニッシュラインが歯肉縁下0.5mm,歯肉圧排幅0.25mmの組み合わせの副歯型式模型を用いた.副歯型式模型をSWINGで計測し,セメントスペース30μm,フィニッシュラインから500μm上方にマージンを設定したテンポラリークラウンを15個作製した.圧接に先立ち,副歯型式模型の歯型に分離剤(PEARLESTE,トクヤマデンタル)を塗布した.フィニッシュラインをテンポラリークラウンに印記するための材料として,粉末と液を混和して用いる常温重合レジン(ユニファストⅢ,GC),オートミックスタイプの常温重合レジン(Luxatemp Star,DMG),およびシリコーンゴム印象材(Imprint4Light,3M)を用いた.これらの材料を余剰分が可及的に少なくなるようにテンポラリークラウンのマージン付近部に填入し,手指圧にてテンポラリークラウンを副歯型式模型に圧接,3分間保持し,硬化後に撤去した.3種の材料について,各5個ずつ,計15個のテンポラリークラウンを作製した.撤去30秒後に,TRIOS3を用いて,テンポラリークラウンのマージン部と内面,および,歯型を装着した副歯型式模型を光学印象した.3種の材料について,TRIOS3で光学印象した支台歯の三次元データとブーリアン演算処理を用いて作成した支台歯データ(陽型データ)をICP法にて位置合わせを行った.位置合わせに用いた対象領域には副歯型式模型のデータを利用し,1)フィニッシュラインより1mm上方の支台歯全体のデータ,2)口腔内スキャナーの計測深度を考慮しフィニッシュラインより1mm上方から近遠心辺縁のフィニッシュラインから5mm上方までの支台歯のデータ,の2種の領域で行った.次に,上記1),2)のうち,適合性の高かった統合方法を用い,TRIOS3で光学印象した副歯型式模型の支台歯の三次元データと,ブーリアン演算処理を用いて作成した支台歯データをICP法にて統合した.位置合わせ後は,副歯型式模型を計測して得られた支台歯データとクラウンの内面から作成した支台歯データを置換し,最終の支台歯データを作成した.3種の圧接材料で作成した支台歯データと,比較対照としてSWINGで計測,取得した歯型のSTLデータを,ICP法を用いて各支台歯部分のフィニッシュラインより上部を基準に位置合わせを行った.新規光学印象方法にて作成した支台歯データと比較対照の支台歯データとの表面偏差分布をカラーマッピング画像により評価した.

実験3.新規光学印象法で作製した歯冠補綴装置の適合評価
実験2で用いた副歯型式模型を,5個の個人トレーとシリコーンゴム印象材(EXAMIXFINE,GC)で印象採得して作製した超硬石膏製歯列模型をSWINGで計測し,石膏支台歯の三次元データを取得した.ついで,実験2と同様に,Luxatemp Starを用いて圧接したテンポラリークラウンから,支台歯の三次元データを作成した.Dental Systemを用いて,両データからフルカントゥアのジルコニアクラウンを各5個作製し,シリコーンレプリカ法を用いて両方法で作製したクラウンと支台歯との間隙量を測定した.各試料の辺縁唇側部,辺縁舌側部,辺縁近心部,辺縁遠心部,軸面唇側部,軸面舌側部,軸面近心部,軸面遠心部の計測点8点の中央値,標準偏差を求め,両印象法における間隙量の差について,Mann-WhitneyU検定を行った.統計処理には統計解析ソフト(MicrosoftExcel2016/XLSTAT,Addinsoft)を用い,有意水準5%とした.

結果および考察
実験1.口腔内スキャナーの計測可能領域の分析
歯肉圧排幅にかかわらず,歯肉縁下0.25mmに設定したフィニッシュラインは計測可能であった.歯肉縁下0.5mm,0.75mm,1.0mmの位置に設定した模型では,歯肉圧排幅が0.0mm,0.25mmでは計測できない領域を認めた.本実験で用いた口腔内スキャナーは,高速で撮影した静止画をつなぎ合わせて三次元データを構築するため,歯肉圧排幅が少なく,歯肉により視認が困難な領域は正確な計測ができなかったものと考えられた.

実験2.新規光学印象法で作成した支台歯データの再現性の評価
支台歯全体のデータで統合した場合,ショルダーやフィニッシュライン部において,ユニファストⅢでは比較対照の支台歯データと100μm以上の差を示す箇所を認めた.Luxatemp StarとImprint 4 Lightでは比較対照の支台歯データとの差は,40μmの範囲内であった.一方,唇舌側のフィニッシュラインから5mm上方までのデータを用いて統合した場合では,カラーマッピング画像から,支台歯全体で統合するよりも比較対照の支台歯データと一致している領域が多かったため,ブーリアン演算を用いて支台歯データを作成する方法を確立した.データの統合に関して,材料としては,Luxatemp StarおよびImprint 4 Lightが,統合のための位置合わせにはフィニッシュラインから5mm上方までの支台歯のデータを用いるのが望ましいと考えられた.

実験3.新規光学印象法で作製した歯冠補綴装置の適合評価
シリコーンレプリカ法でジルコニアクラウンと支台歯との間隙量を測定した結果,新規光学印象法とシリコーンゴム印象法において,中央値(標準偏差)は辺縁唇側部で60μm(13μm),54μm(13μm),辺縁舌側部で60μm(12μm),68μm(16μm),辺縁近心部で65μm(19μm),64μm(14μm),辺縁遠心部で78μm(13μm),62μm(21μm),軸面唇側部で50μm(14μm),64μm(15μm),軸面舌側部で90μm(22μm),90μm(16μm),軸面近心部で38μm(16μm),61μm(19μm),軸面遠心部で74μm(19μm),51μm(14μm)であった.新規光学印象法とシリコーンゴム印象法との間隙量の差について検定した結果,8点の計測点におけるP値は,辺縁唇側部は0.146,辺縁舌側部は0.667,辺縁近心部は0.897,辺縁遠心部は0.722,軸面唇側部は0.276,軸面舌側部は0.579,軸面近心部は0.278,軸面遠心部は0.143であり,8点全てにおいて有意差を認めなかった.両方法で作製したジルコニアクラウンの辺縁部間隙量は100μm以下であったため,作製したジルコニアクラウンの適合は,臨床的に許容できる範囲内と考えられた.

結論
審美性の高い歯冠補綴治療を行うため,フィニッシュラインの位置が歯肉縁下に設定された支台歯に対する新規光学印象法について検討した結果,テンポラリークラウン圧接後の内面のデータを用いることで,臨床的に許容できる適合精度を有する歯冠補綴装置作製が可能となった.以上より,本研究で開発した新規光学印象法は,審美歯冠補綴治療における新たな光学印象法として有用であるものと考えられた.

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